ボンクラ婚約者の愛人でぶりっ子な悪役令嬢が雇った殺し屋に、何故か溺愛されていました

蓮恭

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22. 不穏な噂が流れています

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「何も考えていないなんて、理性的なエレノアらしくないわね。珍しいこと。」
「そうかも知れないわね。でも、そんなこと考えてなかったの。思えば、好きだって伝えたのも衝動的だったわ。」

 そんなこと、今までの私ならあり得ないことだったはず。

「エレノア、本気なのね。貴女はとても理性的で、いつも家族のために我慢していたから心配していたの。自分の為に何かすることと言えば、『お忍びスタイル』くらいだったしね。そのくらいの我儘があったほうがきっと人生楽しいわ!」

 シアーラは笑って私を抱きしめました。
 彼女は私のことを理解してくれて、そしてどんな時でも応援してくれる貴重な存在なのです。

「シアーラはご両親の持つ商会の一つを継ぐという夢があるものね。自立している御令嬢なんて、まだまだこの国には少ないもの。そんな貴女を心から尊敬しているわ。私が万が一侯爵家を出て行かなければならなくなった時は貴女の商会で働かせてもらうわね。」

 二人で抱きしめ合ったまま、クスクス笑って冗談を言い合えることがとても嬉しかったのです。



 シアーラと二人で教室へと向かっていると、廊下の向こうからドロシー嬢がお一人で歩いてくるのが見えました。
 御令嬢方はドロシー嬢と距離を置いているので、大概はジョシュア様と過ごしています。
 ジョシュア様がいらっしゃらない時は取り巻きの男子生徒と一緒にいることが多いのですが、今日は珍しくお一人のようなのです。

「あら、ドロシー嬢。今日は珍しくお一人なんですのね。」

 シアーラがわざと高飛車な風にドロシー嬢に声をかけます。

「あらぁ、エレノア様。先日の夜会で具合が悪くなったようでしたけど、もう大丈夫ですの?」
「少し人に酔っただけでしたので大丈夫ですわ。」
「ふうん……。」

 つまらなさそうに返事をしたドロシー嬢は、それ以上私に何か言うこともなく去って行ったのです。

「どうしたのかしらね?取り巻きもいないし、珍しい。」
「さあ?ジョシュア様も今日はお休みかしら?」

 二人で首を傾げながら午後の授業も無事終えたのでした。



「ねえ、皆さまお聞きになった?ドロシー嬢のウワサ。」
「ドロシー嬢?どうなさったの?」
「あの方、本来はどうやら御令嬢らしからぬ方らしいわよ。おかしいと思ったのよ。だってあの方、どう見ても同い年には見えないじゃない?」
「まあ、確かに時々話が合わない時もあったわ。それに時々感じたお肌の衰えは気になっていたわ。」
「実は私たちより十は年上なんですってよ。」
「ええっ?……ということは二十七?どうしてそのようなお方がこの学院に?」
「プライヤー伯爵がかなりこの学院に寄付をしているらしいですし、お金とコネさえあれば戸籍など何とでもできるじゃない。」
「それじゃあもしかして伯爵の情婦でもなさっているのかしらね。」

 そして放課後、教室中がドロシー嬢の当たらずとも遠からずというか、ほぼ当たりのお話をなさっているのです。

「エレノア、どういうことかしら?誰かがドロシー嬢の秘密をリークしたっていうこと?」
「分からないわ。あれだけ夜会でも派手に振る舞っていらっしゃったからどなたかお知り合いがいて、そこから話が広がったのかもしれないわ。」

 あの日の夜会ではジョシュア様という知られたお顔の方とあのように台風ダンスを踊ったドロシー嬢を、彼女を知る人が見ていてもおかしくはないでしょう。

「ジョシュア様もお休みみたいだし、何もなければいいけど……。エレノア、貴女も気をつけてね。なんだか気味が悪いわ。」

 学院全体の不穏な雰囲気と、ドロシー嬢の普段にはない大人しい態度にシアーラはどこか不安を感じているようです。

「分かったわ。気をつけるわね。また明日、シアーラ。」

 
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