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20. ディーンお兄様、鋭すぎますわ
しおりを挟む「エレノア。」
「はい、お兄様。」
朝食を終えて自室へ戻ろうとしていたところをディーンお兄様から呼び止められました。
「今までも、随分我慢していたのか?主には陛下の元で勤める私や父上、それに騎士団のエドガーに迷惑がかかると思って辛い思いに耐えていたんだろう。気づいてやれずにすまなかった。」
「いいえ、私が勝手にしたことです。お兄様たちのお力を侮ったわけではなかったのですが、心配をかけたくなくて……。ごめんなさい。」
優しいディーンお兄様は私のことを思って、気づかなかったご自分が悪いと謝るのです。
私が今まで必死に演じてきたことは逆に家族を傷付けてしまったのかもしれません。
もっと早く相談していれば、婚約者とその愛人から殺されそうになることも無かったのかもしれないと思うとやりきれないですが、結局は自分が意地を張った結果なのでしょう。
「ところで、具体的にはどのようなことでエレノアは心を痛めているのか、このディーン兄様に教えてくれないか?」
どこまで話したらいいのかしら。
ドロシー嬢のこと?それとも社交界での私の振る舞いのこと?私を愛人と共謀して殺そうとしたことについてはさすがに話せないわ。
「実はジョシュア様には私ではなく、他に婚約を望む方がいらっしゃるのです。その方とは相思相愛で、愛し合ってらっしゃるようですわ。」
「それはどこのどいつだ?」
いつも冷静なディーンお兄様のお声が少し低くなったような気がいたします。
「スタージェス学院第二学年に編入してきたドロシー・ケイ・プライヤー伯爵令嬢ですわ。」
「プライヤー伯爵令嬢……。それで、学院内ではエレノアがその二人に虐げられているというのか?」
「虐げられているというか、ただお二人が仲睦まじい様子を隠すことなく周囲にお見せになるものですから、婚約者である私は困ってしまっただけなのです。学院内には、ジョシュア様に進言できるような地位の方はいらっしゃいませんし。」
そうなのです。
隠して不義をなさっていらっしゃればまだ良かったのですが。
あのように目立つことをなさればいつか学院外にも噂は漏れてしまいます。
そのようなことをお考えになる方ではないところがとても残念なのですわ。
「ほう。あの頼りないとばかり思っていた坊っちゃん令息は、随分と大胆なことをするようになっていたんだな。幼い頃は男のくせにエドガーから逃げたりして情けない奴だとは思っていたが、それもエレノアに対してはきっと優しいところがあるのだろうと思っていたが。そのようなど阿呆だったとはな。」
ど阿呆……。
お兄様は、紫目を鋭く光らせて苛立ったように胸の前で組んだ腕を組み替えました。
「それに、確かプライヤー伯爵には子どもはいなかったと記憶しているが。」
「最近ドロシー嬢を養子になさったようです。」
「あのいかがわしい噂の絶えない伯爵が、何の利もなく養子など組むだろうか。大方、歳の離れた情婦か何かではないのか。」
「ど、どうでしょうか?そこまでは……。」
さすが頭脳明晰なディーンお兄様。
事実を知ってもなお信じられない気持ちの私とは裏腹に、そこまで予想されるとは天晴れです。
「そうだとしたら、馬鹿にするのもほどがあるな。この国でアルウィン侯爵家を敵に回して無事にすむと思っているとは。あの坊っちゃん令息もエレノアの純粋で崇高な本来の美しさに気づかず、大方下品な色仕掛けで迫られたんだろう。救いようのない大馬鹿だな。」
鋭い、鋭すぎます。
やはり国の中枢を担うほどの人材ともなれば、そこまで予想がつくものなのですか。
「国王陛下はとても人柄は良いお方で王弟殿下も然りだが、王弟殿下は嫡男の育て方を間違えたな。国王陛下も、可愛い甥っ子だからと甘やかした結果がこれだ。父上がいなければこの国の政務は成り立たないと言われるのも致し方ないことだ。」
一歩間違えれば不敬罪とも取られる発言ですが、ディーンお兄様は珍しくお怒りの様子を隠すこともなく延々と言葉を並べられています。
「父上と、ディーンお兄様はやはり素晴らしいのですね。お二人がいらっしゃらなければ、国政も滞ってしまうでしょう。私、とても鼻が高いんですのよ。」
お母様の得意技のように花が綻ぶような微笑みを浮かべると、ディーンお兄様はやっと表情を緩めてくださいました。
「そうか?確かに父上はすごいお方だ。私も父上に肩を並べられるように日々精進しているところだよ。長々と話して悪かったね。気をつけて学院へ行くんだよ。もし何かあればすぐに兄様に言いなさい。あと、その手はきちんと手当しておくようにね。」
「はい、ディーンお兄様もお勤め頑張ってくださいね。ありがとうございました。」
さすがお兄様、隠していた手のこともバレてしまったわ。
ディーンお兄様と別れた私は、またあの『ボンクラポンコツ坊っちゃん令息』とドロシー嬢のいる学院へと向かうために自室で支度をしたのです。
いつもは控えめな化粧も髪形も、今日は侯爵令嬢らしく華やかに装いました。
「もう、私はジョシュア様に遠慮なんかしませんから。さあ、二人は今日どのように出るかしら?」
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