34 / 34
34. いつまでもお若いです
しおりを挟む仲が良くいつも一緒だった双子たちは成長し、別々の道を歩むことになった。
「Ave Maria, gratia plena,
Dominus tecum,
benedicta tu in mulieribus,
et benedictus fructus ventris tui Jesus.
Sancta Maria mater Dei,
ora pro nobis peccatoribus,
nunc, et in hora mortis nostrae. Amen」
青白い炎が悪霊を包み込み、耳をつんざくような断末魔の叫びと共に強制的に永遠の地獄へ送り込んだ。
姉のアリエルは上級聖職者の司祭となったが、心配性の母には内緒で各地の悪霊たちを祓うエクソシストとしても活躍している。
一方で弟のラファエルは父と同じ騎士の道へと進み、今では騎士隊長としてミカエル騎士団長を支えている。
剣の腕はミカエルの血を引き継いでおり、厳しい稽古を課す父に負けじと対抗してめきめきと上達しているという。
「騎士団長、久々に手合わせお願いします」
「いいだろう」
騎士団駐屯地の訓練場で二人が揃えば、ミカエル騎士団長とラファエル騎士隊長の切り結ぶ姿が見られると、職務をそっちのけで騎士たちが見物に集まるほどの両者圧巻の剣技であった。
「マリア、リュシエンヌは最近体調が優れないのか? 顔色が悪いように見えるが」
ファブリスは近ごろ青白い顔をしていることも増えたリュシエンヌを心配し、普段リュシエンヌに付きっきりのマリアへと問うた。
リュシエンヌは四十をとっくに過ぎた歳となっていたが、若々しい美貌は昔と変わらないように見えた。
「実はね、ミカエルがやらかしたみたいよ」
「なになにー? ミカエルがやらかすって珍しいね。もしかして不貞とか?」
「まさか! エミール、そんなこと言うならミカエルに言いつけるわよ」
「マリア、勿体ぶらずに我に教えろ」
笑いを噛み殺すマリアに業を煮やしたファブリスは低い声と鋭い視線で答えを促した。
「三人目よ、三人目。ヤンチャな双子たちのお世話は大変だったからね、ミカエルもリュシエンヌを慮って三人目は作らないって言ってたくせに」
「はあー……。また僕の子守が始まるのか。それにしても、リュシエンヌがいくら若々しいからってミカエルの執着にはビックリだよね」
「なんだ。我はもしやリュシエンヌの体が悪いのかと懸念したではないか」
ファブリスはリュシエンヌが悪い病などではないと知り、心底安堵したのだった。
これほど長年傍で見守っていれば幽霊と人という違いを跳ね除け、まるで家族のように思えるのである。
「ほら、見てよ! またくっついてる! 僕なんか最近リュシエンヌに近寄るだけでミカエルから害虫を見るような目で睨まれるっていうのに!」
「それはエミールがリュシエンヌの寝台に潜り込んだり抱きついたりするからでしょう。本当に命知らずね」
「そろそろリュシエンヌの知らないところでミカエルに祓われてもおかしくはないな。エミール、今までご苦労であった」
「やめてよ! 僕は三人目の子守をしなきゃならないんだから」
ギャーギャーと話す幽霊たちの声はミカエルには筒抜けであったが、なんだかんだで憎めない幽霊たち(主に悪いのはエミールだが)を祓うつもりはない。
三人目が生まれたらまた子守でもしてもらって、リュシエンヌが少しでも楽になれば良いと考えていた。
「ミカエル様、幽霊たちが何か騒いでいますね」
「気にするな。我々の三人目の子が生まれることを楽しみにしているらしい」
「そうなのですか。……この歳でまさか子ができるなどと思わなかったので嬉しいです」
そう言ってはにかむ笑顔を浮かべた愛妻に、ミカエルは昔と変わらぬ熱い視線を送り耳元で囁いた。
「悪かったな。それでも、リュシエンヌはいつまでも若く美しい。そんなリュシエンヌを私が毎夜手放せなくとも仕方のないことだ。暫くは抱擁で我慢するが、時期が過ぎればまた……」
リュシエンヌは未だ整った美貌が健在のミカエルが、このように毎日自分への愛を囁くものだから、その都度頬を染めていた。
そしてそれでも結局はコクンと頷くのであった。
58
お気に入りに追加
2,656
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(24件)
あなたにおすすめの小説
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~
犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…
婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?
もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。
王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト
悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。
光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。
最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。
たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。
地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。
天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね――――
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ああっ、最後まで読んだらちゃんと幽霊たち縛りがあったのね!マリア実はとんでもなかった!
妹ちゃんの方が業が強かったのか~。
ミカエルさん最強だった。見えて話せるだけじゃヤバイもんね。
里見知美様
感想ありがとうございます❀.(*´◡`*)❀.
この作品は初期のもので、今思えば結構えげつない設定もあったなぁと思い返しております。
霊たちは悪人、悪霊と言われても仕方がないくらい悪い事もしてるんですが、懐に入れた者に対しての甘さみたいなギャップが結構気に入っていました。
お読みいただきありがとうございました!感想大変励みになりました
この幽霊3人組、悪霊なのでは…?マリアはそうでもないけど、エミールヤヴァイ気がする。
お伝えするのを忘れましたが、返金に関するツイートは入金ご確認のご連絡いただき次第削除致します。アルファ経由にてご連絡願います。