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30. 覗きは厳禁
しおりを挟む今日ばかりは幽霊たちも二人の部屋には入ることはなかったし、覗くこともしなかった。
「ファブリス、ちょっとだけ覗きに行こうよ」
エミールは新しい邸宅の庭から、リュシエンヌとミカエルの部屋の方を見上げた。
「エミール、やめておけ。お前がまだリュシエンヌと共に過ごしたいならな。あの毒婦の二の舞になりたくはないだろう?」
「まあ確かに……。ちょっとあれは嫌だなあ。だってああなったら強制的に永遠の地獄へ向かうんでしょ? さすがに僕もあそこへ行くくらいなら、ずっとここら辺で彷徨ってる方がいいよ」
ファブリスの言葉にエミールはポーレットの最期を思い出していた。
あの日ポーレットを階段から突き落として殺害した時、ポーレットは他の未練を残した幽霊たちのように幽霊となった。
そしてリュシエンヌに対する激しい憎悪を滾らせたポーレットは悪霊となったのだった。
教会で手続きを終えて伯爵家へと戻り、伯爵と話をしていて気が逸れていたリュシエンヌに、まさにポーレットの悪霊は襲いかかろうとしていたのである。
しかし悲劇は起こらなかった。
ポーレットが幽霊たちによって殺害され、この世への未練を残して悪霊となることを知っていたミカエルはリュシエンヌに気付かれないようにポーレットの悪霊を躊躇うことなく祓ったのだった。
「ミカエルは我らの友ではあるが、いつでも我らを祓えるのだからな。特にリュシエンヌのことが絡むとミカエルは加減が効かんから、我らとて例外ではないぞ」
「そうだよねー。そう言えば初めてミカエルに会った時に、『もう自分の快楽の為だけに他人を害しません』って約束して祓うのをやめてもらったんだった。すっかり忘れてたよ」
エミールはクルクルの金髪巻毛に指を絡ませて唇を尖らせた。
「約束を違えれば、我らをもミカエルは祓うだろう。我らとて生前は随分と罪深いことをしてきたのだからな。我らが出会ったのはまだ幼き頃のミカエルで、たまたま特別な力を厭うミカエルの友となったから成り行きで慈悲を与えられたに過ぎん」
「……っていうか、ファブリスはミカエルの祖先なんだよね? ミカエルって王族だし、しかもエクソシストだなんて天は二物も三物も与えすぎだよね」
「だが、ミカエルはそのような力は望んでいなかった。それどころか物心ついた時から見える幽霊が疎ましく、その力を持って生まれた自分を恨むほどであったぞ」
エクソシストとして人知れず害を及ぼす悪霊を祓いながら、それでも誰にも理解できぬ力に孤独を感じていたミカエル。
初めてリュシエンヌと会ったあの日、ミカエルはこれは運命だと感じたのだった。
幽霊が見えるリュシエンヌ、そしてリュシエンヌは自分が疎ましいとさえ思った幽霊を厭わず、怖がることなく向き合ってくれる心優しい娘だと知りそしてその優しさに孤独を癒やされたのだ。
そんなリュシエンヌのことをミカエルは何よりも大切に思い、それを害する者に対しては容赦しないであろう。
「僕だってまだ祓われるのは嫌だし、暫くは邪魔しないでおこうっと」
「それが良い」
エミールとファブリスはそう言って姿を消した。
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