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29. 蜜月
しおりを挟むその後、リュシエンヌとミカエルの婚姻の儀も無事に終わった。
あの日ダイアナは右足の小指を骨折し、あまりの激痛に婚姻の儀への参加を辞退しようとしたが、伯爵がそれを良しとしなかったので無理矢理足を石膏で固めて参加した。
幸い足元はドレスで隠れていたので、黙っていれば気づく者はいなかったが脂汗を浮かべて激痛に堪えるダイアナを見て、また幽霊たちは滑稽だと笑うのだった。
参加者たちが去った大聖堂で、リュシエンヌは一人美しいステンドガラスを見つめていた。
義母と義姉と一緒に選んだ花嫁衣装はリュシエンヌの美しさを引き立てて、ミカエルの髪色と同じ銀糸の刺繍は見事であった。
ミカエルの瞳と同じアメジストの宝飾品はこの国で一番の逸品で、参加者たちはリュシエンヌへの愛の深さと執着を知った。
「お嬢様。今日はとてもお美しゅうございました。私はお嬢様が幸せな花嫁となり、素晴らしい伴侶とともに歩んでいかれることを何よりも望んでおりました」
「ローラン……。貴方の心残りはなくなったの?」
リュシエンヌはそう聞いたが、ローランが答えなくとも分かっていた。
ローランの身体は小さな金色の光の粒に包まれて、徐々にそのシルエットは薄れてきていたのだ。
「はい。もう心残りはございません」
「ローラン、とうとう天国へ行くのね。今まで本当にありがとう。貴方は私の大切な家族よ」
「お嬢様、ミカエル様とお幸せになられますように私はずっと見守っております」
笑顔のローランは段々と薄くなり、もはや金の粒が集まったモヤのような状態となっている。
「さようなら、ローラン。ありがとう」
花嫁衣装のリュシエンヌは温かな雫が頬に流れ落ちてそれがドレスにシミを作ったが、止めることはできなかった。
そうして暫く切ない別れに涙を流したら、リュシエンヌは口元にゆるゆると弧を描いた。
「ローラン、心配いらないわ。私は幸せよ」
リュシエンヌはハンカチでそっと涙を拭った。
これからは頼れるローランはもう居ない。
だが愛するミカエルや家族、そして幽霊たちが自分を支えてくれるのだ。
ローランとの別れを済ませたリュシエンヌは花嫁衣装を翻し、大聖堂の扉を開けた。
そこには、正装を身に纏ったミカエルが待っていて、ローランとの別れを終えたリュシエンヌをそっと抱きしめたのであった。
「ミカエル様、ローランはとても綺麗な金色の粒に包まれて天国へ昇って行ったのです。きっと、天国はとても美しいところなのでしょうね」
初夜を迎えるリュシエンヌとミカエルは、薔薇の香りの漂う夫婦の部屋で蜂蜜酒を飲んでいた。
この邸宅は騎士団駐屯地からほど近い場所にミカエルが新たに用意したもので、リュシエンヌと二人で蜜月を過ごす為に居心地の良い部屋を準備させたのだった。
「そうだろうな。天国とはローランのような善き死者が行くところだからそれは美しいところだろう」
「ミカエル様、ポーレットは幽霊にならなかったのでしょうか? 私、少し心配だったのですが……。私の身の回りはファブリスやマリア、エミールが守ってくれているから他の者は悪さはしないでしょうが、ポーレットの幽霊は私のことを憎んでいるでしょうね」
憂いを帯びた表情のリュシエンヌに、ミカエルは安心させるように答えた。
「リュシエンヌ、ポーレットはもうこの世には居ない。幽霊としてでも存在しない。彼女は罪深過ぎた。今頃永遠の地獄で罪を償っていることだろう」
「そうですか……」
心苦しくもしかし安堵した表情のリュシエンヌをミカエルは抱きしめてその耳元で囁いた。
「リュシエンヌ、愛している。私はこれからずっと貴女を守ろう」
「ミカエル様……。私も愛しています」
ミカエルは蜂蜜の香りのするリュシエンヌの唇に口づけを落とし、美しいプラチナブロンドの髪をそっとその手で梳いた。
そうしてホウッと熱い吐息を吐いたリュシエンヌを抱き上げて、夫婦の寝台へとゆっくり下ろした。
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