27 / 34
27. 呪われたネックレス
しおりを挟む「リュシエンヌ、とても美しいわ。貴女のような娘ができるなんて、私は幸せね。ねえ、マルグリッドもこんな可愛らしい妹ができて良かったわね」
「本当に。リュシエンヌさん、私のような姉で頼りないかも知れないけれど、これからは色々と決めなければならないこともたくさんあることだし、何でも聞いてね」
今日はリュシエンヌの花嫁衣装の仮縫いに仕立て屋がペトラ家へと来ていた。
リュシエンヌが身につけた花嫁衣装は、ミカエルの母と兄嫁であるマルグリッドがリュシエンヌと一緒に選んだもので、三人はまるで本当の親子と姉妹のように仲が良かった。
「お義母様、お義姉様ありがとうございます。私は本当に幸せ者です」
リュシエンヌは、義母と義姉の明るくて穏やかな性格にとても救われた。
ポーレットが亡くなり、マルクは牢に入れられた。
リュシエンヌは身近な人間が相次いでそのようなことになり、少し気落ちしていたところもあったのだ。
二人から辛い思いをさせられたことは事実だが、それでもリュシエンヌは優しい娘だった。
この明るい二人がいなければ婚姻の準備もなかなか進めることが出来なかったかもしれない。
仮縫いも終わり三人でお茶をしていた時に、義母は言おうか言わまいか考えた末に心を決めた様子でリュシエンヌに声を掛けた。
「ねえ、リュシエンヌのいつも身に着けているそのネックレス……もしかしてミカエルが?」
リュシエンヌが身に付けている水晶のネックレスを指差して言ったのだった。
「はい。もう随分と前に頂いたものです」
「それのことをミカエルは何と?」
リュシエンヌは幽霊の話を義母にしても良いのかと思案した。
ミカエルが幽霊を見えることを家族に話しているかどうか未だ聞いていなかったからである。
「……古い枢機卿が作られたものだとお聞きしました」
「……リュシエンヌ、それはね我が家に古くから伝わるもので幽霊が見える呪われたネックレスなの。どうしてミカエルはそんな物を貴女に渡したのかしら?」
身に付けると幽霊が見えるようになるこのネックレスは『呪われたネックレス』だと義母は言う。
「リュシエンヌにも私の友である幽霊たちを紹介したかったからですよ」
その時いつの間にか部屋に入って来ていたミカエルが義母の疑問に答えた。
そしてミカエルはリュシエンヌの背後から彼女を抱きすくめ、そのプラチナブロンドに頬を寄せた。
「貴方、リュシエンヌに幽霊たちを見せたのね。リュシエンヌ、怖かったでしょう?」
義母はそんなミカエルを軽く睨みつけ、リュシエンヌを労るように言った。
リュシエンヌはミカエルの家族が幽霊のことを知っていることが分かりホッと胸を撫で下ろした。
このまま曖昧にネックレスのことを誤魔化すことは自分にはできそうもなかったから、ミカエルが現れてくれて安堵したのである。
「私は幽霊たちのことをちっとも怖いとは思いません。皆さんとても良くしてくださるのです」
それを聞いた義母は目を瞠って驚きの声を上げた。
「え? そうなの? 私なんかとても恐ろしいわ。ミカエルが幼い頃にね、『幽霊がいる』って何度も話したから屋敷中に聖水を吹き付けたの。そうしたらそこら中の物が飛んだり割れたりして大変なことになったのよ」
義母は幽霊の話を幼いミカエルから聞いて、我が子を守ろうと自分なりに何とかしようと思ったようだ。
しかし、それに怒った幽霊たちが怪奇現象を起こしたと言う。
「母上、私は心配いらないと言ったにも関わらずそこら中に聖水を吹き付けるから幽霊たちは悪戯したのですよ。特に悪さをするものはこの屋敷には居ませんから大丈夫だと言ったのに」
「だって、私は昔から暗いところと怖いものが苦手なのよ」
大袈裟に震える仕草をする義母を、呆れた様子で見つめるミカエルはリュシエンヌの方へと目を向けた。
「リュシエンヌは幽霊が見えるネックレスのことを喜んでくれたのです。私の見ている世界を共に見て理解してくれる稀有な女性なのですよ」
ミカエルは熱い視線をリュシエンヌに送ったまま、母に向かってそう言った。
「そうなのね。私の大切な息子が素敵な伴侶を見つけられて、本当に良かったわ」
穏やかな笑みを浮かべる義母の後ろで、エミールがおかしな顔をして舌を出しているのが見えて、リュシエンヌとミカエルは揃ってフッと吹き出した。
38
お気に入りに追加
2,654
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
政略結婚だと思っていたのに、将軍閣下は歌姫兼業王女を溺愛してきます
蓮恭
恋愛
――エリザベート王女の声は呪いの声。『白の王妃』が亡くなったのも、呪いの声を持つ王女を産んだから。あの嗄れた声を聞いたら最後、死んでしまう。ーー
母親である白の王妃ことコルネリアが亡くなった際、そんな風に言われて口を聞く事を禁じられたアルント王国の王女、エリザベートは口が聞けない人形姫と呼ばれている。
しかしエリザベートの声はただの掠れた声(ハスキーボイス)というだけで、呪いの声などでは無かった。
普段から城の別棟に軟禁状態のエリザベートは、時折城を抜け出して幼馴染であり乳兄妹のワルターが座長を務める旅芸人の一座で歌を歌い、銀髪の歌姫として人気を博していた。
そんな中、隣国の英雄でアルント王国の危機をも救ってくれた将軍アルフレートとエリザベートとの政略結婚の話が持ち上がる。
エリザベートを想う幼馴染乳兄妹のワルターをはじめ、妙に距離が近い謎多き美丈夫ガーラン、そして政略結婚の相手で無骨な武人アルフレート将軍など様々なタイプのイケメンが登場。
意地悪な継母王妃にその娘王女達も大概意地悪ですが、何故かエリザベートに悪意を持つ悪役令嬢軍人(?)のレネ様にも注目です。
◆小説家になろうにも掲載中です
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
悪役令嬢に転生して主人公のメイン攻略キャラである王太子殿下に婚約破棄されましたので、張り切って推しキャラ攻略いたしますわ
奏音 美都
恋愛
私、アンソワーヌは婚約者であったドリュー子爵の爵士であるフィオナンテ様がソフィア嬢に心奪われて婚約破棄され、傷心……
いいえ、これでようやく推しキャラのアルモンド様を攻略することができますわ!
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~
犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…
婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~
tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。
ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。
母が病気で亡くなり父と継母と義姉に虐げられる。幼馴染の王子に溺愛され結婚相手に選ばれたら家族の態度が変わった。
window
恋愛
最愛の母モニカかが病気で生涯を終える。娘の公爵令嬢アイシャは母との約束を守り、あたたかい思いやりの心を持つ子に育った。
そんな中、父ジェラールが再婚する。継母のバーバラは美しい顔をしていますが性格は悪く、娘のルージュも見た目は可愛いですが性格はひどいものでした。
バーバラと義姉は意地のわるそうな薄笑いを浮かべて、アイシャを虐げるようになる。肉親の父も助けてくれなくて実子のアイシャに冷たい視線を向け始める。
逆に継母の連れ子には甘い顔を見せて溺愛ぶりは常軌を逸していた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる