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24. マルクの行く末

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「リュシエンヌ! リュシエンヌに会わせてくれ!」

 クレメンティー伯爵邸の玄関前で、マルクは使用人たちに抑えられながら叫んでいた。

「マルク殿、のリュシエンヌに何用ですかな?」
「伯爵! どういうことだ? 俺とリュシエンヌの婚約破棄などと、何故だ!」

 伯爵はポーレットが儚くなってからというもの、リュシエンヌとの時間を大切にする為に邸に帰ることも増えた。
 今日は勤めは休みで邸に在宅であったのだ。

「マルク殿、貴方は死んだポーレットと不貞を働いていたらしいですね。それに、他にも愛人が多くいらっしゃるとか。そのような輩にリュシエンヌはやれません。それに、リュシエンヌのことを心から愛してくださる方が現れましたのでな」
「なんだと?」
「リュシエンヌは既に新たな婚約者がおります。お引き取りを」

 マルクは婚約破棄をされたことは理解していても、まさかリュシエンヌが再度他の男と婚約を結んでいるとは思いもよらず、驚いて言葉を失った。

「……ま、待て!」

 使用人たちに門の外へと追い出されたマルクは、呆然としながらも考えた。

「リュシエンヌの新たな婚約者とは一体……」

 マルクが門の外に待たせてある侯爵家の馬車の方へと歩いて行こうとしたところで、ペトラ公爵家の馬車がマルクの傍で停まった。

「ミカエル騎士団長?」
「ああ、パンザか」
「ミカエル団長! 先日の婚約破棄の書類のことでお話があります。何故あのようなことを? あれから騎士団長は騎士団駐屯地でお見かけしませんし、理由をお聞かせ願いたい。自分は団長に尽くしてきましたのに、酷いではないですか!」

 マルクはミカエルがリュシエンヌの婚約者であるとは夢にも思っておらず、少しばかり不機嫌さを隠せない口調で話しかけた。

「まだ知らなかったのか。リュシエンヌ嬢とは私が婚約を結ぶことになったんだ。パンザが彼女を紹介してくれたお陰で私は良い伴侶に巡り会えた。それについては感謝しよう」
「は?」
「パンザは婚約者も居ない私の為に、素晴らしい伴侶を見つけてくれたのだろう? わざわざ何度も話す機会を作ったりと、実に大義であった。それでは、今からリュシエンヌ嬢を我が家に招待するので失礼するよ。あ、それとお前に騎士団からの出頭命令が出ていたぞ。早いうちに出頭した方が罪が軽い。早めに向かえ」

 口を開いたままでポカンとした間抜け面を晒したマルクを放置して、ミカエルは伯爵邸へと入って行った。

「これはこれはミカエル騎士団長。ようこそいらっしゃいました。リュシエンヌが首を長くしてお待ちしておりますよ」

 伯爵邸からはわざとらしいほどに大きな伯爵の声が聞こえてくる。

 マルクはリュシエンヌという有望な婿入り先を失い、何故か勤め先でもある騎士団から出頭命令まで出ているとミカエルは言う。
 訳も分からないまま、勤め先である騎士団駐屯地へ向かうとすぐに同僚であるはずの騎士たちに取り囲まれた。

「マルク・ル・パンザ! お前にはリュシエンヌ・ド・クレメンティー伯爵令嬢の殺害を、ポーレット・ド・クレメンティーと共謀した罪で逮捕状が出ている」
「は……? 何のことだか分かりません! 自分は何も知りません!」
「とぼけたって無駄だ。お前とやり取りをしていたポーレット・ド・クレメンティーの手紙が証拠として出てきている。お前の元婚約者であるリュシエンヌ・ド・クレメンティー嬢が邪魔だと、消してやろうかと頻繁に二人でやりとりしているではないか」
「それは……! 離してください! 離せ……ッ!」

 マルクとポーレットは手紙のやり取りをした際に、火遊びのちょっとしたスパイスつもりで『リュシエンヌが邪魔だ』とか『消してやろう』などと言って楽しんでいたのだ。

 そうしてマルクは即時逮捕され、のちに裁判にかけられることとなった。
 
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