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23. さよならポーレット
しおりを挟む「お父様!」
「リュシエンヌ……。ミカエル騎士団長、無事手続きは終わりましたか?」
「はい。リュシエンヌ嬢との婚約申請も無事終わりました。ポーレット嬢が不慮の事故で亡くなられたと部下から聞きましたが」
伯爵は憔悴しきった様子ではあったが、リュシエンヌの顔を見てホッとした表情を見せた。
「はい……。階段から落ちて亡くなりました。今、騎士団の方が来られて手続きと後処理を」
「そうですか。残念です」
「お父様、お母様も大丈夫なの?」
「リュシエンヌとミカエル騎士団長のよき日にこのようなことになり申し訳ない。リュシエンヌ、ダイアナは部屋で休んでいるよ。私は大丈夫だ」
伯爵は家令ローランの死の真相も、ポーレットの遺体の傍にあったローランのメッセージも決して話すことはなかった。
ポーレットの遺体は騎士団が検分し、事件性はないとのことで翌日葬儀が行われた。
「リュシエンヌ、今まで悪かったわ。貴女には良き母ではなかったことを是非謝りたいの。許してくれるかしら?」
葬儀が終わって、ポーレットの眠る墓地の前でいち早くダイアナはリュシエンヌに謝罪した。
目の前で娘があのような死に方をしたのだ。
リュシエンヌを蔑ろにすれば、次は自分も同じような目に遭うかもしれないと恐れていた。
「お母様、ポーレットが亡くなってまだお寂しいところでしょう。私はいつか伯爵家を出て行くことになるとは思いますが、その時にはお父様のことをお願いします。私の願いはただそれだけですわ」
「分かったわ。必ず約束は守るからね」
ダイアナは、リュシエンヌから許しを得たことでホッと安堵し去って行った。
あの女も、根っからの悪人というわけではない。
ただ、贅沢に溺れて娘のことを第一に考えることをしなかった愚かな女であっただけである。
これからはきっと、間違いを犯せば罰が待っていることを身をもって知ったダイアナは良き人間でいようとするだろう。
そうでなければ待っているのは悲惨な結末というだけだ。
それに、リュシエンヌも馬鹿ではない。
ミカエルや幽霊たちの態度から、ポーレットは何者かによって罰がくだされたのではないかと勘づいていた。
それでも、何も言わない彼らのことを尊重して気づかないふりをした。
リュシエンヌだって、あの妹には随分と傷つけられたのだ。
殺したいとまでは思わずとも、憎く思ったこともあった。
「ポーレット、それでも私は貴女が伯爵家に初めて来た時には嬉しかったのよ」
母が亡くなり父は多忙で邸を空けることも多かったから、再婚によってできた妹ははじめとても可愛らしく思ったものだ。
リュシエンヌは誰にも聞こえないくらい小さな言葉をぽつりと零した。
「リュシエンヌ嬢、ここにいたのか。さあ、帰ろう」
伯爵の傍にいたミカエルが、少し離れたところに見えたリュシエンヌを迎えに来たので、ポーレットが眠る墓地には誰一人居なくなった。
ポーレットは幽霊になることはなかった。
あの毒婦は天国へ行けるわけもないから、きっと黄泉または永遠の地獄へ向かったのだろう。
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