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18. 婚約破棄をお願いしたい
しおりを挟む「パンザ。今から騎士団長室へ来てくれ」
「はっ!」
翌日、早速ミカエルはマルクを騎士団長室へ呼び出した。
マルクは騎士団駐屯地でミカエルに声をかけられる度に胸を躍らせていたので、騎士団長室へよばれまことでやっと昇進の辞令が出るのかと胸を押さえて喜びを隠した。
「パンザ、じつは大事な話がある」
「はっ! 何でしょうか?」
マルクは騎士団長の改まった態度に、とうとうこの時が来たのかと興奮のあまり声が裏返った。
胸がドキドキと強く脈打って、周りの音が聞こえぬほどに動悸がしていたのだ。
「リュシエンヌ嬢と婚約破棄して欲しい」
「はい! 謹んでお受けいたします!」
「そうか! それは良かった。それではこちらの書類にサインを」
ミカエルの出した書類を見たところで、はたと気づいた。
「あの……。これは?」
「婚約破棄のための書類だが?」
「えっと……、誰が誰と?」
「パンザ。先ほど確かに了承したではないか! 今更とぼけるのか?」
「いや、あの、了承はしましたが……」
「それでは、ここにサインを」
「はあ……」
何だかものすごい勢いでミカエルが迫ってくるものだから、混乱したマルクは書類にサインをした。
「悪かったな。これで私も安心だ」
ミカエルは今までマルクにも他の団員にも決して見せたことのないほどの満面の笑みを浮かべた。
「あの、ミカエル団長。俺は……」
「悪いな、今からすぐに出かけねばならん。それでは」
ミカエルはそう言うとさっさと騎士団長室を出て行った。
残されたマルクはまだ頭が状況についていかずその場で動けないでいたが、やがて状況が飲み込めて自分がサインした書類の意味が分かった時には、既にミカエルの姿は騎士団駐屯地内にはなかったのだ。
「何故か分からんが、すんなりと書いてくれたな」
マルクのサインの入った婚約破棄の書類を持って、リュシエンヌの元を訪れたミカエル。
こんなものはさっさと提出しようと思ったのだが、リュシエンヌの父親である伯爵が在宅と知り、先に事情を説明しようと使用人へ面会の希望を伝えた。
「突然の面会の申し出に快諾していただき感謝します」
「ミカエル騎士団長殿。何かありましたか?」
伯爵はミカエルとリュシエンヌが親しいなどとは思っていなかった為に、騎士団の携わる事件か何かあったのかと思い急いでサロンへ通した。
「実は、リュシエンヌ嬢のことなのですが」
「リュシエンヌが? なにか?」
伯爵は胸を掴まれたような思いであった。
やっと娘との時間を持とうと邸に帰ってきたのに、その娘に何かあったのかと。
「マルク・ル・パンザは騎士団員で私の部下でもあるのですが、奴は不貞を犯してリュシエンヌ嬢を蔑ろにしているのです。そこで、リュシエンヌ嬢とパンザの婚約破棄をお願いしたい。書類はこちらに」
「へ?」
「リュシエンヌ嬢とパンザのサインは既にこちらにあるので、あとは伯爵に了承をいただいてから提出をしようと思っていたのです」
伯爵からすれば青天の霹靂で、まさか娘の婚約者が不貞を働いているとはつゆ知らず、しかも既に二人とものサインが入った婚約破棄の書類はここにあって、それを何故か騎士団長が直々に持参するという事態は全く予想もできないことであった。
「あの、つかぬことをお伺いしますが。騎士団員の婚約破棄を騎士団長殿が取りまとめるのですか?」
「いいえ、そのようなことはありません。実は、大切なお願いがあって参ったのです」
怪訝な表情の伯爵に対して、ミカエルは一息に言葉を発した。
「実は以前からパンザの不貞は周囲から聞き及んでおりました。そしてその相手の内一人が伯爵のもう一人の娘であるポーレット嬢であることも把握済みです。そこでリュシエンヌ嬢と相談の上パンザと婚約破棄をすることになったのですが、そのうち私がリュシエンヌ嬢のことを愛してしまったのです。そして、リュシエンヌ嬢も同じ気持ちだと。そこで今日は伯爵に婚約破棄のお願いと、私と彼女の婚約を認めていただきたくて参りました」
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