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4. 心残りを無くすために
しおりを挟む「私はローランを天国へ送りたいのです。その方法を図書館で探していましたが、なかなか見つけられなくて。ミカエル様は何かご存知ではないですか?」
ミカエルは暫く考える素振りをしていたが、やがて答えた。
「大体の幽霊は『心残り』があると天国へは行けないと言う。ローラン殿も何か心残りがあるのでは?」
「ローラン、どうなの?」
問われたローランはここで初めて口を開いた。
「確かに、心残りはございます」
「それなら、それを解消したら貴方は天国へ行けるんじゃないの? 良かった!」
「しかし、今のままでは私はずっと天国へ行くことはないでしょう」
複雑な表情に微笑みを浮かべてローランは答える。
「なぜなの? 貴方の心残りは何?」
「私の心残りは、リュシエンヌお嬢様が幸せな花嫁になられることです。しかし今のままではとても幸せな花嫁になられることは難しいでしょう」
リュシエンヌは思わぬ返答に言葉を失った。
自分が幸せな花嫁にならねばローランは天国へ行くことはできない。
しかし、今のこの状況ではそれも難しいだろうと察したのだ。
「どうすればいいの……」
リュシエンヌはどうしたらこの優しい家令を救うことができるのかと頭を抱えた。
「それではまずは元凶であるパンザとの婚約破棄からしてはどうか」
「しかしミカエル様。マルク様との婚約は家同士の決め事であり、しかもマルク様は我が伯爵家の婿養子になられることをお望みですから、きっと私の一存では難しいのです」
「しかし彼はリュシエンヌ嬢の妹と不貞を働いているだろう。それを理由に婚約破棄をすれば良いのでは?」
それは至極もっともな言い分ではあったが、狡猾なマルクはポーレットとの不貞を認めようとはしないだろう。
今朝だってあれほど分かりやすくポーレットの部屋にいたくせに、『相談事に乗っていた』などと宣うのだ。
「マルク様はポーレットとの不貞を絶対に認めようとしません」
そう言い切ったリュシエンヌに、ミカエルは何かを察したようにため息をついた。
「成る程。それではやり方はどうであれ、リュシエンヌ嬢がパンザとの婚約破棄ができさえすればいいのだな。その後に貴女の望むような幸せな婚姻を結べばいい」
「まあ……そうなりますわね」
リュシエンヌはマルクとの婚約破棄など絶対に出来ないのだと思っていたが、もしかしたら何か良い方法があるのかとミカエルをじっと見つめた。
「それでは、私がリュシエンヌ嬢を好いてしまったから譲ってくれとパンザに話そう」
そう満面の笑みで言い切ったミカエルに、リュシエンヌは令嬢らしからぬ目を見開いて口をポカンと開けた間抜け顔を晒してしまったことは仕方あるまい。
「ミカエル様! それはとても良いお考えでございます! 是非! ぜひに宜しくお願いいたします!」
驚いて声を発することも出来ないリュシエンヌに代わって、ローランは珍しく声を大きく張り上げてミカエルに頭を下げた。
「それでは、これからはそのように振る舞うようにしよう。リュシエンヌ嬢は幽霊が見える貴重な仲間だからな。是非協力させてくれ」
こうして、リュシエンヌの頭が状況の急変についていかないままに騎士団長ミカエルと幽霊家令ローランは何故か意気投合したのであった。
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