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36. 新しく購入した寝台と

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 二人が神殿から出ると、先程までの静かな空間が嘘のように、一気に賑やかになった。
 女神アフロディーテの神殿には、美と愛を求めて沢山の人々が訪れていたのだ。

「何とも不思議だな。自分たちだけが別の空間に居たなどということは……。サラ、服は買えたし次は家具と小物を買いに行くか」
「うん! 私の分の食器とか雑貨だよね」
「ああ、色々買わないとな」

 その後のユーゴは、暫く何やら考え事をしている様子であった。

 神殿で、舞い散る花弁と女神の愛し子である白い鳥たちがサラと戯れている隙に、アフロディーテはユーゴだけにとある事実を伝えた。

『あの時、ルネに暴力を振るったのはプリシラよ。それに、ヴェラを男たちに襲わせたのもね。だからあの娘には私が相応の罰を与えたわ。だから安心して』

 ユーゴもプリシラの行方と様子は気になっていた。

 あの後騎士団でプリシラに話を聞こうとしたものの、病気で療養中ということで、エタン卿も会ってはくれなかったのだ。

 風の噂でプリシラは心を病んだと聞き、それ以上はユーゴも追求することは出来なかった。

「まあ、あの女神が与えた罰であるならば相応の報いは受けただろう……出来れば俺が自身の手でやりたかったが……」
「えっ? ユーゴ、何が言った?」
「いや、何でもない」

 不思議そうにユーゴを見つめる無邪気なサラは、女神とユーゴの本性がどれほど酷薄こくはくなのか何も知らない。

「ねえ、ユーゴ。寝台も買わないといけないよね」
「……寝台」
「だって、いつまでもユーゴがソファーで寝るわけにはいかないでしょう?」
「まあ、この際買い替えてもいいか……」

 何の疑いも無く一人用の寝台を買い足すつもりのサラと、この際なら二人が寝れる寝台を買おうかと考えるユーゴは、これから向かう家具屋でお互いの考えを知り、赤面し合うこととなるのであった。

「ユーゴ、今日は色々と買ってもらってごめんなさい。ありがとう」
「どうせ使う予定も無かった長年の給金だからな。有意義な使い道ができて良かった。それに、サラに俺が色々と買い与えるのは楽しいからな」
「そうなの? でも、ありがとう」

 邸宅に帰宅したのはちょうど夕方で、購入した物も既に全て届けられて搬入された。

 結局寝台については、こんな時だけ饒舌なユーゴが何だかんだとサラを上手く言いくるめて、今ある物を引き取ってもらい、大きな寝台を設置することになった。

 夕飯を終えて入浴も済ませた二人は、新しい寝台のある寝室へと向かったのであった。
 
 一応今晩は初夜であるが、サラは

「サラ、今日からやっと自分の寝巻きを着て眠れるな」
「ふふっ……そうだね。ユーゴのシャツじゃ大きかったもんね」
「いや、あれはあれで……」

 ガチャリと寝室の扉を開けてみると、今まであった寝台の倍以上の大きさの物が設置してある。

「うわぁー! 広いね! これならユーゴも窮屈じゃないよ?」
「そ、そうだな……」

 ポフン! と無防備にうつ伏せのまま寝台に飛び込むサラを横目に、ユーゴは何度か深呼吸をして部屋の灯りの殆どを落とした。

 今は柔らかなランプの灯りだけがぼんやりと部屋を橙色に染めていた。
 そしてユーゴはそっと新品の寝台の端に腰掛ける。

 確かにフワフワでフカフカの寝台はとても心地よいのだが、それよりもサラの様子が気になるユーゴはチラリとそちらを見やった。

 嬉しそうにパタパタと脚をバタつかせながら、新しい真っ白な寝巻きを纏ってうつ伏せでユーゴに微笑んで見せるサラ。
 現在理性を総動員させているユーゴにとってみれば、まるで小悪魔のように思えただろう。

「サラ、今晩からは夫婦として共に寝ることになるんだが……」
「うん、そうだね! 新しい寝台もフカフカだし、きっとあったかいね!」
「その……、今日は初夜というやつでな。知ってるか?」
「しょや……? 知らない」

 サラはうつ伏せからモソモソと起き上がって、寝台の端に腰掛けるユーゴの近くで小首をかしげた。

 この美しい娘はまだ人間になって間がないのだから、細かな人間のことわりなどは知らないのだ。

「まあ……、簡単に言えば本当の夫婦になる為の儀式のようなものがあってだな。それは少しばかり……、サラには痛い思いをするかも知れない」
「え……、私だけが痛いの?」
「う……ッ、まあそうだなぁ。なるべくは優しくするが……」

 もうユーゴは灯りを落としていても分かるほどに頬も耳も真っ赤であった。
 対するサラは、これから何が起こるのか分かっていない為にキョトンとしている。

「でも、ユーゴが痛くないなら良かった! 私は大丈夫だよ? 本当の夫婦になれるんでしょ? それなら頑張る」

 もうユーゴは顔を両手で覆って、今にも抱き締めてこの愛らしい生き物を愛でてやりたいと思う気持ちをグッと堪えているようだ。

「ユーゴ? どうしたの?」
「サラ……、嫌だと思ったら言ってくれ。……何とか堪えてみせるから」

 バッと顔を上げたユーゴは、自分を心配そうに見つめるサラに、本当に愛しそうな視線を落としてからそっとその身体を抱き寄せた。

 サラもユーゴが抱き締めてくれるのが嬉しくて、ギュッとその背に手を回して抱き返す。
 しかし、いつもと違うのはこれからの事で……。









 

 

 
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