22 / 53
22. アフロディーテのお仕置き
しおりを挟む「何で⁉︎ なんで⁉︎ 何でユーゴ様が来るのよ!」
プリシラは、ユーゴたちが治療室へと乗り込んで行った隙にその場を離れた。
先日の出来事で、ヴェラに恨みを持ったプリシラは、浮浪者たちに金を握らせてヴェラを襲うように指示した。
あの時間であれば、騎士達は一般人に治療室を譲るから誰にもバレずに事を進められる予定であったのに。
「まさかユーゴ様が来るなんて!」
駐屯地を走り抜け、王城を出てからやっとプリシラは息を整えた。
そして、王都の賑わいから少し外れた路地裏で王城の方を窺う。
「誰も追いかけて来てないわよね」
特に怪しい影も、追跡者もいない事を確認して、プリシラはホッと息を吐く。
髪を隠していたスカーフをシュルリと解くと、金のウェーブをした髪が現れる。
「アイツらにも口止めはしているし、しゃべったりしないはずよ。名乗った訳でもないし、顔を隠していたから私だとは到底証明出来っこないわ」
薄暗い路地裏で、プリシラは一人でほくそ笑んだ。
「まあ、本当に貴女は醜い人間ね。愛される価値も、人を愛する事も許されないほどの罪深い女……」
美しく音楽を奏でるような声が響いた。
女であるプリシラでさえ聞き惚れるその声の持ち主は、姿も実に美しかった。
「誰⁉︎」
長い髪はくるぶしまでサラリと流れ、白い衣服はまるで光の衣のように不思議な輝きを放つ。
「貴女が知る必要はないわ。私は貴女を知っているから。私の愛し子を可愛がってくれてありがとう」
「愛し子……?」
美しい顔は人成らざるもの。
現れたのは女神アフロディーテ。
「あの子はね、私がそっと見守っていた可愛い私の愛し子なのよ。まあ、ユーゴとの関係に刺激を与えてくれたことには感謝するわ」
「ユーゴ様ですって? あなたは一体……」
「だけどね、貴女ってばやり過ぎなのよ。もう少しで私の可愛い愛し子が壊れてしまうところだったわ。まだこれから楽しいことが待っていたのに……」
アフロディーテの言葉はフワフワとしていて、プリシラには分かりづらい。
元々神というのは、人間に感覚を合わせる気などないのかも知れない。
「何を言っているのか分からないわ!」
プリシラは心底苛ついたように叫んだ。
計画は頓挫し、ユーゴに見られた。
その上訳の分からない美しい女に絡まれている。
その全てに苛ついているようだ。
「ふふっ……。もう、貴女は私の愛し子たちと違って、全く可愛くないわ。そんな貴女には、私の楽しみを奪おうとしたお仕置きを与えてあげる」
「お仕置きですって? 何を……!」
プリシラの周りを小さな光の粒が包み込む。
やがてそれらは大きな渦となってプリシラを飲み込んだ。
渦が消えて再び現れたプリシラは、一見変わりがないように見える。
「はっ! 何なの⁉︎ 何だか知らないけど、あんな大層な仕掛けをしたって、何にも変わってないじゃない! 私はこれからもユーゴ様のことを諦めないから!」
穏やかに微笑みを浮かべるアフロディーテへ向かって、プリシラは言葉を投げつけた。
「本当に貴女は可愛くない子だわ。その方が面白けれど。ふふっ……」
そんなプリシラの様子を楽しむように、アフロディーテは余裕の笑みを崩さない。
「いい? 貴女はこれから死ぬまで本心しか口に出せないわ。嘘ばかり吐いてきた罰よ」
「そんなこと! 出来っこないわ! アンタが誰だか知らないけど、私に構わないで!」
見たことがないほどに美しい女から、突然訳の分からないことを言われたプリシラは、本当は混乱していたのかも知れない。
強気な台詞を残して、路地裏から大通りの方へと駆け出して行った。
「あらあら、あんなに沢山の人間がいる場所に向かって平気なのかしら? 面白そうだからコッソリ覗いてみましょう」
アフロディーテはその姿を美しい白い鳥に変え、プリシラの後を追った。
プリシラは大通りへと駆け出して、人混みに紛れ込もうとする。
しかし、人手の多い時間帯ということもあり、思うように前へと進むことができない。
「ほら! どきなさいよ! このブス! ジジイ! 邪魔よ!」
とんでもない言葉が次々とプリシラの口から溢れ出る。
プリシラは驚いて、自分の口を両手で塞いだ。
「くそっ! あの美しい女が私に何かしたに違いないわ! 悔しい! 私より美しいなんて悔しい!」
道ゆく人々は皆一様にプリシラの方を見ている。
ヒソヒソと内緒話をする淑女たちもいる。
「なぁに? あの娘」
「どうなさったのかしらね」
顔を真っ赤にして道を進むプリシラは、口を押さえても、話そうとしなくとも、どんどんと口から醜い罵詈雑言が溢れてくる。
「くそっ! 私より美しいあの女! 何者なの⁉︎ どけ! 邪魔な貧乏人が! ルネも、あの薬師の女だって、死んでしまえばいいのに! 何故私がこんな目に遭わないといけないの!」
まともに前など見ずに歩くプリシラは、ふと周囲を見渡した。
「ひ……っ!」
10
お気に入りに追加
380
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーから追放された魔法戦士ディックは何も知らない~追放した勇者パーティが裏で守り続けてくれていたことを僕は知らない~
うにたん
恋愛
幼馴染五人で構成された勇者パーティを追放されてしまった魔法戦士ディック。
追放を決断したやむを得ない勇者パーティの事情とは?
真の追放事情を知らない追放された魔法戦士ディックはこれからどうなるのか?
彼らが再度交わる時は来るのか?
これは勇者パーティを追放された魔法戦士ディックに事情を知られない様に勇者パーティが裏でディックを守り続ける真の勇者の物語
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
自宅が全焼して女神様と同居する事になりました
皐月 遊
恋愛
如月陽太(きさらぎようた)は、地元を離れてごく普通に学園生活を送っていた。
そんなある日、公園で傘もささずに雨に濡れている同じ学校の生徒、柊渚咲(ひいらぎなぎさ)と出会う。
シャワーを貸そうと自宅へ行くと、なんとそこには黒煙が上がっていた。
「…貴方が住んでるアパートってあれですか?」
「…あぁ…絶賛燃えてる最中だな」
これは、そんな陽太の不幸から始まった、素直になれない2人の物語。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
【完結】ハリントン男爵アレクシス・ハーヴェイの密かな悩み
ひなのさくらこ
恋愛
ハリントン男爵アレクシス・ハーヴェイ。低い爵位ながら巨万の富を持ち、その気になれば王族でさえ跪かせられるほどの力を持つ彼は、ひょんなことから路上生活をしていた美しい兄弟と知り合った。
どうやらその兄弟は、クーデターが起きた隣国の王族らしい。やむなく二人を引き取ることにしたアレクシスだが、兄のほうは性別を偽っているようだ。
亡国の王女などと深い関係を持ちたくない。そう思ったアレクシスは、二人の面倒を妹のジュリアナに任せようとする。しかし、妹はその兄(王女)をアレクシスの従者にすると言い張って――。
爵位以外すべてを手にしている男×健気系王女の恋の物語
※残酷描写は保険です。
※記載事項は全てファンタジーです。
※別サイトにも投稿しています。
この度、青帝陛下の番になりまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる