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本編
12. 二人で
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近藤の遺体の清掃に来た清掃屋は、室内の状況を見てニヤリと笑った。中年の作業着姿の男が二人、ベテランの二人は道具を使ってテキパキと確実に痕跡を無くしていく。リビング全体に散らばった肉片や血液は、プロにかかればみるみるうちに綺麗になっていくだろう。
「派手にしてくれた方がうちとしては儲かるからね。でもまぁ、お得意さんだからお薦めするけど、こういうアイデア商品も色々あるから。良かったら使ってみてよ」
そう言って清掃屋がハジメに手渡したパンフレットには、『特別仕様の超吸収ソファー』だとか、『超吸収ラグ』などの血液や体液などを多く吸収して片付けを楽にするグッズなどが多く掲載されている。
「あー、パッケージにちょっと汚れがついてるけど。この特製トマトソースのミートパスタとか美味しそうだよ。食べる?」
「俺はいい」
「んー、じゃあ私食べちゃお」
清掃屋に後片付けを任せたまま、二人は車でハジメの住むマンションへと向かう。車内では近藤が運んできた商品のうち、一部だけを持ち帰った美沙が何を食べようかとあれこれ選んでいた。残りの商品は近藤が乗って来たバイクと一緒に、あの家の近くにあるため池に放り込んだのだ。
「あ、涼介くんから電話だ。はいはーい」
スマホを耳に当てて美沙が涼介と話している間、ハジメは何か考え込むようにして運転を続けた。マンションへ帰るにはまだ十五分はかかるだろう。
「うん、ごめんね。だってあの人が……」
涼介に処置を依頼されたのに、患者を殺した事を責められているのだろうか。美沙があの時の状況を懸命に説明しているが、前を向いてずっと運転に集中するハジメの耳には聞こえていないようだった。
「はぁー……、涼介くんちょっと怒ってた。殺しちゃったら色々他と辻褄を合わせるのが大変なんだぞって。今回のは仕方ないのにねぇ」
「すまん」
「もうしないって約束したよって伝えたら、許してくれたよ」
「うん、悪いな」
マンションに着くと、汚れた身体を二人で風呂に入って綺麗にした。美沙は車のシートを心配していたが、あれも清掃屋の特別仕様のシートカバーをかけているから剥がせば心配ないと言う。
「あー、すっきりした。ねぇ、パスタ食べよ」
「俺はいい」
「もう、何で? お腹空いてないの?」
汚れた服を洗濯に回して、マンションに置いてある部屋着に着替えた美沙は、ハジメの変化に少し戸惑っていた。ずっと考え込むような仕草を見せて、美沙の声掛けにも言葉少なにしか返答しない。
「美沙……」
掠れたような声で名を呼ばれて、美沙はコテンと首を傾げた。サラリと揺れる黒髪が胸の前にこぼれ落ちる。それをじっと見つめていたハジメは、暫く続きの言葉を発さないでいた。
「どうしたの?」
美沙が問うと、血が滲むほどギュッと唇を噛んでいたハジメは、やっとの事で口を開く。
「美沙、死にたいって思った事あるか?」
「え? うーん、前はあったけど。今はハジメちゃんがいるから」
「そうか……」
「何でそんな事聞くの? 死にたいの?」
ハジメは美沙に自分の心の内を全て曝け出した。近頃特に美沙の事を想い過ぎて苦しい事、どうせなら美沙に能力を使って貰い、あの空間で永遠に虐げられたいと願っている事。
「……私も、同じ事思ってたよ。ハジメちゃんに能力を使ってもらって、あの空間でずっとハジメちゃんをいじめられたら。誰にも邪魔されないのにな、って。家に帰らなくて済むし、ハジメちゃんが依頼を受けなくてもいい。二人であそこにずっといられたらって」
「美沙も?」
「涼介くんに頼んでみようよ。もしもこの世界が嫌になったら、私達がいつでもあそこへ行けるように」
二人の考えを見透かしたかのように、そこまで話したところで涼介からの着信があった。美沙は画面を確認してから苦笑いをして、スマホの通話ボタンをタップする。
「はいはーい。え? マンションにいるけど。もう来てるの? うん、分かった」
美沙が話している隙にハジメがスマホを確認すると、少し前に涼介からの着信があったようだ。マナーモードにしていて気づかなかった。
「涼介くん、来たんだって。お説教だよって言ってるけど。ちょうど話してたからびっくりしたね」
「そうか」
そのうちインターフォンが鳴って、涼介がハジメのマンションの部屋へと上がって来た。涼介がこのマンションに来る事は今まで無かったから、初めての事だ。
「さぁ、お説教だよ。ハジメは美沙ちゃんの事となると制御が利かないんだから。これから困るぞ、それじゃあ」
「あの近藤という患者は上手く処理出来たのか」
「うん、なんとかね。家族は居ないからいいけど、店の店長、従業員に納得して貰うのは大変だったよ」
涼介が今までもどんな風に患者の周囲の人間達を納得させてきたのか、話そうとしないからハジメも美沙も知らない。ただ、患者たちがあんな風になっても事件にもならなければ騒ぎにもならないという事は、何らかの対策をしているのだろうが。
「それで、美沙ちゃんもハジメも……僕に何か言いたい事があるの?」
「派手にしてくれた方がうちとしては儲かるからね。でもまぁ、お得意さんだからお薦めするけど、こういうアイデア商品も色々あるから。良かったら使ってみてよ」
そう言って清掃屋がハジメに手渡したパンフレットには、『特別仕様の超吸収ソファー』だとか、『超吸収ラグ』などの血液や体液などを多く吸収して片付けを楽にするグッズなどが多く掲載されている。
「あー、パッケージにちょっと汚れがついてるけど。この特製トマトソースのミートパスタとか美味しそうだよ。食べる?」
「俺はいい」
「んー、じゃあ私食べちゃお」
清掃屋に後片付けを任せたまま、二人は車でハジメの住むマンションへと向かう。車内では近藤が運んできた商品のうち、一部だけを持ち帰った美沙が何を食べようかとあれこれ選んでいた。残りの商品は近藤が乗って来たバイクと一緒に、あの家の近くにあるため池に放り込んだのだ。
「あ、涼介くんから電話だ。はいはーい」
スマホを耳に当てて美沙が涼介と話している間、ハジメは何か考え込むようにして運転を続けた。マンションへ帰るにはまだ十五分はかかるだろう。
「うん、ごめんね。だってあの人が……」
涼介に処置を依頼されたのに、患者を殺した事を責められているのだろうか。美沙があの時の状況を懸命に説明しているが、前を向いてずっと運転に集中するハジメの耳には聞こえていないようだった。
「はぁー……、涼介くんちょっと怒ってた。殺しちゃったら色々他と辻褄を合わせるのが大変なんだぞって。今回のは仕方ないのにねぇ」
「すまん」
「もうしないって約束したよって伝えたら、許してくれたよ」
「うん、悪いな」
マンションに着くと、汚れた身体を二人で風呂に入って綺麗にした。美沙は車のシートを心配していたが、あれも清掃屋の特別仕様のシートカバーをかけているから剥がせば心配ないと言う。
「あー、すっきりした。ねぇ、パスタ食べよ」
「俺はいい」
「もう、何で? お腹空いてないの?」
汚れた服を洗濯に回して、マンションに置いてある部屋着に着替えた美沙は、ハジメの変化に少し戸惑っていた。ずっと考え込むような仕草を見せて、美沙の声掛けにも言葉少なにしか返答しない。
「美沙……」
掠れたような声で名を呼ばれて、美沙はコテンと首を傾げた。サラリと揺れる黒髪が胸の前にこぼれ落ちる。それをじっと見つめていたハジメは、暫く続きの言葉を発さないでいた。
「どうしたの?」
美沙が問うと、血が滲むほどギュッと唇を噛んでいたハジメは、やっとの事で口を開く。
「美沙、死にたいって思った事あるか?」
「え? うーん、前はあったけど。今はハジメちゃんがいるから」
「そうか……」
「何でそんな事聞くの? 死にたいの?」
ハジメは美沙に自分の心の内を全て曝け出した。近頃特に美沙の事を想い過ぎて苦しい事、どうせなら美沙に能力を使って貰い、あの空間で永遠に虐げられたいと願っている事。
「……私も、同じ事思ってたよ。ハジメちゃんに能力を使ってもらって、あの空間でずっとハジメちゃんをいじめられたら。誰にも邪魔されないのにな、って。家に帰らなくて済むし、ハジメちゃんが依頼を受けなくてもいい。二人であそこにずっといられたらって」
「美沙も?」
「涼介くんに頼んでみようよ。もしもこの世界が嫌になったら、私達がいつでもあそこへ行けるように」
二人の考えを見透かしたかのように、そこまで話したところで涼介からの着信があった。美沙は画面を確認してから苦笑いをして、スマホの通話ボタンをタップする。
「はいはーい。え? マンションにいるけど。もう来てるの? うん、分かった」
美沙が話している隙にハジメがスマホを確認すると、少し前に涼介からの着信があったようだ。マナーモードにしていて気づかなかった。
「涼介くん、来たんだって。お説教だよって言ってるけど。ちょうど話してたからびっくりしたね」
「そうか」
そのうちインターフォンが鳴って、涼介がハジメのマンションの部屋へと上がって来た。涼介がこのマンションに来る事は今まで無かったから、初めての事だ。
「さぁ、お説教だよ。ハジメは美沙ちゃんの事となると制御が利かないんだから。これから困るぞ、それじゃあ」
「あの近藤という患者は上手く処理出来たのか」
「うん、なんとかね。家族は居ないからいいけど、店の店長、従業員に納得して貰うのは大変だったよ」
涼介が今までもどんな風に患者の周囲の人間達を納得させてきたのか、話そうとしないからハジメも美沙も知らない。ただ、患者たちがあんな風になっても事件にもならなければ騒ぎにもならないという事は、何らかの対策をしているのだろうが。
「それで、美沙ちゃんもハジメも……僕に何か言いたい事があるの?」
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