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本編
6. 異能
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美沙はイトコであり主治医でもある涼介の口から、特別な処置の方法について話を聞いた。その内容は俄には信じられないようなものであったが、涼介だけでなく隣に座るハジメもずっと黙って聞いている事から、嘘では無いのだろうと判断したようだ。
「んー、それでどうして私にそんな事話したの?」
「美沙ちゃんにもハジメと同じ異能があるからだよ」
「ええ? でも、私の名前なんて皆普通に呼んでるけど」
「だからそれはさっき説明したように、僕の暗示と二人の名前という条件が揃わないとダメなんだ」
「ああ、そういえばそうだったね」
簡単に言えば、処置が必要な患者にはあらかじめ涼介が暗示をかけておく。そしてその後ハジメの本当の名前を呼ばせる。それが引き金だった。
「でも、それだけで本当に患者は治るの?」
「治る、というか『他に危害を与えない状態にする』というのが正しいかな。まぁ本人もずっと精神の中では自分の欲望を好きなだけ発散出来る様になっている訳だから、幸せかも知れないけど」
引き金を引いた患者は、たちまち廃人になってしまう。ただ、生きているだけの状態で自分の意志で動く事も出来ない。所謂植物人間という状態に。
けれど、その患者本人の意識は精神の中でずっと自分の欲望を発散し続けるようになるという。例えば小児性愛者にそのチカラを使ったら、本人の意識の奥底にある空間で、永遠に何度だって自分の理想の児童を好き勝手に出来るという事で。内容に関してはある程度ハジメの気持ち次第のところもあるらしいが、涼介とハジメとの約束で概ねそのように処置する事を決めている。
「ほんと、趣味悪いね。でも、どうして私とハジメちゃんにそんな異能があるの?」
「それは、元々姓に神と名のつく名前を持っている人にはその素質があるからだよ」
「それってこの世の中にいる『神崎』さんとか『神野』さんとか皆って事?」
「そう。けれど、そこに『巫』の人間が関わってはじめて発動するんだ」
美沙の姓は神楽、間違えてカグラと呼ばれる事が多いけど、シガクという。
ハジメの名前は『大神 創』、そして涼介の姓は『巫』だった。
「それじゃあハジメちゃんって本当はソウって言うの? じゃあ何でハジメって名乗ってるの?」
美沙は嘘を吐かれた事が面白く無いようで、紅い唇をツンと尖らせた。そんな美沙に慌てたように、ハジメは眼鏡のブリッジを押さえながら弁解する。
「それは……っ! 本名を好きな人に呼ばれたら、絶対堪えられないから……」
「はぁ? なにそ……れ……。って、ハジメちゃん! こんな所で何でギンギンになっちゃってるの!」
「……期待感? っていうか美沙がもし本名を呼んだらって想像したら、もう我慢出来なくて……」
「……とりあえず、ソウくんはそこで静かに待ってなさい。今は私と涼介くんの会話だからね。いい?」
美沙はハジメに向かってわざと本名を投げつけ、絶対零度の冷たい視線を向ける。ハジメの方は恍惚とした表情を浮かべて何度も頷き、前屈みになって何かを堪えていた。
「ははっ、本当に仲良しだねぇ。イトコの美沙ちゃんも、友達のハジメもいつもと違って自然体で。何だか妬けちゃうなぁ」
「もう! 涼介くん! そんなのいいから。それで、巫の人なら皆そういう力があるの? だってそれって、神の付く姓の持ち主の異能を上手く利用してるって事じゃない。涼介くん以外の巫家の人も使えるの?」
「いや、どうやら今は僕だけみたいだ。巫の家に生まれても、必ずしもその力がある訳じゃないし。その上、神の付く姓の人間の中で、異能に目覚めるのも全員じゃないからね」
美沙は必死に頭の中を整理している様子で、こめかみをぐりぐりとしながら「うーん」と唸った。
「なんか、難しいけど。とりあえずは私とハジメちゃん……もう今更だしハジメちゃんでいいや、には特別な能力があって。その力は涼介くんとのコラボじゃないと意味が無いって事だよね?」
「コラボ……」
静かに待つように言われたのに、思わず突っ込んでしまったハジメを、美沙は容赦なく睨みつけた。そして次の瞬間には、パシーンと思いっきり右頬をビンタしたのだった。
「ぐ……っ!」
「黙ってて。静かにって言ったよね?」
「ごめん」
謝りながら頬をさする仕草をしつつも、どこか嬉しそうに目を潤ませるハジメの様子に、主治医でもある涼介はホッとしたように笑った。
「ああ、いいねぇ。美沙ちゃんとハジメ、お互い相性がピッタリだったからね」
片頬を真っ赤に染めたハジメは、もう黙ってただ座っていて。隣に座る美沙は、目を細めながら満足げにその様子を見つめている。やがて美沙はその視線を向かいに座る涼介へと向けると、話の続きを促すように頷いた。
「まぁ、そうだね。コラボというか、僕と君達の条件が揃って初めて発動するって事だね」
「なんか、巫家の涼介くんに使われるような感じがするのは気に食わないけど。それでハジメちゃんは悪い患者さん達を退治してるって事なのね?」
「退治じゃなくて、『処置』ね」
「どっちでもいいけど。そもそも、何でそんな事始めたの?」
長くなってきた話に体が強張ってきたのか、そこで美沙は両腕を上に伸ばしてストレッチをする。未だ隣ではハジメが大人しく椅子に座って黙っていた。
「美沙ちゃん、よくぞ聞いてくれた! 元々は他人に危害を与えてしまう患者をどうすればいいかって事を、ハジメとその兄貴に相談したところから始まったんだけど。最初の頃は何度も失敗してねぇ……」
「んー、それでどうして私にそんな事話したの?」
「美沙ちゃんにもハジメと同じ異能があるからだよ」
「ええ? でも、私の名前なんて皆普通に呼んでるけど」
「だからそれはさっき説明したように、僕の暗示と二人の名前という条件が揃わないとダメなんだ」
「ああ、そういえばそうだったね」
簡単に言えば、処置が必要な患者にはあらかじめ涼介が暗示をかけておく。そしてその後ハジメの本当の名前を呼ばせる。それが引き金だった。
「でも、それだけで本当に患者は治るの?」
「治る、というか『他に危害を与えない状態にする』というのが正しいかな。まぁ本人もずっと精神の中では自分の欲望を好きなだけ発散出来る様になっている訳だから、幸せかも知れないけど」
引き金を引いた患者は、たちまち廃人になってしまう。ただ、生きているだけの状態で自分の意志で動く事も出来ない。所謂植物人間という状態に。
けれど、その患者本人の意識は精神の中でずっと自分の欲望を発散し続けるようになるという。例えば小児性愛者にそのチカラを使ったら、本人の意識の奥底にある空間で、永遠に何度だって自分の理想の児童を好き勝手に出来るという事で。内容に関してはある程度ハジメの気持ち次第のところもあるらしいが、涼介とハジメとの約束で概ねそのように処置する事を決めている。
「ほんと、趣味悪いね。でも、どうして私とハジメちゃんにそんな異能があるの?」
「それは、元々姓に神と名のつく名前を持っている人にはその素質があるからだよ」
「それってこの世の中にいる『神崎』さんとか『神野』さんとか皆って事?」
「そう。けれど、そこに『巫』の人間が関わってはじめて発動するんだ」
美沙の姓は神楽、間違えてカグラと呼ばれる事が多いけど、シガクという。
ハジメの名前は『大神 創』、そして涼介の姓は『巫』だった。
「それじゃあハジメちゃんって本当はソウって言うの? じゃあ何でハジメって名乗ってるの?」
美沙は嘘を吐かれた事が面白く無いようで、紅い唇をツンと尖らせた。そんな美沙に慌てたように、ハジメは眼鏡のブリッジを押さえながら弁解する。
「それは……っ! 本名を好きな人に呼ばれたら、絶対堪えられないから……」
「はぁ? なにそ……れ……。って、ハジメちゃん! こんな所で何でギンギンになっちゃってるの!」
「……期待感? っていうか美沙がもし本名を呼んだらって想像したら、もう我慢出来なくて……」
「……とりあえず、ソウくんはそこで静かに待ってなさい。今は私と涼介くんの会話だからね。いい?」
美沙はハジメに向かってわざと本名を投げつけ、絶対零度の冷たい視線を向ける。ハジメの方は恍惚とした表情を浮かべて何度も頷き、前屈みになって何かを堪えていた。
「ははっ、本当に仲良しだねぇ。イトコの美沙ちゃんも、友達のハジメもいつもと違って自然体で。何だか妬けちゃうなぁ」
「もう! 涼介くん! そんなのいいから。それで、巫の人なら皆そういう力があるの? だってそれって、神の付く姓の持ち主の異能を上手く利用してるって事じゃない。涼介くん以外の巫家の人も使えるの?」
「いや、どうやら今は僕だけみたいだ。巫の家に生まれても、必ずしもその力がある訳じゃないし。その上、神の付く姓の人間の中で、異能に目覚めるのも全員じゃないからね」
美沙は必死に頭の中を整理している様子で、こめかみをぐりぐりとしながら「うーん」と唸った。
「なんか、難しいけど。とりあえずは私とハジメちゃん……もう今更だしハジメちゃんでいいや、には特別な能力があって。その力は涼介くんとのコラボじゃないと意味が無いって事だよね?」
「コラボ……」
静かに待つように言われたのに、思わず突っ込んでしまったハジメを、美沙は容赦なく睨みつけた。そして次の瞬間には、パシーンと思いっきり右頬をビンタしたのだった。
「ぐ……っ!」
「黙ってて。静かにって言ったよね?」
「ごめん」
謝りながら頬をさする仕草をしつつも、どこか嬉しそうに目を潤ませるハジメの様子に、主治医でもある涼介はホッとしたように笑った。
「ああ、いいねぇ。美沙ちゃんとハジメ、お互い相性がピッタリだったからね」
片頬を真っ赤に染めたハジメは、もう黙ってただ座っていて。隣に座る美沙は、目を細めながら満足げにその様子を見つめている。やがて美沙はその視線を向かいに座る涼介へと向けると、話の続きを促すように頷いた。
「まぁ、そうだね。コラボというか、僕と君達の条件が揃って初めて発動するって事だね」
「なんか、巫家の涼介くんに使われるような感じがするのは気に食わないけど。それでハジメちゃんは悪い患者さん達を退治してるって事なのね?」
「退治じゃなくて、『処置』ね」
「どっちでもいいけど。そもそも、何でそんな事始めたの?」
長くなってきた話に体が強張ってきたのか、そこで美沙は両腕を上に伸ばしてストレッチをする。未だ隣ではハジメが大人しく椅子に座って黙っていた。
「美沙ちゃん、よくぞ聞いてくれた! 元々は他人に危害を与えてしまう患者をどうすればいいかって事を、ハジメとその兄貴に相談したところから始まったんだけど。最初の頃は何度も失敗してねぇ……」
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