真実の愛を見つけましたわ!人魚に呪いをかけられた箱入り令嬢は、好みの顔した王子様のようなお方を溺愛しております

蓮恭

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65. 集落は随分と変化しましたのよ

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 あれから時が経ち、ジュリエットは無事に十八歳の誕生日を祝った。
 もちろんキリアンからの真実の愛のおかげで呪いは解けていたから、ジュリエットは何の憂いもなくその日を迎えられたのであった。

 そしてジュリエットは家具の工房で新たな試みを始めたのだ。
 装飾に力を入れて、形にもこだわることで特に貴族の好むデザインのものを作り出したのである。

「ジュリエット、新しいチェストが出来上がったよ」
「アン、素晴らしいわ! これならば少々高くても十分に欲しがる方はいるはずよ!」

 全体のラインが曲線的で女性らしく優雅な、いかにも貴族らしいチェストは色も明るくエレガントな雰囲気になっている。
 他にも、植物や花の豪華な彫がたっぷり入ったビューロー収納付きの机などは脚をツイストのデザインにして美しい形をしている。

 今までにジュリエットの提案した貴族向けの家具たちは随分と人気でこの工房の主力製品となっていた。

「あたしらでは思いつきもしないデザインだよ。ジュリエットのおかげで随分と暮し向きも楽になったって、みんな感謝してるよ」
「痛み入ります。私も色々なデザインを考えることが段々と楽しくなってきましたの。それでお役に立てているならば嬉しいですわ」

 実は集落のある森は国有のものであった。
 しかし、今回大規模な捜査で多くの人が救われたことへの褒美としてジュリエットの父メノーシェ伯爵が褒美として望んだのがこの森であった。
 王家はこのような深い森を欲するメノーシェ伯爵を不思議がった。
 それでもすんなりとこの森のある領土は伯爵家所有のものとなり、ひいては集落の住人たちはメノーシェ伯爵領の領民として暮らすことになったのであった。

 おかげで森への道のりは整備され、家具や木材の運搬は楽にできるようになった。
 皆の生活は一変し、後ろ暗いことのない今は隠れて住む必要もなくなったのだ。

「先生、おはようございまーす!」
「はい、みなさんおはようございます」

 集落の学校にも教師が派遣され、子どもたちはより充実した教育を受けられるようになった。

「せんせーい! また昨日隣の家のお兄ちゃんと逢引きデートしてたでしょう! 見ちゃったー!」
「えっ! 見てたの⁉︎」

 新しく派遣された若い女性教師も、すぐにこの集落に馴染んでいた。
 どうやら新しい家庭が増えるのも間近かも知れない。

 一人で森の入り口を守っていたジョブスは、集落の中で住めることになった。
 馬を飼っているから子どもたちにも人気だ。

「ジョブスさーん、おはよう! 馬触らせてー!」
「おう、お前ら馬も良いけど勉強もしろよー」

 相変わらずほとんどが無愛想な顔ではあったが、人との関わりが今までより増えたことで時折柔らかな笑顔が見られることもある。

 井戸端のトカゲスチュアートは、変わらず井戸の縁で日向ぼっこをしていることが多い。

「スチュアート、今日も奥さんと仲がいいのね。私は今からお出かけなの。留守番お願いね」
「ジュリエットー! そろそろ行くぞ!」
「あっ、はーい! すぐ行きますわ! じゃあまたね、二人とも」

 いつの間にかその隣にはもう一匹雌のトカゲが増えていて、もしかしたらもうすぐ家族が増えるのかも知れない。
 ジュリエットは新たなトカゲをシンシアと名付けてスチュアートと共に可愛がった。

 二匹のトカゲはゆっくりとそばを離れるジュリエットを見つめている。
 そして、ジュリエットが見えなくなればまた日向ぼっこの続きをするのであった。

 今日ジュリエットはキリアンと共にティエリーの街で買い物をするのだ。
 道は整備されたから獣道を歩く必要は無くなったし、少し乗り心地の良くなった新しい馬車で出掛けられることになって買い物も楽にできるようになったのだ。

 エマ婆さんの商店に着いたとき、相変わらず店先でうたた寝をする老女へ声を掛ける。

「エマおばあさん、こんにちは」

 前と同じ皺の目立つ目元がピクピクと動き、やがて少し濁った色の目を開けた老女はいつもの嗄れた声で答えた。

「ああ、ジュリエットにキリアンか。今日はどうしたんだい?」
「今日は色々と買い物に来たの。色々と準備が必要でしょう? それにしばらく来れないだろうから挨拶を」
「なるほどねぇ。それにしても見ないうちに随分と大きくなったもんだ。キリアン、アンタしっかりと手伝ってやんなよ」
「分かってるよ」

 ジュリエットの少し目立ってきたお腹を見て、エマ婆さんは目を細めた。
 そしてシワシワの手を伸ばしてその腹に優しく触れる。

「元気に大きくおなり」

 そんなエマ婆さんに、ジュリエットはにっこりと微笑んで礼を述べた。

「さあ、そろそろ帰ろう。あんまり無理したら良くないだろ。ほら、手ぇ出せ」
「はい。それではエマおばあさん、また子どもが産まれたら連れてきますから」

 キリアンはジュリエットが妊娠してからというもの、常に手を引きたがってはジュリエットの体調に気を配るようになった。
 手を繋いで仲睦まじく去っていく夫婦を見つめて、エマ婆さんはフッと口元を緩めて呟いた。

「今ではキリアンの方が夢中じゃないか。幸せを掴んだんだね」











 
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