真実の愛を見つけましたわ!人魚に呪いをかけられた箱入り令嬢は、好みの顔した王子様のようなお方を溺愛しております

蓮恭

文字の大きさ
上 下
64 / 67

64. 悪魔の鉄槌

しおりを挟む

 今回捕らえられた貴族たちは人身売買など特に重い罪を犯していた為に斬首ざんしゅによる極刑きょっけいとなった。
 貴族であるが故に、名誉ある処刑法と言われる斬首刑ですんだのだ。

 しかし彼らは皆死の直前には自らの犯した罪を後悔し、恐怖におののきながら死刑執行人の両刃の斬首刀で首を落とされた。
 
 そしてどの貴族の家族も爵位剥奪しゃくいはくだつの上、平民に落とされた。
 貴族が平民に落とされ、しかも罪人の家族ともなれば楽な暮らしはできないであろう。


 リード商会会長のクライヴはジュリエットの生み出した『人魚の涙』の貴重性を盾に、自らを捕らえた国の役人を買収しようとした。
 まさか自分を捕らえたのがジュリエットの父親であるとは夢にも思わずにそのような愚行を犯したクライヴは、部下である役人からの報告を受けたメノーシェ伯爵の命令により、なお一層過酷な罰を受けることとなる。

 ただの絞首こうしゅ刑では足らぬと、三日三晩の鞭打ちのあとに刑は執行された。
 あれほどまでに爵位に執着したクライヴは、多くは貴族に許された名誉ある処刑法斬首刑ではなく、主に平民に対して行われる恥辱を伴う絞首刑だったのは皮肉なことであった。


 
 最後にピエール・ド・グロセの刑が執行された時、キリアンは集落で過ごすジュリエットには何も告げずにその場にいた。

 ピエールの刑はさらし刑であった。

 肉体的な苦痛よりも精神的苦痛を与えることを目的とするこの刑罰は、貴族という立場を非常に鼻にかけたピエールにはぴったりの刑であった。

 ピエールの多くの罪は民の前で読み上げられ、民たちはその傲慢さと残虐さに怒りを露わにした。

 執行人たちに無理矢理移動させられているピエールは、もはや貴族としては見る影もないほどに情けない様子で命乞いをしている。

「おい! 助けてくれ! 私は高貴な血を引き継ぐ者だぞ! 神に選ばれた者なんだ! 金なら幾らでも払う!」

 これから一定期間、広場に設置された手と足をピロリーという晒し台に固定されて晒し者にし、市民の嘲笑を受けさせるのだ。
 市井しせいの者を『下賤な者』と罵っていたピエールは、逆に民たちに嘲笑われることとなったのだ。

「愚かな奴め。本来ならば俺が殺してやりたかったが、ジュリエットはそんなことは望まない。お前が馬鹿にしていた民たちの恐ろしさを知るがいい」

 キリアンはそう言って広場を後にした。

 
 しかし晒す期間を終える前に、ピエールは死んだ。

 あまりに民たちを馬鹿にした言葉を投げかけたからか、晒されながら殴られ蹴られ、石を投げられたりといった暴力を受けたのであった。

 そして最後にはその美しいと自慢していた顔に焼けた鉄を押し付けられていた。
 そのショックでピエールは息絶えた。

 下賤の者と嘲笑っていた民たちに、ピエールは鉄槌てっついを下されたのである。


 ピエールの刑を最期まで見届けたのはジャンだった。

 キリアンからの命令で連日広場に紛れ込んで様子を見ていたジャンは、晒し台でわめくピエールに辟易へきえきとしていた。
 自分がどういう状況なのか分かっていないのかと思うほどに、自分を嘲笑する民たちへ辛辣な言葉を投げつけている。

 そのようなことをすれば、民たちの怒りを増すだけだと言うのに。

 きっとキリアンは自身の手でピエールに鉄槌を下したかったであろうが、ジュリエットの為に堪えたのだとジャンは理解していた。

 刑を見届けている最中に、ジャンは何度もピエールへ石を投げつけたくなったが、あの無垢なジュリエットのことを思えばそのようなことをしてはならない気がしたのだ。

 結局、過酷な最期を迎えたピエールについてジャンはキリアンに全てを報告するのであった。

 
 全ての悪には然るべき制裁『悪魔の鉄槌ルシファーズハンマー』が下されたのである。








しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

処理中です...