真実の愛を見つけましたわ!人魚に呪いをかけられた箱入り令嬢は、好みの顔した王子様のようなお方を溺愛しております

蓮恭

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49. いつまで経っても素直になれないお方ですわね

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 翌朝は快晴で予定通り昼前には集落へと戻れそうであった。

 ただし、早起きをしたジュリエットにマーサが驚いて何事かと大騒ぎになった。

 そして集落の人々へ渡せと大量のお土産を渡してくる家族に、歩いて集落に向かわなければならないからと丁重に断りを入れたりと目まぐるしい朝であった。

「おはよう……、お嬢……」
「ジャン、どうしたの?」
「二日酔いだよー……」

 こめかみを抑えながら朝食の場に現れたジャンは、頭痛と吐き気に襲われていた。

「ジャンさん、こちらをいかが? 二日酔いにはとても効きますのよ。私が作らせた特製の野菜ジュースですわ」

 伯爵夫人が緑色のドロドロとした液体を手渡してきたから、ジャンは仕方なしに一気飲みをした。

「味はともかく、二日酔いには効きそうですね……」

 眉間に皺を寄せて独特な風味に身体を小刻みに震わせながら答えたジャンに、夫人はニコニコと頷いた。

  

 荷物は必要最小限にして、ジュリエットはジャンが御者席に座る馬車でメノーシェ伯爵邸を後にする。

「ジュリエットー! 幸せになるのよー!」
「あねうえー、ジャン! またー!」

 夫人とマルセルは邸の門の前で大声を出しながら手を振っている。
 伯爵は声こそ出さなかったが、片手を上げてジュリエットを鼓舞した。
 マーサと家令のダグラスも傍で頭を下げて見送っている。

 馬車の中で一人になったジュリエットは、とうとう堪えていた涙をボロボロと零した。

 自分は望んでキリアンに嫁いだ身であるから、暫くはこちらへは戻って来ない。
 それに、例え戻ったとしても徐々に身体に変化が訪れているこの状態では家族やマーサにいつバレるかと気が気では無いのだ。

 涙は真珠となって、ジュリエットの膝の上に敷いたハンカチに溜まっていく。

 膝の上でコロコロと転がる真珠は確かに美しいが、呪いを受けたジュリエットにとっては忌まわしいものでしかなかった。

 やがて泣き止んだジュリエットは、ハンカチの上の真珠を荷物から取り出した瓶に詰めてそっと再び忍ばせた。
 これをエマ婆さんのところで換金すれば、子どもたちのために何か役立つかもしれないと考えると少し救われるような気がしたのだ。

「お金に困ったときには、泣けばお金になる真珠が出てくるのは便利なことよね」

 苦笑いをしたジュリエットはどこか自嘲気味に呟いた。

 本当は嬉しくとも何ともないけれど、前向きな言葉を言わなければ近頃は負の感情に負けそうになってしまうのだ。

 腫れぼったくなった瞼を一度閉じてから、視線を窓の外へと向ける。
 馬車の窓から望む景色は、ジュリエットにとってはまだまだ珍しく感動的な美しさであった。
 遠くに見える街並みや動物の群れ、木々、通り過ぎる幌馬車など。
 キリアンに出会うことなく、邸にいたままでは見られなかった景色がそこに広がっている。

「例え愛を返されずに儚くなったとしても、キリアン様を選んだことを後悔なんてしてないわ。これが私の人生であり、運命さだめなのだから」

 窓から見える力強い自然の営みにパワーを貰ったジュリエットは、また元気な表情を取り戻した。

 これまで何度も落ち込むことがあった。
 その都度気持ちを持ち直すことができたのは、ジュリエットが強い精神力の持ち主であったからであろう。

 やがて馬車はジョブスの小屋の前にたどり着いた。
 ジョブスは馬車の走る音に反応してか、外に出迎えに来ようと小屋の扉を開ける。
 そしてジョブスと共に小屋から出てきたのは、ジュリエットと視線を合わせようとしないキリアンであった。

「キリアン様! どうなさったのですか?」
「本をたくさん持ち帰ると聞いていたから、ジャンだけじゃ心許こころもとないと思って。それに……ジョブスに用もあったしな」

 ジュリエットが思わずキリアンの後方のジョブスの方を見ると、ジョブスは困ったような顔をして首を左右に振ったのである。
 ジュリエットは、キリアンが重い荷物の為だけに自分たちを迎えに来てくれたことを悟って、大輪の花が綻ぶように美しい微笑みを浮かべた。

「ありがとうございます、キリアン様」
「たまたまだ。ジョブスに用があったから、それでついでに荷物を持って行けばいいかなと思っただけだ」
「まあ、素直に私に会えず寂しかったとおっしゃればよろしいのに」
「はぁ? いつ俺がそんなこと言ったよ?」

 そんな二人のやり取りを、ジャンとジョブスは生暖かく見守っている。

 今日中の何時ごろに帰るかなど伝えておらず、キリアンは朝から……いやもしかしたら昨日の夜からジョブスの家に泊まりがけで、ジュリエットとジャンを待っていたのかも知れない。

 そう考えたらジュリエットは湧き上がる喜びを隠さずにはいられないのである。






 
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