真実の愛を見つけましたわ!人魚に呪いをかけられた箱入り令嬢は、好みの顔した王子様のようなお方を溺愛しております

蓮恭

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45. 人魚一族に対する人間たちの強欲さには辟易といたします

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 ティエリーを後にしたジュリエットとジャンはメノーシェ伯爵邸へと急いだ。
 ジュリエットは少しでも早く集落に戻りたかったから、御者席のジャンには馬車の乗り心地よりも速さを要求した。

「うっ……! 気持ち悪い……」
「だから言っただろ。貴族様の乗るような馬車じゃないから酔うって」
「だって……」

 メノーシェ伯爵邸に着く頃にはジュリエットは馬車に酔ってしまい、青白い顔で口元を押さえていた。

「ジュリエット! おかえり!」

 家令のダグラスから知らせを受けた伯爵は、早足で玄関ホールへと現れた。
 後ろからは伯爵夫人も追いかけている。

「お父様、お母様、ただいま戻りました」

 何とか持ち直して久々のカーテシーをしようとすれば、ジュリエットは脚が上手く機能せずにふらりとよろける。

「大丈夫か? すっかり庶民に馴染んだようだな」
「ジュリエット、無理はしていないの? 食事は? 眠れているの?」

 一瞬の狼狽を笑顔で隠したジュリエットは、朗らかに答えた。

「馬車酔いと、長い間カーテシーをしていなかったものですから、すっかりと出来なくなってしまいました。私は元気ですわ。集落の皆さんも良い方ばかりですし、日々とても幸せです」

 安心した様子の伯爵夫妻に、ジュリエットはホウッと息を吐いた。
 ジャンはキョロキョロと邸の中を見渡しては、感嘆の声を上げていた。

「お嬢って、本当に凄い環境で生まれ育ったんだね。それでよくあんなところに馴染めたなあ」
「愛の成せる技ですわ。私は部屋に本を取りに行くから、ジャンはサロンで寛いでいて。御者役も大変だったでしょう」

 ダグラスに案内されてジャンはサロンへと向かって行った。
 そして両親との久々の抱擁を交わしたジュリエットは、話もそこそこに自室の本棚から教育に役立つものを選んで使用人に馬車へと運ばせた。

「そんなに本を持ち帰って何に使うんだ? 子どもの頃に読んでいたものまで」
「お父様、私今先生になっておりますのよ。集落には勉強をする機会に恵まれなかった子どもたちがたくさんおりますの。老人たちと共にその子達に勉強をおしえているのです。とてもやり甲斐のあることですわ」
「まあ! それは素晴らしいことね。それで、他にはどんなことをしているの?」

 ジュリエットは両親に集落での暮らしぶりや、親しくなった人々の話をした。
 娘に庶民の暮らしが出来るのかと心配していた伯爵夫妻も、どうやら胸を撫で下ろしたようだ。

「お父様、それで伺いたいことがございます。人魚の呪いを授けて儚くなったセレナ嬢の父君にお会いしたいのですが、可能でしょうか?」
「……もう、あの方は儚くなられた。一族ももうこの国には残っていない。そもそもあの一族は元はただの商人で、たまたま人魚の涙という真珠が王家の目にとまった為に新興貴族となったのだ。あの呪いの一件から以降、あの一族は衰退していった。そのうち人魚の涙を生み出せる女の人魚が居なくなったのが原因らしいが……」

 伯爵は遠くを見つめて語る。
 その目は昔を思い出しているのか、どこか傷ついたような切ない表情であった。

「何故人魚は居なくなったのですか?」
「……人間たちの人魚狩りだよ。高価な人魚の涙を手に入れようとした悪い人間たちが、かの一族の人魚たちを拉致監禁し、果てには拷問にかけたりすることで徐々に数が減ったようだ。そのうち生き延びた人魚達はこの危険な陸を去ったのだとか。それであの方の一族はこの国から消えた。人魚についてはある意味この国のタブーのようになっているから、それ以上詳しいことは私にも分からないんだ」

 人間たちの強欲さに、ジュリエットは顔を歪めた。
 それほどまでに胸が痛むのはジュリエット自身も人魚のように身体が変化しているからなのか。

「そうですか……」

 伯爵は沈痛な面持ちのジュリエットに、何かを感じ取ってか心配そうに声を掛けた。

「何かあるのか? お前があの方にお会いしたいなどと言い出すのには訳があるんだろう? まさか……、体調が優れないのでは……?」
「そうなの? ジュリエット。きちんと話してごらんなさい」

 いつまでも娘の心配をする両親。
 そんな両親にジュリエットは笑顔で応えた。

「いやですわ、お父様。私の呪いは綺麗さっぱり解けたのですよ。それをご報告しようと思ったまでですわ。もしかしたら呪いのことを未だに気に病んでらっしゃるかも知れないと考えただけです。儚くなられたのであればそれで致し方ありません」

 ジュリエットの言葉にホッと肩の力を抜いた伯爵夫妻は、感極まって再び娘を強く抱き締めたのであった。


 


 
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