33 / 67
33. 呪いの真実に気づきましたの
しおりを挟む「何よ! あんたみたいなお嬢様にキリアンみたいな男は似合わないわ! どうせキリアンの仕事のことも知らないんでしょ⁉︎ 教えて貰っていないってことはその程度の関係ってことじゃない!」
確かにジュリエットはキリアンの仕事のことについては聞いていなかった。
それでも、この集落に来てまだ二日なのだ。
例え何か話してくれていないことがあろうとも、これから先の長い夫婦生活で話してくれればそれで良いのだとジュリエットは考えていた。
「その程度の関係なんていうことは重々理解しております。それでも、私がキリアン様の妻であることは変えようのない事実ですから。誰に何を言われようともそれは変わりませんわ。例えアリーナさんがキリアン様と深い関係があったとしても、妻は私一人なのですから。これから先の長い夫婦生活でキリアン様にゆっくりとお話をして頂くことにいたします」
生まれ持った貴族としての矜持か、はたまたジュリエット本来の性格もあったのだろうか。
アリーナの言葉に対して、ジュリエットは決して負けまいと自分の気持ちをぶつけたのであった。
「はっ! やっぱりお嬢様は気取ってるわね! そんなんじゃすぐにキリアンに愛想をつかされちゃうわよ? お子様体型の可愛らしいお嬢ちゃん」
こめかみに青筋を立てたアリーナはザバンと泉から出ると、口の端をいやらしく上げながら捨て台詞を吐いて去っていく。
暫く呆然と月明かりに照らされた水面を見つめていた。
確かに豊満な体型のアリーナは女性から見ても美しく、ジュリエットだって羨む気持ちが湧かないでもない。
「私だって……」
そう呟いて自らの胸のあたりを見下ろすが、まだ十七歳のジュリエットはアリーナのように成熟した体型でないことは確かであった。
そのままザブッと頭の先まで潜って、しばらく沈んだあとにザバァッと水面から飛び出した。
「キリアン様を愛する気持ちは誰にも負けませんもの! お胸の大きさが何ですか! 私には私の魅力がありますわ!」
泉から上がったジュリエットの四肢に付いた水滴が、月の光と松明に照らされてキラキラと光る。
「……あら? これは……」
ふと、普段は目につかないような右脇腹三センチほどの範囲に煌めくものを見つけた。
硬くて光沢のある虹色の……
「鱗……?」
虹色の鱗のようなものはしっかりと皮膚に密着していて、少し触った程度では剥がれそうにない。
小さな鱗が歪な楕円形の範囲に広がっている。
――『お前のその腹の中の子が十八になるまでに真実の愛を見つけ婚姻を結ぶ事ができなければ、その子は人魚病となりやがてその苦痛から息絶えるだろう』
あの切ない人魚の話を思い出す。
思えば、いつ人魚病になるのかははっきりと示されていなかった。
ただ、分かっているのは『十八になるまでに……できなければ』ということだけで。
別にそれより以前から身体の変化が起こらないとは言われていなかったのだ。
それに『真実の愛を見つけ』は、きっと一方的な愛では駄目だったのだろう。
ただ契約のように婚姻結ぶだけではなく、同じようにキリアンからも愛を返されないといけないのだ。
邸でいた頃にはこのような鱗はなかったように思う。
果たしていつ変化したのかは分からなかった。
呪いの真実に気づいたのは……今はジュリエットだけ。
「間に合うかしら……。あと十ヶ月……」
月明かりに照らされて美しく虹色に光る脇腹の鱗は、悲恋を嘆いた人魚の呪い。
あと十ヵ月でキリアンに愛を返されなければならない。
それまでにどんどん身体は人魚病の呪いに蝕まれていくのだ。
そして十ヵ月後に間に合わなければいずれはその苦痛によってジュリエットは死に至る。
「やれるだけのことをするしかありませんわね。例えそれで駄目だったとしても、私はいっときでも最愛の人の妻であることが出来たのですから幸せ者ですわ」
アメジストのような瞳の端に知らず涙が滲んだ。
ゴシゴシと手の甲で拭ってからジュリエットは今日の水浴びを終えた。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。
ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」
出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。
だがアーリンは考える間もなく、
「──お断りします」
と、きっぱりと告げたのだった。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる