真実の愛を見つけましたわ!人魚に呪いをかけられた箱入り令嬢は、好みの顔した王子様のようなお方を溺愛しております

蓮恭

文字の大きさ
上 下
27 / 67

27. キリアンたちの願い

しおりを挟む

 クライヴ会長とグロセ伯爵たちの悪事の末に稼いだ金を乗せた荷馬車は、昼間であっても人気の少ない山道を走っていた。
 少し離れた後方からはクライヴ会長の乗った馬車がついて来ていたが、まさかこの険しい山道でキリアンたち盗賊に襲われるなど夢にも思わなかっただろう。

「止まれ! 命が惜しいなら荷を置いて逃げやがれ!」

 端金で雇われた御者は、武器を持った二十人程の賊集団の登場に命が一番だとさっさと逃げ出していく。

 慌てた後方のクライヴ会長と二人の護衛が盗賊たちに声を荒らげた。

「お前ら! 何者だ! こっちは最新式の拳銃を持ってるんだぞ!」

――パーンッ!

 威嚇のためか一発の銃声があたりにこだました。

 だが、キリアンを筆頭に集落の盗賊たちは皆腕に自信のある者たちばかりで弓矢や剣で一丁の銃と剣を携えた逞しい護衛たちに戦いを挑む。

「くそっ! こっちは銃だぞ! 古典的な弓矢なんかにやられてたまるか!」

 クライヴ会長はその大きな腹を揺らしながら馬車の影から銃を放つ。

 そのうち銃の弾が切れ、会長は護衛たちに後を任せて乗って来た馬車に立て籠った。
 馬車の外では剣を切り結ぶ音や矢が馬車に刺さる音などが入り混じっていたものの、もはや多勢に無勢であった。

 二人の護衛たちも腕に覚えのある者たちであったが、統制の取れた賊の集団を前には荷馬車を捨ててクライヴ会長とともに馬車で逃げるのが精一杯であった。

 大きな音をたてながらクライヴ会長と護衛を乗せた馬車は逃げ去っていく。
 残されたのは荷馬車のみで、その幌のついた荷台には様々な商品で隠すようにして大金が積んであった。

「よっし! じゃ、撤収するぞ! 金はみんなで分担してそれぞれの馬に積み込め!」
「このまま山を抜けて、集落へ帰るよ!」
「「「おおーっ!」」」

 残されたのは荷馬車と馬車の轍、多数の馬の蹄の跡だけであった。



「キリアン、こんだけあれば今までのと合わせて暫くは無理して盗賊稼業しなくても済むね」
「まあそうだな。子どもたちにも学ぶための場所を作ってやれるし、集落の年寄りたちにも今よりはまともな暮らしをさせてやれるだろ」

 キリアンとジャン、そして集落の盗賊たちはそれぞれが目立たぬように分かれて森の集落へと帰って行った。

 そして集落の中心部にある集会場で金の分配をしたのである。

「今回で、今までの分と合わせれば子どもたちの学ぶ場所を作ってやれる。勉強の本だって買ってやれる。働くことのできない年寄りたちや病人には今よりは安心した暮らしをさせられる。そして残りは今まで通り皆で分配する。いいか?」

 キリアンは集会場に集まった二十人の同胞たちを見回しながら声をかける。

「「異議なし!」」
「しばらくはこれで爺様たちも安泰だな」
「子どもたちにも勉強させられる」

 口々にホッとした様子の仲間を見て、キリアンとジャンは肩の力を抜いた。

 今まで盗賊で手に入れた金は弱者の為に使うためのものである。
 賊の仲間の中にはまだ若い少年とも呼べるような者たちもいた。
 そのような者には裏の仕事はさせたくはなかったが、必要に駆られれば仕方のないことである。
 何よりその者たちが弱者の為に、自分たちが満足に得られなかった教育を子どもたちにと、望んで賊稼業に参加しているのだから。

 ジュリエットと婚姻を結んだ時にメノーシェ伯爵からもらった五千万ギルと、今回の仕事で手に入れた大金があれば慎ましくやればこれから先暫くはこの集落での産業や農業だけでも同胞たちはやっていけるだろう。

 元々貴族のように、裕福な商人のように贅沢な暮らしをしている者などこの集落にはいないのだから。

「それじゃ、皆今までご苦労だった。俺は根っからの盗賊だった爺さんや親父とは違う。盗賊稼業を無理に続ける必要がないように考えていく。子どもたちの学ぶ場については後日集落の者を集めて話し合おう。」
「「おおーッ!!」」

 昔は盗賊や訳ありの犯罪者、亡命者が多かったこの集落にもここで生まれて林業だけに携わる世代も多くなって来ている。

 キリアンは新しい世代の子どもたちには、後ろ暗い道ではなく明るい道を歩いて欲しいと願っていた。

 時代も変わり盗賊稼業などそう上手くいくものでもなくなってきたのだ。
 取り締まる方の武器は強力になり、捕まるリスクが高まった。
 道も整備されて見通しがよく、貿易の盛んになった街道は物を運ぶ者たちも多く行き交い盗賊からすれば無闇矢鱈とは襲いにくい。

 つまり、盗賊稼業はそろそろ辞めどきなのだ。

「キリアン、お疲れ様。もうすぐお嬢を工房に迎えに行くんだろ?」
「あ、ああ。そうだったな。」
「あとは俺が今度の集会で話すことをまとめておくからさ。行って来い!」

 細目のジャンはより一層目を細めながら、キリアンに向けて親指をグッと立てて口の端を持ち上げた。
 
「……お前、それ見えてんのか?」
「失礼だな! 見えてるよ!」
「くくっ……。悪りぃ悪りぃ。冗談だよ。じゃ、ちょっくらお嬢さんのお迎えに行ってくることにするわ!」

 冗談を交わしながらもお互い緊張感からの疲労感は抜けない。
 だが、もうそれも終わり。

 キリアンはこれからの集落の未来を思えば足取りが軽くなるのであった、



 





 
 



 




 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

殿下、真実の愛を見つけられたのはお互い様ですわ!吸血鬼の私は番いを見つけましたので全力で堕としにかかりますから悪しからず

蓮恭
恋愛
「アドリエンヌ嬢、どうか……どうか愚息を見捨てないでくださらんか?」  ここガンブラン王国の国王は、その痩せた身体を何とか折り曲げて目の前に腰掛ける華奢な令嬢に向かい懸命に哀訴していた。 「国王陛下、私は真実の愛を見つけてしまったのです。それに、王太子殿下も時を同じくして真実の愛を見つけたそうですわ。まさに奇跡でしょう。こんなに喜ばしいことはございません。ですから、そのように国王陛下が心を痛める必要はありませんのよ。」  美しい銀糸のような艶やかな髪は令嬢が首を傾げたことでサラリと揺れ、希少なルビーの様な深い紅の瞳は細められていた。 「い、いや……。そういうことではなくてだな……。アドリエンヌ嬢にはこの国の王太子妃になっていただくつもりで儂は……。」  国王は痩せこけた身体を震わせ、撫でつけた白髪は苦労が滲み出ていた。  そのような国王の悲哀の帯びた表情にも、アドリエンヌは突き放すような言葉を返した。 「国王陛下、それはいけませんわ。だって、王太子殿下がそれをお望みではありませんもの。殿下はネリー・ド・ブリアリ伯爵令嬢との真実の愛に目覚められ、私との婚約破棄を宣言されましたわ。しかも、国王陛下の生誕記念パーティーで沢山の貴族たちが集まる中で。もはやこれは覆すことのできない事実ですのよ。」 「王太子にはきつく言い聞かせる。どうか見捨てないでくれ。」  もっと早くこの国王が息子の育て方の間違いに気づくことができていれば、このような事にはならなかったかも知れない。  しかし、もうその後悔も後の祭りなのだ。  王太子から婚約破棄された吸血鬼の侯爵令嬢が、時を同じくして番い(つがい)を見つけて全力で堕としていくお話。   番い相手は貧乏伯爵令息で、最初めっちゃ塩対応です。 *今度の婚約者(王太子)は愚か者です。 『なろう』様にも掲載中です

処理中です...