真実の愛を見つけましたわ!人魚に呪いをかけられた箱入り令嬢は、好みの顔した王子様のようなお方を溺愛しております

蓮恭

文字の大きさ
上 下
26 / 67

26. 下衆の人間たちの欲望

しおりを挟む

 まるで白亜の城のような豪華な洋館の一室で、二人の男が日中からワインを嗜んでいた。

「グロセ伯爵、それでは今から商会の方へ金を運ばせてもらいますよ。グフフっ……」

 でっぷりとした腹に脂ぎった皮膚、口髭を特徴的に整えている男は可笑しな声で笑いながら揉み手をしてもう一人の男へと話しかける。

「クライヴ会長、本当にこのような昼間に金を運んで大丈夫なのか? 私は毎回気が気ではないんだ。人目につかない夜間の方が良いのでは?」

 そう答えるのは金髪を後ろに撫でつけて青い瞳をしていかにも貴族然とした仕立ての良い豪華な服を身につけた壮年の男。
 このグロセ伯爵というのは、爵位は伯爵位でありながら最近裏では少々悪どいことをしていてかなり羽振りが良いことから公爵家、侯爵家などの高い身分の貴族達とも付き合いが深い人物であった。

「はははは……! いやはや、伯爵はまだ悪事に慣れてらっしゃらない。いいですか? 夜間に馬車が走れば怪しい物を運んでいますと言っているような物ですぞ。昼間であれば商会で取り扱いする商品を運んでいてもおかしくありませんからな。グフフっ……」

 クライヴ会長と呼ばれて高笑いをする男は、口髭の左右均等なカールと毛先の上に上がる角度にこだわりを持つ一癖も二癖もある人物である。
 表向きは大規模な商会を営んでいる会長であるが、裏では多様な犯罪に手を染めている悪人であった。
 犯罪者が手に入れた危ない金を貴金属や金塊に変え、資金洗浄マネーロンダリングしたりすることなどこの男にとっては簡単なことである。

 特に貴族に対してひがみのような感情を持っており、自分の方が資産を持っているにも拘らず爵位がない為に貴族たちに下目に見られていることを嫌っていた。

 だから、国外への人身売買という金儲けの手を思い付いた時に敢えて貴族を巻き込んでやろうと思ったのだ。
 貴族たちは自分たちが人身売買で儲けていると喜んでいるが、資金洗浄マネーロンダリングの際には随分と手数料を差し引いている。
 それにもし捕まるようなことがあったとしても爵位を持つ貴族たちは失うものが多い。
 自分のところまで捜査の手が伸びるまでに、裏稼業仲間の殺し屋にでも頼んで関係する貴族たちの口を封じれば良いと考えていた。

 貴族たちが金儲けで喜ぶ顔を見ながら、腹の中でそんなことを考えるだけでもクライヴのどす黒い欲求は満たされるのである。
『こいつらを良いように使っているのは私の方だ』と。


「成る程な。クライヴ会長の言うことも尤もだ。それでは頼んだぞ」
「はいはい。グロセ伯爵、それでは資金洗浄マネーロンダリングが無事済みましたら連絡さしあげますから。楽しみにお待ちくださいね。グフフっ……」

 そうして白亜の城のような洋館から、一台の荷馬車が出発したのであった。
 荷馬車の後には少し離れてクライヴ会長の乗った馬車がついていく手筈になっている。

 グロセ伯爵は二階の執務室の窓から荷馬車を見送っていた。

「フンっ! 品のない悪徳商人風情が!」

 そう独り言ちた時、執務室の扉がノックされたのである。

――コンコンコン……

「父上! 私です。ピエールです」
「ピエールか……。入れ」

 扉から入って来たのは、色白で明るい金髪の癖毛を肩まで伸ばし、まるで海のような青い目をしたグロセ伯爵家の嫡男ピエールであった。
 そう、以前ジュリエットに求婚し見事に振られたあの令息だった。

「父上、やはり私はジュリエット嬢を諦めることができません。あの美しい花のような色の髪や、高価なアメジストのような瞳、あのように美しく若い女性はジュリエット嬢以外には今この国には居ません。」
「だが、メノーシェ伯爵の言うことにはジュリエット嬢は平民と婚姻を結んだとか。……馬鹿な娘だ」

 フンっと小馬鹿にしたように鼻息を漏らすグロセ伯爵は、息子の病的な『美しい自分好みの美しい物を求める』性格に呆れていた。

「ですが父上、あのような娘こそ美しい私に相応しいのです。私の持つ色とあのジュリエット嬢の持つ色こそがこの国で一番美しい子を作る要素だと思うのです。何としてもジュリエット嬢を取り戻したいのです。正妻は無理でも、愛妾ならばどうですか?」
「愛妾だと? 全くお前は……」
「父上だって攫って来た若い娘の中から気に入った者を塔に監禁しているではないですか。私も同じようにジュリエット嬢を囲いたいのです。そして私との子を産ませ育てればこの国でも指折りの美しい子が出来ますよ」

 恍惚とした表情で語るピエールは、自尊心の強いナルシストであり利己的な性格の持ち主で、美しい自分とその歪んだ願いのためならば周囲のことなどお構いなしであった。

 グロセ伯爵も洋館の塔に囲った『お気に入り』たちのことを言われれば、強く出れないのである。

「はあ……。勝手にしろ。ジュリエット嬢はどうやらティエリー近くの森深くの集落に住んでいるらしい。くれぐれも、私に迷惑はかけるなよ」
「ありがとうございます。父上!」

 この親子は本物の下衆であった。





 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

殿下、真実の愛を見つけられたのはお互い様ですわ!吸血鬼の私は番いを見つけましたので全力で堕としにかかりますから悪しからず

蓮恭
恋愛
「アドリエンヌ嬢、どうか……どうか愚息を見捨てないでくださらんか?」  ここガンブラン王国の国王は、その痩せた身体を何とか折り曲げて目の前に腰掛ける華奢な令嬢に向かい懸命に哀訴していた。 「国王陛下、私は真実の愛を見つけてしまったのです。それに、王太子殿下も時を同じくして真実の愛を見つけたそうですわ。まさに奇跡でしょう。こんなに喜ばしいことはございません。ですから、そのように国王陛下が心を痛める必要はありませんのよ。」  美しい銀糸のような艶やかな髪は令嬢が首を傾げたことでサラリと揺れ、希少なルビーの様な深い紅の瞳は細められていた。 「い、いや……。そういうことではなくてだな……。アドリエンヌ嬢にはこの国の王太子妃になっていただくつもりで儂は……。」  国王は痩せこけた身体を震わせ、撫でつけた白髪は苦労が滲み出ていた。  そのような国王の悲哀の帯びた表情にも、アドリエンヌは突き放すような言葉を返した。 「国王陛下、それはいけませんわ。だって、王太子殿下がそれをお望みではありませんもの。殿下はネリー・ド・ブリアリ伯爵令嬢との真実の愛に目覚められ、私との婚約破棄を宣言されましたわ。しかも、国王陛下の生誕記念パーティーで沢山の貴族たちが集まる中で。もはやこれは覆すことのできない事実ですのよ。」 「王太子にはきつく言い聞かせる。どうか見捨てないでくれ。」  もっと早くこの国王が息子の育て方の間違いに気づくことができていれば、このような事にはならなかったかも知れない。  しかし、もうその後悔も後の祭りなのだ。  王太子から婚約破棄された吸血鬼の侯爵令嬢が、時を同じくして番い(つがい)を見つけて全力で堕としていくお話。   番い相手は貧乏伯爵令息で、最初めっちゃ塩対応です。 *今度の婚約者(王太子)は愚か者です。 『なろう』様にも掲載中です

処理中です...