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24. 自然と声も大きくなりましたのよ
しおりを挟む「悪いな。昨日の集会の話聞いてると思うが、俺の嫁さんをここで働かせてくれるか? まだ何にもできねぇと思うが……色々と集落の暮らしについても教えてやってもらいたいんだ。見た通りのお嬢様だけど、やる気だけはあるみたいだからさ」
キリアンがアンに向かってジュリエットのことを頼むと、茶色く意志の強そうな瞳を持ったアンはジュリエットの方へと視線を向けた。
「ふうーん……まあ旦那から聞いてはいるよ。何やらどこぞのお嬢様がキリアンを無理矢理モノにしたってな。それで? あんた名前は?」
「申し遅れました。ジュリエット、と申します。不束者でございますが、よろしくお願いいたします」
そう言って庶民の格好ではあったが、凛としたカーテシーでアンに挨拶をした。
ジュリエットにとってカーテシーは最上級の敬意を払った挨拶だったのだから。
「なんだいなんだい、そんなお嬢様の挨拶からまず直しな! いいかい? ここには貴族はいないんだから、挨拶はお辞儀で充分だよ! 分かったね?」
「は、はいっ! 承知いたしました」
アンの少し掠れた迫力ある声に、ついジュリエットも大きな声で返事をした。
「よし! アタシはアンってんだ。元が貴族のお嬢様だからってここの住人になったからにゃ容赦しないよ! いいね?」
「はいっ! よろしくお願い申し上げます!」
「ははははっ……! いいね! その気合いは買ってやるよ! キリアン、また夕方に迎えに来てやんな。それまでジュリエットは預かっておくよ」
ジュリエットはアンの迫力に、直立不動のままでその場で動けずにいる。
キリアンとジャンはこの中年の女の性格を知っていたから、安心してジュリエットを預けることにした。
「じゃあ頼んだぞ」
「お嬢、頑張ってね」
そう言って工房を出て行く二人をジュリエットは手を振りながら笑顔で見送った。
「さっ! 早速仕事を与えるよ! ジュリエットは何が出来るんだい?」
「私は……、きっと皆さんのお役に立てるような事は何にもありません」
「そうかい? それなら一から教えるからね、よく聞いておくんだよ」
そう言ってアンは工房の奥へと歩いて行く。
この工房は家具の部品などを作っているようで、鼻腔をくすぐる木の香りとそこかしこに見える机の足や椅子の背もたれなどがそれを示していた。
「ここはね、切り出した材木を加工して家具を作ってるんだよ。この集落では女たちの大切な仕事さ」
色々な家具の部品や出来上がったものの在庫が置いてある通路を歩いていけば、広く明るい空間に出た。
天井は天窓のように灯り取りが作られて非常に明るく、作業台の上では多くの女たちが家具の部品を加工したり色を塗ったりしている。
「みんな! ちょっと聞いとくれ!」
アンが大きな声で呼び掛ければ、作業中であった女たち二十人ほどが一斉にアンとジュリエットの方を見た。
「新しく集落の仲間になったジュリエットだよ! 頭領の嫁さんだ! 皆、仲良くしてやっておくれよ!」
「ジュリエットと申します。不束者でございますが、よろしくご指導いただければと存じます」
ジュリエットは先程の教訓を生かして、丁寧なお辞儀をした。
アンはそんなジュリエットを見て隣で大きく頷いている。
「いいね! この子は何にも知らないらしいけど、やる気だけはあるんだってさ! しっかり教えてやんな!」
「「「はーい!」」」
多くの女たちがペコリとお辞儀をしながら笑顔で返事をする。
一部の女たちは怪訝そうな顔でジュリエットを見ていた。
「それじゃあ早速、仕事を教えるよ。まずは簡単な仕事からだね」
「はい!」
ジュリエットは貴族であった時にはこのように大きな声で返事をしたことはなかったが、アンの前では自然とシャキッと背筋が伸びて声も大きくなるのであった。
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