真実の愛を見つけましたわ!人魚に呪いをかけられた箱入り令嬢は、好みの顔した王子様のようなお方を溺愛しております

蓮恭

文字の大きさ
上 下
18 / 67

18. 妻でいられることが最上の喜びですわ

しおりを挟む

 ジュリエットはキリアンの言葉に尋ねたいこともあったが、とにかくその場では再び皆に丁寧な礼をするに留めた。

「お嬢、良かったな。ひとまず家長かちょうたちには受け入れられたみたいだし」

 そう言ってジャンは間に挟んだキリアンを避けるように、前側に体を倒してからジュリエットを覗き込むようにして声をかけた。

「はい、あとは私の努力次第ということですわね」
「おっ! 頑張れ、お嬢!」

 ジャンは細い目をなんとかウインクさせて、親指を立ててはジュリエットを鼓舞した。

 そのあとはジュリエットがキリアンに連れられて集会場の中を挨拶巡りをしてまわった。
 キリアンは婚姻したばかりの人間だとは思えない程ににこやかとは程遠い仏頂面ではあったがきちんとジュリエットを妻だと紹介し、ジュリエットもキリアンに紹介される度緩む頬に叱咤しながら真摯に挨拶をしてまわった。

「それにしても、キリアンがねえ……」

 挨拶まわりをしていくたびにニヤニヤしながら家長たちの呟くその言葉に、キリアン毎度苦い顔をしていた。
 ジュリエットは首を傾げてはニコニコとしていたので皆もそれ以上のことは喋らなかったが、ある壮年の男がとうとう話してくれたのだった。

「あんなに取っ替え引っ替え女を変えてたのになー。それで最終的に連れてきたのがこんなお淑やかな貴族のお嬢さんなんだから、分かんねえもんだなあ。遊びと嫁は別か? 箱入り娘の嫁さんも心配が尽きねえな」

 顔を赤らめてどうやら酔っ払った様子の壮年の男は、少し絡んで貴族出身のジュリエットを困らせようとしたのかも知れない。
 ジュリエットはどこからどう見ても貴族出身だと分かるが、他の皆はそこに敢えて触れなかっただけである。

 キリアンは非常に罰の悪そうな顔をしていたが、そのうち片手で顔を覆ってため息を吐いた。
 そしてキリアンが口を開こうとしたところでジュリエットが男に応えた。

「私の方がキリアン様にとてつもない運命を感じまして、無理矢理押しかけたようなものですのよ。過去などどうでも良いのです。私はこれからキリアン様の妻でいられることが最上の喜びなのですから。わざわざご心配していただき、痛み入ります」

 最高級のアメジストのようだと家族が褒めた美しい紫の瞳をふわりと細めて、薔薇色の唇はゆっくりと弧を描く。
 そしてジュリエットは平民姿で渾身のカーテシーを披露したのだった。

「私は世間知らずな箱入り娘でございました。しかし今後はこちらで皆さんと良好な関係を築けるよう精進してまいります。どうかご指導くださいませ」

 どうせジュリエットが貴族出身だということなど隠せるものでもないのだ。
 それならば、はじめからジュリエットらしい挨拶をすれば良かったと思っての行動だろう。
 自分から素を曝け出さなければ、他人に信用などしてもらえないのだから。

「お、おう……。まあ頑張れよな」

 酔いからなのかジュリエットの行動からなのか、顔をより一層赤らめた壮年の男は幾分か身体を小さくして答えた。
 そんな男を、周りの男たちがバシバシと叩いたり励ますように肩をポンポンと叩いては笑っている。

「なんだー、お嬢様にしてやられたな!」
「お嬢さん! 頑張れよー」
「キリアン! 嫁さんを大切になー!」

 口々にそこかしこからジュリエットへの応援の言葉が投げかけられる。

「ありがとう存じます」

 ジュリエットは自然と笑みが零れて礼を述べ、隣のキリアンを見上げるのであった。
 キリアンの方も意外な展開に目を瞠って驚いていたものの、そのうちフッと口元を綻ばせた。

「お嬢、恐るべし人たらし能力……」

 そんな中、新緑色の瞳を細めてジャンはポツリと独りごちたのだった。
 





 
 
 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

処理中です...