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17. ジュリエット、と申します
しおりを挟む家から一歩外に出てみれば、辺りはすっかり陽が落ちて後方の木々は黒く不気味にざわめいている。
満月の明るい月明かりの中を三人は集落の中心部へ向かって歩いて行った。
途中に見える家々は窓からオレンジ色の温かな光が漏れており、時折中から住民たちの楽しそうな声も聞こえてくる。
「着いたぞ」
三人の目の前には、そこらの家よりも大きめの木造平家の建物がある。
窓から灯りが漏れており、ガヤガヤと騒がしい。
早くから誰かが中で待っているようだ。
三人は揃ってた建物の中へと入っていった。
集会場と呼ばれる建物の中は玄関と広い空間が一つ。
すでに多くの集落の人々が木でできた椅子に座って談笑していた。
「おお、キリアン! ジャンも! 遅いじゃないか」
「奥方はそちらかな? 早く紹介せんか」
奥の方で老年に差し掛かる男性たちが数名固まって談笑していたが、キリアンたちを見つければ声を掛けてくる。
「すまない、ちょっと色々あって遅れた」
軽く謝ったキリアンたちは、その広い部屋の一番奥にある一段高くなったところへと向かった。
室内に集まった二十人ほどの面々は男ばかりで、皆が見知らぬ人間であるジュリエットへ注目している。
キリアンはそれに向かい合うように一段高くなった場所の真ん中へ置かれている装飾の施された少し大きな椅子へと座った。
そしてジャンはその右隣の椅子へ、ジュリエットには左隣の椅子に座るように言う。
まるで玉座のように一段上がったその場所へキリアンたちが腰掛けると、ざわついていた室内も水を打ったように静まり返る。
「今日は突然集まってもらってすまなかった。実はこの集落に一人迎えることになった。名はジュリエット。……一応俺の嫁さんだ。悪いが世間知らずのお嬢さんだから何かあったら色々教えてやってくれ。頼む」
そう言うと、キリアンは隣のジュリエットへ向かって頷いた。
ジュリエットはそれに応えて頷く。
「ジュリエット、と申します。私は不束者で、簡単なことも何も存じ上げません。ですがこれから多くを学びたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたしますわ」
本来ならば立ち上がってカーテシーをしたであろうが、貴族を嫌う者たちもいるかも知れぬ中そのような振る舞いは相応しくないと考え、ジュリエットは腰掛けたままの丁寧なお辞儀に留めた。
俯いたままで顔を上げずにじっとしていれば、サラリとジュリエットのローズピンクの髪が肩から零れた。
緊張しながらも暫く床の木目をじっと見つめていれば、パラパラと拍手が聞こえてきた。
ジュリエットはこの集落に受け入れてもらえるかどうかという緊張から、まだ頭を上げることはできなかった。
そのうちヤジのようなものも飛んでくる。
「いいぞー! お嬢さん、キリアンとお幸せにな!」
「いつの間にこんな綺麗なお嬢様と婚姻を結んでたんだよ! めでたいのに黙っていやがって!」
「あのキリアンも頭を下げるとはよっぽどだな!」
最後の言葉にハッとしてジュリエットが頭を上げ己の右側に目をやれば、キリアンもそしてジャンまでも皆に向かって頭を下げていた。
やがて黒髪をサラリと揺らして頭を上げたキリアンが皆に向かって宣言する。
「とにかく! 俺は今まで以上に頭領の役目に力を入れるし、この集落に住む皆が幸せに暮らせるようにやっていくつもりだからな。頼んだぞ!」
「「「おおーッ!」」」
割れんばかりの掛け声が集会場を包んだ。
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