真実の愛を見つけましたわ!人魚に呪いをかけられた箱入り令嬢は、好みの顔した王子様のようなお方を溺愛しております

蓮恭

文字の大きさ
上 下
15 / 67

15. ここが私とキリアン様の愛の巣となるお家ですのね

しおりを挟む

 集落の中をぐんぐん奥に進んで行けば突き当たりはまた森が広がっており、その手前に木造の家が見えた。
 集落の一番奥にキリアンの家はあった。

「ここが俺……とこれからはあんたの家だ」
「あらあら、とても素敵ですわ! 皆さんのお家を見ていて思ったのですが、どれも木がふんだんに使われていてぬくもりの感じるお家ですわね」
「あんたの家の納戸くらいの広さしかないけどな」

 言いながらキリアンは地べたから二段ある木のアプローチ階段を上がってすぐの玄関扉の前に立った。
 上部にすりガラスの嵌め込まれた木製の扉を開けると、未だ家の外観に興味深そうに目を配るジュリエットへ中に入るよう促した。

「まあ! 御伽噺のお家のようで素敵! キリアン様、ここで私たちの新生活が始まるのですわね。とても嬉しいですわ」
「何がそんなに嬉しいんだか……。これからはアンタに庶民の生活ってやつを知ってもらわないと困るんだからな。まずトランクの中身を部屋に置いて来い」

 部屋の中の家具や調度品などをキョロキョロと見渡してはアメジストのように煌めく瞳を輝かせているジュリエットへ、キリアンは素っ気なく声を掛ける。
 しかしキリアンからの目配せでジャンが案内した部屋はとても清潔でこの家で一番日当たりの良い部屋であった。

「素敵なお部屋ですわね。こちらはキリアン様が自らご準備なさったのかしら?」
「いいや、残念ながら僕だけどね。まあキリアンから頼まれて女の子が好みそうな雰囲気にはしてみたんだけど、どうかな?」

 木をふんだんに使用して温もりの感じられる室内は、四角の飾り気のない窓に対して白のリネンカーテンが爽やかで、同じく木を使って拵えられた寝台はジュリエットの自室のものよりも随分と小さいが、それでもパッチワークの掛布がかけられて何とも可愛らしい。
 小さな机と椅子、そしてチェストは曲線の美しいデザインが施された女性らしい家具であった。

「とても素晴らしいですわ。完璧です! ジャン、ありがとう!」

 ここにはジュリエットの生家のように豪華で広々とした部屋も家具も、多くのドレスや宝飾品を仕舞う広いワードローブさえもない。
 それでもキリアンと過ごすこの家に、自分の為の部屋があることがジュリエットは幸せなのだ。

「気に入ったなら良かったよ。ここは元々キリアンの部屋だったんだけど、お嬢が来るから急いで整えたんだ。寝台はキリアンの使ってたものだけど、掛布を可愛らしい物に変えてみたんだよね」
「それではキリアン様はどこでお休みになられるの?」

 この寝台では一人寝るならば不自由はないだろうが、二人が寝るには狭いのではないかとジュリエットは心配する。
 
「ああ……それならリビングのソ……」
「あああっ! そうですわ!」

 突然手を叩いて大きな声を出したジュリエットに、ジャンは驚いて身体を跳ねさせた。

「な、何?」
「今日は……キリアン様と私の……し、……初夜ですわよね」
「しょや……?」
「そうですわ。……それは一体どちらで行うのかしら? この寝台で二人で寝るにはキリアン様には狭いのではないかしら?」

 真剣に悩み始めたジュリエットへ、ジャンは大きくため息を吐きながら一人呟いた。

「キリアン、どうすんだよ……。お嬢、すげえやる気だけど……」

 そんなことは耳に入らない様子で顎に手をやり考えるジュリエットに、少し離れた室外からのキリアンの声が届く。

「さっさと片付けしちまえよ! 今夜は会合でジュリエットを皆に紹介しないといけねえんだから」

 それを聞いたジュリエットは一瞬にして苦しげな表情を浮かべてはバッと胸に手をやり深呼吸を始めた。

「お嬢、大丈夫?」
「キリアン様が! キリアン様がジュリエットと呼んでくださいました! もう私胸が苦しくて大変ですわ!」
「はいはい。さっさと片付けしちゃおうねー。今日は集会でお嬢を集落の皆に紹介する手筈になってるからさ。夕飯も早めにすませないと」

 そう言って、うら若き令嬢のトランクの中身を恥ずかしげもなく取り出しては部屋のあちこちに分別していくジャンの段取りの良さに、結局ジュリエットが片付けたのは己の下着類だけであった。

「さっ! 荷物も少なかったし、片付けはこんなもんかな! さあ夕飯にしよう!」
「手際が宜しいのね。私も見習わなければなりませんわ。夕飯はどうなさいますの?」
「もちろんここにはお嬢の実家みたいにお抱えのシェフなんか居ないからね。自分たちで料理して食う!そして片付けまでするんだ」

 初めての体験が目白押しのジュリエットは、疲れも感じさせずにキラキラと期待に光る瞳を輝かせてジャンを見つめた。

「それはとても楽しみですわね! 料理……なんとも奥様らしい響きではありませんか! さあ、始めましょう!」

 平民の着るようなワンピース状の服を腕まくりして、ジュリエットはそのローズピンク色の豊かな髪を髪紐で一つに縛った。
 そして母の持たせてくれたフリルが沢山ついたエプロンを身につけたのである。

 
 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。

ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」  出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。  だがアーリンは考える間もなく、 「──お断りします」  と、きっぱりと告げたのだった。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...