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42. マテューとイヴァン
しおりを挟む「ヴィンセント皇帝陛下!」
「シャルロット皇后!」
城の前に数万人の群衆がグベール帝国の国旗を掲げ、遥か上にあるバルコニーへ向けて歓声をあげている。
広いバルコニーから皇帝に即位したばかりのヴィンセントと、皇后となったシャルロットが姿を現すと、帝国の民たちは歓声をより大きくして旗を振り、花を撒いた。
「皇帝陛下、これからはこの民たちを陛下と私で守っていかねばならないのですね。」
「私とシャルロットならば大丈夫だろう。きっとより良い帝国を築くことができるはずだ。」
「そうできるように精一杯尽力いたします。」
賢帝と呼ばれた前皇帝は廃妃が病死したのち、より一層グベール帝国の平和と繁栄に尽力した。
そして、ヴィンセントがシャルロットと婚姻を結んだのちに皇帝の座を退き、辺境の地にほど近い領地にある邸宅に隠居したのだ。
時々旧知の友である辺境伯と行き来しているという。
カイ皇子、ヒュンケル皇子、ジュール皇子の三人は達ての希望により皇籍離脱し、今ではそれぞれが望む職を得て市井で自由に暮らしている。
「姉上!……あ、しまった!皇后陛下!」
「マテュー!久しぶりね。」
「大変失礼いたしました。皇后陛下に拝謁いたします。」
「堅苦しいやり取りは今だけはやめましょう。元気だった?」
「うん。父上も本当は即位のお祝いに駆けつけたかったんだけど、今は隣国も落ち着かないからなかなか辺境を離れられないんだ。」
はじめは遠慮がちだったが、楽にするよう許しを得てからシャルロットに再会の嬉しさで抱きついたマテューはまだ姉のことが大好きな甘えん坊であった。
再会を喜ぶ姉弟の元へ皇帝となったヴィンセントがイヴァンを伴って入室した。
「マテュー殿も随分と逞しくなったな。辺境伯も後継が頼もしくて喜ばしいことだろう。」
「皇帝陛下に拝謁いたします。此度は御即位おめでとうございます。」
「先日の婚姻の儀には辺境伯や夫人共々参列に感謝する。」
「皇帝陛下と皇后陛下のお姿は神々しく、一枚の絵画のようでした。」
シャルロットと同じ複数色の瞳をキラキラと輝かせてマテューは語った。
「マテュー、貴方いつの間にか世辞も上手くなったのね。」
「シャルロット様、坊っちゃまももうお年頃ですから。世辞の一つでも言えねばいつまで経っても独り身ですよ。」
イヴァンはシャルロットが婚姻を結んだのちは『お嬢様』と呼ぶことはせずに『シャルロット様』と呼んでいた。
「イヴァン!お前何故姉上のことはきちんと呼ぶのに、僕のことはいつまでも坊っちゃまなんだよ!」
「坊っちゃまが立派に婚姻を結ばれました暁にはマテュー様とお呼びいたしましょう。」
相変わらずのマテューとイヴァンにセレモニーの疲れも吹き飛んだシャルロットは、皇帝となったヴィンセントに花のような微笑みを向けた。
そして、ヴィンセントも愛しいシャルロットが心穏やかでいられることを喜んだ。
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