過保護な従者に溺愛される無垢な猛毒令嬢は、愛する皇太子との婚約破棄を望む

蓮恭

文字の大きさ
上 下
38 / 44

38. シャルロット殺害

しおりを挟む

「何故!何故ミゲルが死ななければならないの!」

 葬儀を終えた皇后の私室では、調度品やティーカップが割れる音が次々と響いていた。

「全てはヴィンセントのせいよ。許さない。あの子も自分の大切な存在がなくなってしまう悲しみを知ればいいんだわ!」

 憎悪の焔をその真っ黒な瞳に宿らせ、皇后は身勝手な都合で皇太子とシャルロットを害そうと企んでいた。





「シャルロット様、皇后陛下がお呼びです。気晴らしに仕立て屋を呼ぶから、シャルロット様も新しいドレスを作るようにと仰せです。」

 ミゲル皇子の死からひと月が経ち、皇后は自室から出てくることはほとんどなくなったという。

 そんな時、皇后のお付きの侍女がシャルロットの部屋を訪れ皇后が呼んでいると伝えた。

「お嬢様、くれぐれもお気をつけください。皇后が何か企んでいるに違いありません。」
「分かっているわ。飲んだり食べたりしないように気をつける。皇太子殿下も一緒に行ってくれるからきっと大丈夫よ。」

 もちろんシャルロットだけでは皇后の部屋に行くことはせず、念のため皇太子と一緒に行くこととした。



「あら、よく来てくれたわね。ミゲルが儚くなってから私も気落ちしていたから、新しいドレスでも仕立てて気晴らしをしようと思うの。もうすぐ皇太子妃になる貴女も一緒に仕立てたら良いかと思ってお誘いしたのよ。」
「皇后陛下に拝謁いたします。此度はお誘いいただきありがとう存じます。」
「さあ入って。」

 シャルロットと皇太子、イヴァンの通された皇后の私室は煌びやかで派手な装飾であったが、母国のものだろうか、余り帝国で見かけないような調度品も多々あった。

「美味しいお菓子とお茶も準備させたのよ。召し上がって。」
「……はい。」

 壁際に控えたイヴァンは注意深く周囲を気にしている。
 シャルロットと皇太子はソファーへと腰掛け、目の前のお茶とお菓子を皇后は勧めてくるのであった。

「さあ、美味しいわよ。召し上がれ。」

 皇后はお茶と目の前のお菓子に手を伸ばし口に運んだ。
 シャルロットと皇太子はお茶を口に含むふりをして、お菓子には手を伸ばさなかった。

 そんな二人を見て皇后は落胆の表情を隠さなかった。

「皇后陛下、それでは採寸へいらしてください。」
「分かったわ。シャルロット嬢、私の懇意にしている仕立て屋が貴女のドレスを作ってくれるから。さあ、採寸をしに行きましょう。」

 仕立て屋が声を掛け、皇后がシャルロットを大きな衝立で仕切られた空間へと誘った。

「さあ、美しいドレスを作りましょうね。」

 皇后がシャルロットの傍を離れ、見えなくなるとシャルロットはホッと息を吐いた。
 そして仕立て屋が次々に採寸していき、その都度指示に従って動いた。

 全ての採寸が終わった頃、仕立て屋がシャルロットのサイズに近いドレスを持って来て色味を見たいから試着をする様にと促した。



「キャーッ!」

 鋭い叫び声が部屋に響き、衝立から離れたソファーで待機していた皇太子とイヴァンは急ぎシャルロットのいる衝立の方へと向かった。

「シャルロット嬢!」
「お嬢様!」
「侍医を呼べ!」

 二人が衝立の裏へとまわると、シャルロットのふくらはぎに小さな蛇が噛み付いている。
 たちまち皇太子が腰に差した剣で蛇を刺し殺し、シャルロットから離したが、患部はどす黒く色が変わりシャルロットは青白い顔で意識を失っていた。
 外の護衛騎士へ侍医を呼ぶように声をかけ、ドタバタと走る音が聞こえたが皇太子は気が気ではなかった。

「あらあら、可哀想に。ミゲルと同じ目に遭うなんてお気の毒。ヴィンセント、貴方がミゲルを殺したのよ。大切な存在を失う辛さを貴方も知ればいいわ。」

 現れた皇后は真っ黒なドレスに着替えており、皇太子は臍を噛んだ。

「皇后陛下、貴女が蛇を?」
「お部屋で飼っていたものが逃げ出したのね。ごめんなさい。わざとではなかったのよ。」
「そのような言い訳が通じるとでも?」
「どちらにせよ、もうシャルロット嬢は助からないわ。それならば、貴方にとってこのような言い合いは不毛ね。たとえ私がその子を殺したとしても、ミゲルと同じでもう生き返ることはないのだから。」

 そして皇太子は皇后との言い合いよりも、イヴァンの腕の中で青白い顔をしたシャルロットを見つめた。
 薔薇色であった唇も紫色に変化しており、明らかに毒がまわったことを示している。

「誰か!皇后を捕らえよ!そして地下牢へ連行せよ!」

 皇太子の命令に、皇后は護衛騎士たちに捕らえられ連行されて行った。

「あはははははは!ヴィンセント!いいざまね!ミゲルを失った私の気持ちを知ればいいわ!」

 高笑いをしながら連行されて行く皇后を見届けて、皇太子はイヴァンに抱かれたシャルロットを受け取り抱きしめた。

「シャルロット……。すまない。」

 シャルロットはもう瞼を持ち上げることはなく、青白い顔のままで浅い呼吸をしているだけであった。

 



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

出ていけ、と言ったのは貴方の方です

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
あるところに、小さな領地を治める男爵家がいた。彼は良き領主として領民たちから慕われていた。しかし、唯一の跡継ぎ息子はどうしようもない放蕩家であり彼の悩みの種だった。そこで彼は息子を更生させるべく、1人の女性を送りつけるのだったが―― ※コメディ要素あり 短編です。あっさり目に終わります  他サイトでも投稿中

処理中です...