過保護な従者に溺愛される無垢な猛毒令嬢は、愛する皇太子との婚約破棄を望む

蓮恭

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35. ナマケモノ狙いですか

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 狩猟大会当日は参加する皇太子や皇子たちはじめ、貴族たちがそれぞれの天幕を準備し、そこを拠点として朝から夕方までを期限として行われる。

 範囲は城の近くの森一帯で、より重さの重いものを狩った者が優勝となる。

 優勝者には賞金と副賞である貴重な金剛石が贈られる為、貴族たちも今日ばかりは皇族に負けじと張り切っていた。

 皇帝と皇后は高い場所に造られた観覧席で持ち寄られた獲物を係の役人とともに検分することとなっている。
 シャルロットはその近くにある皇太子の天幕で観覧することとなった。

「イヴァン殿、其方には負けんぞ。」
「皇太子殿下には是非優勝していただいて、お嬢様に金剛石を贈っていただかなければなりませんからね。是非頑張ってください。」

 皇帝の命によりシャルロットの従者であるイヴァンも参加することになり、皇太子はイヴァンには負けぬと宣戦布告をするのであった。

「お嬢様、私が居なくとも本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。侍女もいるし、私はここで待っていれば良いだけですもの。」

 普段は常にシャルロットの傍についているイヴァンが、このように公の場で傍を離れることは少ない。
 どこか心配げなイヴァンを他所にシャルロットは満面の笑みで送り出すのであった。

「イヴァン、貴方も頑張ってね。」
「はい。それでは行って参ります。」

 皇太子とイヴァンは大会開始の音と同時に馬を走らせ森を駆けて行った。

 お昼頃になると、獲物が次々と皇帝と皇后の席の前へと運ばれてくる。
 獲物の中には鹿、イノシシ、そして熊もいた。

「シャルロット嬢、獲物は怖くないですか?」
「カイ皇子殿下、それにジュール皇子殿下。お疲れ様でございます。熊は少し怖いですけれど、鹿は可愛らしいので少し可哀想に思います。」
「僕はウサギだけだよ。もう疲れたから諦めた!」
「ジュールはすぐに諦めるから。そういう私も狩りは苦手で……。まだ何にも狩れていませんが。」

 カイ皇子とジュール皇子は隣同士に天幕を張って、昼以降はゆったりと観覧に励むと言う。

「ヒュンケル皇子殿下はまだお帰りにならないのですか?」
「ヒュンケル兄上は大物を狙っているみたいだから暫くは帰らないと思うよ。毎年大きな熊を狩ってくるんだ。」
「そうなんですか。それではヒュンケル皇子殿下が優勝候補ですかね?」
「まあ、ヴィンセント兄上も今年はシャルロット嬢がいるから張り切っているだろうな。いつもは適当に済ませているけど今年ばかりはそうもいかないだろう。」

 カイ皇子の言葉にシャルロットは頬が熱くなるのを感じて、パタパタと手で扇ぐ仕草をした。

「シャルロット嬢は本当に可愛らしいね。」
「きっとヴィンセント兄上も、今年は可愛らしいシャルロット嬢のために優勝目指して大物を狩ってきますよ。」

 二人の皇子にすっかり揶揄われてしまったシャルロットは皇太子の天幕へと戻り、冷たいお茶を飲んで火照りを治めた。

 そうこうしていると、天幕に皇太子とイヴァンが戻ってきて一旦休憩を挟むと言う。

「それにしても、ミゲル皇子殿下は見ていて危なっかしいですね。狙いの定まらない矢で何人かお付きの者が負傷していましたよ。」
「まあ、あいつは元々狩りは得意ではないからな。毎年あんなものだ。」
「流れ矢に当たりそうでミゲル皇子の傍には近寄りたくはないのですが、何故かこちらへと近寄って来るのでタチが悪い。」
「あれで私の命でも狙うつもりかもな。」

 ニヤリと笑った皇太子はイヴァンに向けて矢を放つ仕草をして見せた。
 するとイヴァンは心底呆れたような表情で答えた。

「あのようなフニャフニャの矢に当たるのはナマケモノくらいです。」
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