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34. 贈り物
しおりを挟む辺境の地で暫しの息抜きをしたシャルロットは、イヴァンとともに城へと戻ってきた。
それでも久しぶりに辺境の地の人々に会うことができ、そして彼らもシャルロットの毒が抜けた事を自分のことのように喜んでくれたことが、シャルロットの胸をホッと温かくしていた。
「シャルロット嬢、ユーゴの様子はどうであった?愛娘に会って随分と良くはなったのか?」
「はい、陛下。会ってみればそう大した病でもなかったようで、しばらくすれば良くなったようです。ご深慮ありがとうございます。」
まさか辺境伯は仮病だったなどとは口が裂けても言えず、シャルロットは適当に相槌をうつしかなかった。
「そうか。ならば一安心じゃ。もうすぐ狩猟大会が開催されるが優勝者には今年帝国内で採掘された石の中で一番美しい金剛石が贈られる。是非皇太子に優勝してもらって、美しいシャルロット嬢をその金剛石が飾ることを楽しみにしておるよ。」
「私も狩猟大会は初めて観覧するので楽しみにしております。」
「誰が優勝するかは運任せなところもあるからな。より大きな獲物を見つける事ができた運の良い者が優勝により近いのだ。今年の運の神は誰に微笑むのか楽しみだ。」
城内にいても多忙な皇帝とは滅多に謁見できないものの、辺境伯が身体を壊したとあっては心配になったのか皇帝の方からシャルロットに声がかかった。
シャルロットは狩猟大会で金剛石が贈られるということは初めて知ったが、それが一体どのように素晴らしい石なのか楽しみであった。
シャルロットが皇帝への謁見を終えて部屋に帰ったとき、皇太子がシャルロットの部屋の扉近くに立っていた。
「シャルロット嬢。」
「皇太子殿下、こんなところでわざわざお待ちいただいていたのですか?」
「政務がひと段落したので、共にお茶でもどうかと思ったんだ。」
「そうですか。お疲れ様です。どうぞ、お入りください。」
多忙な政務の合間に少しの時間でもできようものならば会いにくる皇太子の気持ちをシャルロットは嬉しく思った。
「陛下のところに行っていたのか?」
「はい。父の体調を聞かれたのと、今度の狩猟大会で優勝した方には素晴らしい石が贈られると教えていただきました。」
「ああ、そうだ。今年は金剛石だったな。是非私が大物を仕留めてシャルロット嬢にその石を贈ろう。」
「楽しみにしています。あ、それで皇太子殿下にお渡ししたいものがあるのですが……。イヴァン持って来てくれる?」
「承知いたしました。」
イヴァンが取ってきたのは先日帝都でシャルロットが買い求めた繊細な金細工のポマンダーが入った化粧箱であった。
「狩猟大会で皇太子殿下が害虫に刺されたりしないように虫除けの効果のある薬草を入れました。あとは魔除けの御守りとしてお持ちいただけたらと。」
「この金細工の透彫はなかなかの逸品だ。それにこの石は……シャルロット嬢の瞳とよく似ているな。とても神秘的で美しい。まさに初めて会った時に目を奪われた色だ。」
「そのように言われますととても恥ずかしいです。」
頬を染めて恥じらうシャルロットを愛しそうに見つめる皇太子に、イヴァンはその顔に悠然と笑みを浮かべて言葉を投げかけた。
「殿下、そのポマンダーはお嬢様が時間をかけて選ばれた物に私が薬草を込めました。二人からの愛のこもった贈り物です。」
シャルロットは皇太子とイヴァンが最近とても親しく見えることに喜んでニコニコと笑顔を見せている。
皇太子は、イヴァンの一言にシャルロットの手前苦笑いをするしかなかった。
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