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29. 悪知恵だけは働くわね
しおりを挟む「ナタリー夫人、本日もよろしくお願いいたします。」
「シャルロット嬢、本日はバーテルス語です。ご存知ですか?」
「バーテルス語とは島国のバーテルス国で使われている言葉ですよね。帝国から船で数日かかるところにある国で現皇帝陛下が友好条約を結ばれた国。現皇后陛下の母国ですね。」
「歴史の学びもよくできているようですね。その通りです。皇后陛下の母国の言葉ですから、外交に必要な日常会話程度は話せなくてはなりません。」
ナタリー夫人によれば皇后の母国はバーテルス国という島国であるが、その島を他の国に取られぬようグベール帝国の友好国にするための会談で現皇帝が島を訪れた際にバーテルス国の姫君であった皇后と出会ったという。
そこで皇帝の一目惚れにより婚姻を結ぶこととなったと話した。
「意外とロマンチックな出会いだったんですね。」
「まあ、そうですね。それでほどなくしてヴィンセント皇太子がお生まれになったのです。」
「そんなにロマンチックな出会いをしたのに、どうして皇后はあのように好色家なのでしょう?」
ナタリー夫人は困ったような顔つきをして、首を横に振った。
「分かりません。お国柄なのかもしれませんね。バーテルス国の一部ではハーレムの文化も未だあると言いますから。」
「ハーレムですか……。」
シャルロットは近隣諸国のことを学ぶうちにハーレムの習慣がある国が存在することを知ってはいたが、皇后の母国にそのような文化があるとは知らなかった。
「高貴な男性が何人もの愛妾を囲うこともあれば、高貴な女性が何人もの男妾を囲うこともあるそうですよ。」
「まさに今の皇后陛下もハーレムを築いていらっしゃるのと変わらないわね。」
皇后の母国にそのような習慣があることを皇帝も知っているから、皇后の所業を黙認しているのかも知れないとシャルロットは納得するのだった。
こうしてシャルロットの妃教育も順調に進み、ほとんどの教育を履修することができた。
そんな折、毎年皇族主催の狩猟大会が行われるということで皇太子や皇子たち、国内の主要な貴族たちも参加する大会の観覧に未来の皇太子妃であるシャルロットも呼ばれることとなった。
「イヴァン、もうすぐ狩猟大会があるじゃない?それでね、ちょっと帝都へ出かけたいんだけど……。」
「何か入用のものでも?」
「えーっと……。まあね。」
「何か贈り物でしょうか?」
「やっぱり貴方気持ち悪いわね。何でも見透かしてますみたいなこと言わないでよ。」
頬を朱に染めたシャルロットが、相変わらずの無表情で秘密を言い当てるイヴァンに不満を述べた。
「しかし、お嬢様が帝都へお出かけになるためには許可をいただきませんと。勝手には出掛けられませんよ。」
「分かってるわよ。それでも、皇太子殿下には内緒にしたいの。」
「成る程。皇太子殿下への贈り物ということならば話すことはできませんね。」
「もう!いちいち口にしなくてもいいじゃない!」
イヴァンは自分の気持ちに随分と素直になりつつあるシャルロットに、喜びを感じた。
以前ならば猛毒令嬢だからと諦めていた幸せも、身体の毒が抜けたことで諦める必要がなくなったからである。
その後もシャルロットには内緒で何度か確認したものの、やはりシャルロットの身体には最早毒は存在せず、鼠どころか小さな虫でさえ殺すことはなかった。
「それでは、妃教育を頑張ってこなされたお嬢様の為に辺境伯様に一肌脱いでいただきましょう。辺境伯様が体調を崩されたとなればお嬢様もご実家に帰ることもできましょう。久々にお嬢様もご家族にお会いしたいでしょうし、皆さんもお嬢様にお会いしたいと思いますよ。」
「なるほどね!イヴァン、貴方やっぱりそういうところは頭がよく回るわね。私は婚姻式までは皆に会えないとばかり思っていたけれど、この際お父様には体調を崩していただきましょう。」
そうしてイヴァンの悪知恵を採用したシャルロットはすぐに辺境伯へ手紙をしたため、辺境伯の方も娘会いたさに『体調が芳しくないため、どうか娘に会わせて欲しい』と旧知の友である皇帝へさっさと報せを送り、妃教育を全て終えたシャルロットは一時実家へと帰ることとなった。
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