19 / 44
19. 特別な存在
しおりを挟む「分かった。其方はそれで良いのだな?」
「はい。それがお嬢様のためであれば。」
「それでは早急に設備と人を準備しよう。」
「皇太子殿下も、くれぐれも頼みますよ。」
皇太子とイヴァンはこれからお互いがすべきことを確認しあい、その場を離れた。
「イヴァン?」
「はい、お嬢様。喉が渇きましたか?」
「うん。ありがとう。」
寝台で休んでいたシャルロットは、目を覚ましてすぐに喉の渇きを覚えたが、すかさず果実水を準備していたイヴァンにグラスを手渡された。
「さすがイヴァンね。ありがとう。」
「当然です。お嬢様のことなら何でも分かりますから。」
「それはさすがに気持ち悪いわよ。」
少し休んですっきりとした表情のシャルロットは、皇太子が婚約破棄を認めてくれなかったことを思い出したが、今はこちらからどうすることもできないと知っていたので暫くは静観しようと考えた。
「イヴァン、とりあえず今は妃教育をやり遂げることにするわ。突然婚約破棄などと私が言い出したことを殿下の返事も待たずに皆に知られることは良くないものね。」
「そのようになさいませ。私はいつでもお嬢様の味方です。疲れた時にはいつでも支えて差し上げますよ。」
「ありがとう。イヴァン。貴方もたまには良い事を言うわね。」
シャルロットが普段と変わらず軽口をたたき合う事ができるのも、自分には絶対的にイヴァンが味方でいてくれるという自信があるからであった。
「ねえ、イヴァン。私が猛毒令嬢などでなければこのような思いをしなくても良かったのだろうけれど。」
「そうですね。」
「でもね、私がギョクランに攫われることがなければイヴァン……シーハンにも出会わなかったわ。やっぱりこれは必然だったのね。だって私の人生に貴方が存在しないことなど考えられないもの。だから、猛毒令嬢で良かったと思えることもあるのよ。」
そう言ってシャルロットは自分の猛毒令嬢という存在を否定しないようにと言い聞かせているようにイヴァンには見えた。
「シーハンだった貴方のことはもうあまり覚えていないの。それでも、貴方が私の為に優れた従者イヴァンでいようと壮絶な努力を重ねたことはお父様たちから聞いているわ。だから、イヴァンのことは私にとって特別な存在よ。」
イヴァンはシーハンであった頃にシャオリンことシャルロットを赤ん坊から幼女へと育て、そしてイヴァンとなってからもずっとこの少女を見守ってきた。
この少女が幸せになれるようにと、その為ならばギョクランを殺した事さえ正しい事だと自分に言い聞かせて。
ギョクランの傍でいた頃には、依頼された仕事をこなすために美しい銀髪に似合う整った見目を利用して依頼された相手を誘惑した。
そして床へと誘い、その体液の毒で相手を亡き者としたことも何度もある。
イヴァンたちの毒は皇后の使った毒のように毒殺の証拠を残しにくい。
胃の中に入れずとも相手の粘膜から吸収されるため、消化器を解剖されたとしても毒の痕跡は残らないからだ。
そのように穢れた罪を犯した自分でさえ、このシャルロットの傍でいる時は神にさえ許されている気がした。
この少女を守るようにと、どうか幸せになれるようにせよと啓示を受けたような気になったのだ。
「私にとっても、お嬢様は特別な存在ですよ。」
そう言って、青紫の瞳を細めたイヴァンは今日の分の解毒薬をシャルロットに手渡した。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
安らかにお眠りください
くびのほきょう
恋愛
父母兄を馬車の事故で亡くし6歳で天涯孤独になった侯爵令嬢と、その婚約者で、母を愛しているために側室を娶らない自分の父に憧れて自分も父王のように誠実に生きたいと思っていた王子の話。
※突然残酷な描写が入ります。
※視点がコロコロ変わり分かりづらい構成です。
※小説家になろう様へも投稿しています。
夜会の夜の赤い夢
豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの?
涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
リアンの白い雪
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。
いつもの日常の、些細な出来事。
仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。
だがその後、二人の関係は一変してしまう。
辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。
記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。
二人の未来は?
※全15話
※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。
(全話投稿完了後、開ける予定です)
※1/29 完結しました。
感想欄を開けさせていただきます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる