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4. イヴァンの話した二人の秘密
しおりを挟むシャルロットが辺境伯領へと帰還した日、辺境伯夫人は突然の僥倖に思いっきり失神した。
そして失神から目覚めたとき、夢では無いことを悟り娘の帰還をとても喜んだ。
はじめはシーハンも自分たちの身体を蝕む猛毒の事を伏せておこうと考えていた。
とても普通の感覚では受け入れられることが出来ないことだと理解していたからだ。
しかし帰還の喜びから無闇矢鱈と娘に触りまくる両親や、立場も忘れて順にシャルロットを抱き上げる使用人たちを見て、誰かがシャルロットの毒によって死んでしまうようなことがあればシャルロットが悲しむと、ギョクランによる自分たちへの凶行を打ち明けることとした。
――イヴァン曰く
シャルロット(シャオリン)とイヴァン(シーハン)を攫った女は薬師として店を開く傍らで、異国で古来から伝わる方法を用いて、体の中に溜め込んだ毒を用いて依頼をこなす『暗殺者』を使い、様々な暗殺依頼を受けて儲けていた。
女は見目の良い赤ん坊を攫ってきては、その体液に触れると毒されるほどの猛毒を身体に宿す暗殺者として育て上げるために幾人もの子どもを殺した。
毎日微量の毒を飲ませて身体に馴染ませ、何年もかけて体中が毒に侵されると、本人には大概の毒は効かず、逆にその体液に触れた者は毒される。
だがその馴染ませる過程でほとんどの子どもは毒に耐えきれずに死んでしまった。
見目の良い赤ん坊を選んでいたのは、暗殺者として標的を誘惑しやすいためであった。
寝台で交わった時に殺すのが一番怪しまれにくく、そして確実な方法だと考えていたからだ。
そうして毒に馴染み生き残ったイヴァンは、幼さの残るうちからその見目の良さを活かして暗殺者としてギョクランが受けた依頼を実行させられていた。
イヴァンにとっては幼い頃からそれが当然であり、ギョクランの言いつけを守ることは最早洗脳のようでもあった為に言われるがままの日々を送っていた。
イヴァンの後にも猛毒の子を作り上げようとギョクランは何度か試みたが、日々の毒に耐えられる赤ん坊は現れなかった。
そうしてイヴァンが十歳の時、ギョクランは新しい赤ん坊を何人か攫ってきた。
その中の一人が辺境伯の娘シャルロットであった。
イヴァンはまだ赤ん坊のシャルロットがギョクランによって毒に馴染ませられるところも、結局その時の赤ん坊のうちで生き残ったのはシャルロット一人だったことも理解しており、ギョクランが「やはり辺境伯の娘はさすがにしぶといね。」と話していたことから、シャルロットが辺境伯の娘だということを知った。
シャルロットの瞳は赤ん坊の頃はただの青色であったが、四歳になるころには辺境伯の血筋にのみ現れる複数色の眼へと変化してきた。
しかし異国出身のギョクランは、この国では良くあることなのだと思い気にしてはいなかった。
五歳を過ぎる頃になるまで毒を馴染ませ続ければ脳にまで毒はまわるとギョクランが常々話していたことをイヴァンは心配し、シャルロットが五歳になる前に逃げ出す事を考えていた。
そしてあの日、辺境伯が騎士駐屯地に赴くと聞いたイヴァンはとうとう計画を実行した。
――以上のうち、辺境伯はじめ皆に伝えたのはイヴァンがギョクランを殺害した事以外のことであった。
あくまで最後まで、ギョクランはあの日たまたま強盗に襲われて、自分たちはその隙に逃げたと話したのだ。
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