上 下
4 / 44

4. イヴァンの話した二人の秘密

しおりを挟む

 シャルロットが辺境伯領へと帰還した日、辺境伯夫人は突然の僥倖に思いっきり失神した。
 そして失神から目覚めたとき、夢では無いことを悟り娘の帰還をとても喜んだ。

 はじめはシーハンイヴァンも自分たちの身体を蝕む猛毒の事を伏せておこうと考えていた。
 とても普通の感覚では受け入れられることが出来ないことだと理解していたからだ。


 しかし帰還の喜びから無闇矢鱈と娘に触りまくる両親や、立場も忘れて順にシャルロットを抱き上げる使用人たちを見て、誰かがシャルロットの毒によって死んでしまうようなことがあればシャルロットが悲しむと、ギョクランによる自分たちへの凶行を打ち明けることとした。

――イヴァン曰く

 シャルロット(シャオリン)とイヴァン(シーハン)を攫った女は薬師として店を開く傍らで、異国で古来から伝わる方法を用いて、体の中に溜め込んだ毒を用いて依頼をこなす『暗殺者』を使い、様々な暗殺依頼を受けて儲けていた。

 女は見目の良い赤ん坊を攫ってきては、その体液に触れると毒されるほどの猛毒を身体に宿す暗殺者として育て上げるために幾人もの子どもを殺した。

 毎日微量の毒を飲ませて身体に馴染ませ、何年もかけて体中が毒に侵されると、本人には大概の毒は効かず、逆にその体液に触れた者は毒される。

 だがその馴染ませる過程でほとんどの子どもは毒に耐えきれずに死んでしまった。

 見目の良い赤ん坊を選んでいたのは、暗殺者として標的を誘惑しやすいためであった。
 寝台で交わった時に殺すのが一番怪しまれにくく、そして確実な方法だと考えていたからだ。

 そうして毒に馴染み生き残ったイヴァンは、幼さの残るうちからその見目の良さを活かして暗殺者としてギョクランが受けた依頼を実行させられていた。

 イヴァンにとっては幼い頃からそれが当然であり、ギョクランの言いつけを守ることは最早洗脳のようでもあった為に言われるがままの日々を送っていた。

 イヴァンの後にも猛毒の子を作り上げようとギョクランは何度か試みたが、日々の毒に耐えられる赤ん坊は現れなかった。

 そうしてイヴァンが十歳の時、ギョクランは新しい赤ん坊を何人か攫ってきた。
 その中の一人が辺境伯の娘シャルロットであった。

 イヴァンはまだ赤ん坊のシャルロットがギョクランによって毒に馴染ませられるところも、結局その時の赤ん坊のうちで生き残ったのはシャルロット一人だったことも理解しており、ギョクランが「やはり辺境伯の娘はさすがにしぶといね。」と話していたことから、シャルロットが辺境伯の娘だということを知った。

 シャルロットの瞳は赤ん坊の頃はただの青色であったが、四歳になるころには辺境伯の血筋にのみ現れる複数色の眼へと変化してきた。
 しかし異国出身のギョクランは、この国では良くあることなのだと思い気にしてはいなかった。

 五歳を過ぎる頃になるまで毒を馴染ませ続ければ脳にまで毒はまわるとギョクランが常々話していたことをイヴァンは心配し、シャルロットが五歳になる前に逃げ出す事を考えていた。

 そしてあの日、辺境伯が騎士駐屯地に赴くと聞いたイヴァンはとうとう計画を実行した。


――以上のうち、辺境伯はじめ皆に伝えたのはであった。

 あくまで最後まで、ギョクランはあの日たまたま強盗に襲われて、自分たちはその隙に逃げたと話したのだ。







 

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

安らかにお眠りください

くびのほきょう
恋愛
父母兄を馬車の事故で亡くし6歳で天涯孤独になった侯爵令嬢と、その婚約者で、母を愛しているために側室を娶らない自分の父に憧れて自分も父王のように誠実に生きたいと思っていた王子の話。 ※突然残酷な描写が入ります。 ※視点がコロコロ変わり分かりづらい構成です。 ※小説家になろう様へも投稿しています。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...