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28. 背中のむず痒くなる二人
しおりを挟むラヴァンディエ伯爵邸に戻ったマリーは、時間も遅かった為にエマではない侍女に湯浴みを手伝ってもらい就寝した。
そして翌朝、マリーが目覚めた時に現れたエマに思いっきり抱きついて驚かれたのであった。
「お嬢様、どうなさったんですか?」
「エマ、私の本当の家族になってくれるのね!」
「……フランク様からお聞きになったのですね。申し訳ありません」
抱きしめられたままで、エマはマリーに頭を下げた。
「どうして謝るの?」
「お嬢様にずっと秘密にしていたからです」
「いいのよ。それより、これからのことが大切よ。婚礼のドレスや色々選ばないといけないものはたくさんあるのだから! 忙しくなるわね!」
エマはクスッと笑ってマリーを抱きしめ返した。
「お嬢様、これからもよろしくお願いいたします」
「こちらこそ……あ! でも、エマがお兄様と婚姻を結んだら私の専属の侍女はエマじゃなくなるから……どうなるのかしら……?」
「それまでには、お嬢様もリュウ・シエン様とあの方の祖国へ帰るでしょう?」
マリーは気付いてしまった。
そういえば、リュウ・シエンの口からは直接今後どうするのか聞いていないのだ。
「どうかしら? そういえば何も聞いていなかったわ」
「きっと、またリュウ・シエン様の方からお話がありますよ」
「そうよね……」
マリーの着替えを終えたエマは、もう一度マリーをギュッと抱きしめてから囁いた。
「お嬢様、フランク様とのことを認めてくださってありがとうございます」
「エマ、お兄様のことよろしくね」
こうして、二人は本当の姉妹のようにして笑い合った。
食堂に着くと、今日は初めて人の顔をしたリュウ・シエンが席に着いていた。
そこで初めてマリーはリュウ・シエンが飲食をするところを見たのである。
「なんか、不思議な感じだな。久しぶりの食事は……」
「まあ、カボチャ頭では飲食はできませんでしたからね」
リュウ・シエンとリー・イーヌオが話しているのを、マリーは俯いて食器に目を落とすしか出来ないでいた。
美形のリュウ・シエンの方を見ることが気恥ずかしくて、目を合わせることができないのだ。
そんな妹に気付いたフランクは、リー・イーヌオと話すリュウ・シエンに声を掛けた。
「リュウ・シエン殿。もう呪いも解けた訳ですし、良ければマリーとお出かけになっては?」
「それは良い考えですね! ね、主人? 折角ですからマリー嬢にオススメの場所など連れて行って貰ってはいかがですか?」
リー・イーヌオの援護もあり、リュウ・シエンは赤らめた顔を何とかマリーの方へと向けて声を掛ける。
「マリー、すまないが頼めるか?」
「はい……」
リュウ・シエンからの誘いに、マリーは真っ赤な顔をして震える声で返事をした。
二人ともが顔を真っ赤にしているのを見て、フランクとリー・イーヌオは背中の方がむず痒くなる気がするのであった。
朝食を終えたあと、マリーはすぐに外出用の支度を整えた。
外出用の動きやすい黒のワンピースに、黒のケープを羽織った。
「ねえ、エマ。おかしくないかしら?」
「いつも通り美しいお嬢様ですよ」
「でも、どこにお連れしたら良いか分からないわ」
「それなら、どんなところに行きたいかをリュウ・シエン様に問えば良いのです」
マリーは終始頬を染めて、落ち着かない様子であった。
「マリーお嬢様、リュウ・シエン様は玄関でお待ちです。お支度は整いましたか?」
扉の向こうから、家令のジョルジュの声が聞こえてくると、マリーは更に慌てた様子で胸に手をやった。
「エマ、やっぱり無理だわ。リュウ・シエン様は素敵過ぎるんだもの。だって見たでしょう? あんなスッキリとして美しい顔立ちをなさっているのよ。目を見て話すなんて無理だわ」
「お嬢様、それでは恋人骸骨に勇気をもらいましょう。お嬢様が積極的になれますように」
エマに連れられて、魔女部屋に入ったマリーは恋人骸骨に触れてお願いをした。
「どうか、リュウ・シエン様ときちんとお話ができますように。あっ! それと……、リュウ・シエン様がきちんと私たちのこれからのことをお話してくださいますように……」
「さあ、もう大丈夫ですよ! 何てったって恋人骸骨のおまじないですからね! 行きましょう」
エマに引きずられるようにして、マリーは玄関ホールへと向かった。
玄関ホールには、やはりいつもの異国の衣装を身につけてリー・イーヌオと話すリュウ・シエンがいて、その姿を見るだけでマリーは手に汗をかくほどに緊張するのであった。
「あっ、ほら我が主人。マリー嬢ですよ。頑張って行ってきてくださいね」
「……分かっている」
リュウ・シエンとリー・イーヌオのボソボソと話す声がマリーの耳にも届くと、緊張は絶頂に達していたマリーは思わずエマの後ろに隠れようとした。
しかしエマはそれを許さず、ニッコリと笑ってマリーをリュウ・シエンに引き渡した。
「お嬢様をよろしくお願いいたします」
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