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26. 此度の罰は
しおりを挟むやがて、熱狂的な雰囲気のままお開きとなり招待客たちは帰って行った。
場所を変えて侯爵家の執務室では、マリーとフランク、そしてリュウ・シエンとリー・イーヌオがソファーへと腰掛けていた。
執務机の前に立たされているのは、このガルシア侯爵家の次男であるアルバンとその腕に絡みつくサラであった。
「さて、アルバン……。儂に何か言うことはあるか?」
「ち、父上……。知らなかったのです。まさかあのフランクが父上の新しい事業の取引相手だったなんて……」
「儂が嘆いているのは、お前のそういうところだ。本来ならば絶縁しても良いくらいのものだぞ」
絶縁という言葉を聞いてアルバンは青褪めた。
アルバンに絡み付いているサラでさえ、その言葉に青褪めてフルフルと震え始めた。
「も、申し訳ありません」
「儂に謝るのでは無い。フランクとマリー、そしてリュウ・シエン殿に謝るんだ」
「そ、それは……」
それでも、なかなかアルバンは今まで馬鹿にしてきた者たちに頭を下げるということが出来なかった。
そんなアルバンを見た侯爵は大きくため息を吐いて宣言する。
「アルバン、お前は今後一切ガルシア侯爵家とは関係ない。平民として一人で生きるも良し、プラドネル伯爵令嬢とともに生きるも良し、好きにしろ」
「そんな! 父上!」
「しかし、私の罪でもある……。お前がそのようになってしまったのは。フランクとリュウ・シエン殿が儂の引退と長男への事業の引き継ぎを認めてくださるならば、儂もスッパリ現役を退いて大人しく隠居するよ」
アルバンは真っ青な顔で震えている。
まさかいつも精力的に様々な事業と領主としての仕事をこなしてきた父が隠居するなどと思いもよらなかったのであろう。
「ガルシア侯爵、一つ提案だが」
「リュウ・シエン殿、何かな?」
「アルバン殿を我が商会でこき使う……いえ、働いて貰って性根を叩き直すというのはどうか?」
ガルシア侯爵は驚いた顔でリュウ・シエンとフランクを見た。
「そのような温情……、よろしいのか?」
ガルシア侯爵だって父親だから、たとえ出来の悪い息子でも絶縁するのは心苦しい気持ちもあったのだろう。
「このやり手の商会長はきっと絶縁された方が幸せだったと思うほどのことをやらせますよ。それでも良いのなら」
フランクはそう言ってリュウ・シエンを見た。
リュウ・シエンは肩をすくめて見せるだけだ。
「勿論だ。感謝する……。アルバン、お前も良いな?」
「……はい」
絶縁されるよりはマシだろうと考えたのか、アルバンは拗ねた様子ではあったが納得した。
ふと気づけばいつの間にかサラはアルバンから離れて執務室の扉から出ようとしていた。
そんなサラにガルシア侯爵が声をかける。
「サラ・ド・プラドネル伯爵令嬢、貴女はご存知ないかも知れないが。プラドネル伯爵家はリュウ・シエン殿が会長を務めるロンハオ商会と大口の取引をしていたはずだ。父上に今のうちに謝っておいたほうがいいぞ。大口の取引先をなくしてしまいました、とな」
「ひ、ひぃぃ……ッ」
声にもならない声を出してサラは執務室を飛び出して行った。
「マリー、すまなかったね。我が愚息のせいで君には嫌な思いをさせた」
「いいえ、私はそれ以上に今宵は良いことがありましたのでいいのです」
マリーはそう言ってリュウ・シエンの方を見やった。
リュウ・シエンは、相変わらず真正面からマリーを見れずにいた。
そんな二人を見た侯爵は、ガハハと豪快に笑った。
しかしその目尻には光るものが見えた気がした。
「二人の婚姻の暁には、必ず二人に見合った祝いの品を存分に送らせてもらおう」
アルバンはすでにガックリと肩を落として小さくなっている。
結局この男は虚栄心の塊で自分だけでは何もできない小物なのだ。
――兄と妹、そして主人と従者はそれぞれの馬車で伯爵邸へと戻った。
帰りの馬車の中で、フランクはマリーにこってりとと叱られていた。
「お兄様! リュウ・シエン様と一緒になって私を騙すなんてひどいわ! 私がどんな気持ちでいたと思うの?」
「ごめんごめん。だって、彼ならばマリーを幸せにしてくれると思ったんだ」
「だからって……。そりゃあ、結果的に上手くいったから良かったけれど。まあ、リュウ・シエン様に出逢わせてくれたことには感謝するわよ。でもだからって……」
しかしそんな時もフランクは、可愛い妹に叱られて嬉しいとしか思えなかったのは彼だけの秘密となる。
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