愛しの静はあざとい先輩【R18】

蓮恭

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34. 二年後のふたり

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――あれから二年。俺は土屋エンジニアリングで、静は水川機械設計事務所を興してそれぞれ別の場所で働いていた。

 俺が土屋エンジニアリングに残った理由は、社長の経営者としての手腕と、設計者としての柔軟な発想に尊敬を抱いているから。
 プライベートでは色々あったものの、それでも社長は凄い人だ。
 それに、梶谷さんをはじめ土屋エンジニアリングにいる仲間は皆、俺が目標とする先輩で、まだまだ新人で頼りない俺はそんな先輩達の下でもっと学ばなければならないと考えた。

 二年が経って、やっとまともに自分一人で営業をして、物件を任せられるようになったものの、まだ足りないと思う。

 納期に追われている金曜の十九時、オフィスで残業しているのは俺と鈴木さん。
 リーダーの梶谷さんは家族サービスだからと早く帰り、メンバーの青木さんは妊娠中の為無理せず定時で帰った。

「才谷くーん、もう今日は終わりにしない? 火曜日納期だから、残りは月曜に頑張ったらいけそうだよね。あとは梶谷さんがチェックしてからって感じだし」

 隣のデスクで黙々と作業をしていた鈴木さんが、座ったままグイーッと伸びをしながらそう言った。
 
「そうですね。終わりにしますか」
「ねぇねぇ、今日、飲みに行かない? 明日休みだし、美味しい焼き鳥屋教えてもらったんだけど」
「あー、すみません。今日は水川さんと約束があって……」

 俺と静の事は自然と皆に知られてしまって、だからって軽蔑の眼差しを向けたりする人もこの会社には居なかった。
 中には「えええ、水川さんが……」と恋人の座を狙っていた女子社員が悲しむ姿もあったけど、それでも普通に俺と接してくれて、たまに静の様子を聞かれたりする。
 本当にいい人ばかりが揃った職場で、それを引っ張っていく社長は凄い人だと思う。

「なんだぁ、どこか出掛けるの?」
「いや、ご飯作って待っててくれてるんで」
「あ、そっか。同棲し始めたんだよね! こないだ青木さんが言ってたな」
「……そうなんですか。まぁ、そういう事で。すみません」
「じゃ、お疲れ様! 俺も今日は真っ直ぐ帰るよ。また今度、水川さんも誘って飲みに行こう」

 明るく話す鈴木さんに笑顔を返し、俺は帰り支度をし始める。
 それにしても、青木さん結構皆に話してんだな。何かそれはそれで小っ恥ずかしいような……。
 社長夫人(そう呼ぶと怒るけど)となった青木さんが静とも仲が良いのを皆が知っているから、時々様子を聞く社員も居るとは聞いたけど。

 まぁ、悪い事をしてるわけじゃないし、いいか。

 それよりも同棲をしはじめてからというもの、静と二人で囲む食卓が楽しみでならなかった。
 静は事務所兼自宅のマンションを購入し、俺はそこに住まわせて貰ってる。もちろん生活費は入れてるけど。

 毎日家に帰ると静が待ってると思えば、会社からの帰り道も足取りが軽かった。

「ただいまー」

 二人で住んでるマンションへ戻ると、玄関口でそう言うのがまだどこかくすぐったい。
 するとすぐに「おかえり」と言って、静が廊下の奥から迎えに出てくれるのが分かっているから。

「おかえり。残業おつかれ」

 自宅で仕事をするようになった静は滅多にスーツを着なくなった。
 打ち合わせとかが無い時はラフな服装で仕事が出来るから楽だよと話していたけど、それだけじゃなく前よりのびのびと仕事をしているようで、表情もすごく自然だ。

「そういえば、今度鈴木さんが静も一緒に飲みに行こうって行ってた」
「そうなの。たまにはいいね、懐かしの皆で飲むのも」

 家事は二人で分担していて、それでもやっぱり夕飯作りは静がする事が多かった。
 静は「料理が好きだからいいよ」とは言ってくれるが、休日は俺が作る事にしているし、洗い物や洗濯は俺の役割だ。

 食後に、ゆったりとしたサイズのソファーでのんびりくつろぐのが俺達の日課だった。
 俺は仕事の話をしたり、静からアドバイスをもらったりして。逆に静からはフリーランスならではの悩みが漏れる事もある。

「最近、彰人は元気?」
「あぁ、青木さんとワイワイ言いながらも仲良くやってる。最近は青木さんも素が出ちゃってるし。もうすぐ赤ちゃんが生まれるからって、社長も張り切ってて、どんどん仕事取ってきてるよ」
「おかげで慎太郎は残業続きだね」

 確かに最近は残業続きで、けれど俺自身は出来ることが増えてきた仕事が楽しくて仕方ないから、そう負担には感じていなかった。

「まぁな。でも、仕事が楽しいから。二年前に比べたら当然出来る事も増えたし」
「それは分かるけど……。僕は少し寂しいよ」

 いつもならあまり素直な気持ちを口にしない静が、拗ねたような口振りで珍しく「寂しい」と口にした。
 俺は急にそんな恋人が愛しくなって、以前と変わらないふわふわの髪に触れた。
 そのまま平らな頬に手を添わせこちらへ向かせると、そっと顔を近づける。

 

 

 

 

 
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