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30. 社長の考えはさっぱり分からん
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今まで俺は、社長という人の事が心底分からなくなり、そんな社長の恋人である青木さんでさえ敵に思えてしまっていた。
青木さんが社長の手綱をちゃんと握ってくれてれば、とかそんな事を思っていたから、突然俺に泣きながら訴えた彼女に対して、うまく言葉をかけられなかったんだ。
もっと早くに社長に向けて俺の覚悟や静の気持ち話すべきだったのか。
今更どうにも出来ないような事を嘆いて、ひたすらに悔しがっているうちにいつのまにかソファーで眠ってしまった。
窓の外はまだ薄暗い。夜明け前だ。
今日は静が九州から帰ってくる日。会社に行って社長の顔を見ても、何事も無かったように普通にできる自信なんて無い。
静を見つけたら、ところ構わず昨日の事を問いただしてしまいそうだ。
もう一度、静へ電話をかけてみる。
「何で連絡つかないんだよ」
昨夜からずっと「電源が入っていないか電波が届かない場所に……」とアナウンスされ続けるスマホを、荒々しくテーブルの上へと投げ捨てた。
着たままで寝たせいでくたびれたスーツを乱雑に脱ぎ捨てて、冷たいシャワーを浴びに浴室へと向かう。
「今日……休もうかな」
どちらにせよ、昨日静がカズトヨとかいう元カレに襲われてる時、俺は何も出来なかった事には変わりがない。
静はどんな気持ちなんだろうか。
何で連絡をくれないのか、やっぱり罪悪感に苛まれて別れるつもりなのか。
今日のいつ頃帰ってくるんだろう。予定はどうだったか……。
「そうだ、梶谷さん……っ!」
出張には、梶谷さんも同行している事をすっかり忘れていた。
思わずびしょ濡れの身体で浴室を飛び出した俺は、脱衣室の床を濡らしてしまう。
梶谷さんに連絡をすれば静の様子が分かるかも知れない。……とはいえ、今はまだ明け方の四時。流石に電話するには早すぎて迷惑だろう。
何をやってるんだ。
まだ時間はある。もう一度浴室に戻ってシャワーを浴びながら、梶谷さんに何と説明しようかと思案する。
空が明るくなり始めだと思ったら、あっという間に眩しい太陽の光が窓から射し込んだ。
朝だというのにどっと疲れた身体には、その光がまるで毒のように思える。
「あ……、梶谷さん? おはようございます。すみません、朝早くから」
何度も時計を睨みつけながら七時を待って、ちょうど七時になった途端に梶谷さんへ電話をかけた。
「あれ? どうしたの? 何かあった?」
いつものほんわかとした口調が、俺のささくれだった心を少しだけ溶かしたような気がした。
けれど不安からくる胸のざわつきは治らず、電話する直前まで色々な言い訳を考えていたのに、思わず直球で尋ねてしまう。
「あの、し……水川さんは、変わりないですか?」
「え? 水川くん?」
「はい! 同じホテルですよね?」
「あぁ、一泊目は同じホテルだったんだけどね。何故か社長もこっちの現場の視察に来て、水川くんは社長に呼ばれて、社長の泊まってるホテルへ変わったんだ。でも、どうしたの?」
嘘だろ……梶谷さんも静の様子が分からないとなると、やっぱり帰って来るのを待つしかないのか。
徹底したやり口の社長には、呆れるほど頭が痛くなったが、徐々にそれが怒りへと変わって来る。
「至急、水川さんに確認したい事があったんですが、連絡が取れないので心配していたんです。すみません、朝早くから」
「あぁ、そうなの? それは大丈夫だけど。社長に電話してみたらどうかな? 多分一緒だと思うから」
それが一番厄介な相手なんだと、喉まで言葉が出かかったところを何とか引っ込めた。
「……そうですね。それで、いつ頃こちらへ帰って来る予定ですか?」
「そうだなぁ、お昼には帰ると思うよ。思ったよりスムーズに事が運んだから、今日はもう現場に寄らずにホテルから直接帰ることになったんだ」
「分かりました。お気をつけて」
「うん、ありがとう。……でも、本当に大丈夫? 何かあったんじゃないの?」
時々こうやって鋭い事を尋ねてくる梶谷さんにも、今回ばかりは社長と静の事をペラペラ喋るわけにはいかない。
「いえ、水川さんと連絡が取れなかったので心配になっただけです。社長に連絡してみます」
「うん、そうだね。そうしたらいいよ。まぁ、昼には帰るから。あ、お土産楽しみに待っててね」
「ありがとうございます。じゃあ」
梶谷さんとの通話を終了してから、俺はソファーにグタリと倒れ込む。
結局何の収穫も無いまま大人しく昼を待つしかない事に、ひどい脱力感を覚えるしか無かった。
「静……大丈夫なのか?」
以前には自殺未遂もした事があると話していた静。今回の事でおかしな事を思わなければいいが。
本気であの社長が何を考えているのか、いくら考えても分からない。
手に入らないなら傷付けて壊してしまおうという気持ちなのか。それとも、傷付いた静にまた優しく寄り添って依存させようというのか。
心ここに在らずのまま、俺は出社の支度を済ませて家を出た。
青木さんが社長の手綱をちゃんと握ってくれてれば、とかそんな事を思っていたから、突然俺に泣きながら訴えた彼女に対して、うまく言葉をかけられなかったんだ。
もっと早くに社長に向けて俺の覚悟や静の気持ち話すべきだったのか。
今更どうにも出来ないような事を嘆いて、ひたすらに悔しがっているうちにいつのまにかソファーで眠ってしまった。
窓の外はまだ薄暗い。夜明け前だ。
今日は静が九州から帰ってくる日。会社に行って社長の顔を見ても、何事も無かったように普通にできる自信なんて無い。
静を見つけたら、ところ構わず昨日の事を問いただしてしまいそうだ。
もう一度、静へ電話をかけてみる。
「何で連絡つかないんだよ」
昨夜からずっと「電源が入っていないか電波が届かない場所に……」とアナウンスされ続けるスマホを、荒々しくテーブルの上へと投げ捨てた。
着たままで寝たせいでくたびれたスーツを乱雑に脱ぎ捨てて、冷たいシャワーを浴びに浴室へと向かう。
「今日……休もうかな」
どちらにせよ、昨日静がカズトヨとかいう元カレに襲われてる時、俺は何も出来なかった事には変わりがない。
静はどんな気持ちなんだろうか。
何で連絡をくれないのか、やっぱり罪悪感に苛まれて別れるつもりなのか。
今日のいつ頃帰ってくるんだろう。予定はどうだったか……。
「そうだ、梶谷さん……っ!」
出張には、梶谷さんも同行している事をすっかり忘れていた。
思わずびしょ濡れの身体で浴室を飛び出した俺は、脱衣室の床を濡らしてしまう。
梶谷さんに連絡をすれば静の様子が分かるかも知れない。……とはいえ、今はまだ明け方の四時。流石に電話するには早すぎて迷惑だろう。
何をやってるんだ。
まだ時間はある。もう一度浴室に戻ってシャワーを浴びながら、梶谷さんに何と説明しようかと思案する。
空が明るくなり始めだと思ったら、あっという間に眩しい太陽の光が窓から射し込んだ。
朝だというのにどっと疲れた身体には、その光がまるで毒のように思える。
「あ……、梶谷さん? おはようございます。すみません、朝早くから」
何度も時計を睨みつけながら七時を待って、ちょうど七時になった途端に梶谷さんへ電話をかけた。
「あれ? どうしたの? 何かあった?」
いつものほんわかとした口調が、俺のささくれだった心を少しだけ溶かしたような気がした。
けれど不安からくる胸のざわつきは治らず、電話する直前まで色々な言い訳を考えていたのに、思わず直球で尋ねてしまう。
「あの、し……水川さんは、変わりないですか?」
「え? 水川くん?」
「はい! 同じホテルですよね?」
「あぁ、一泊目は同じホテルだったんだけどね。何故か社長もこっちの現場の視察に来て、水川くんは社長に呼ばれて、社長の泊まってるホテルへ変わったんだ。でも、どうしたの?」
嘘だろ……梶谷さんも静の様子が分からないとなると、やっぱり帰って来るのを待つしかないのか。
徹底したやり口の社長には、呆れるほど頭が痛くなったが、徐々にそれが怒りへと変わって来る。
「至急、水川さんに確認したい事があったんですが、連絡が取れないので心配していたんです。すみません、朝早くから」
「あぁ、そうなの? それは大丈夫だけど。社長に電話してみたらどうかな? 多分一緒だと思うから」
それが一番厄介な相手なんだと、喉まで言葉が出かかったところを何とか引っ込めた。
「……そうですね。それで、いつ頃こちらへ帰って来る予定ですか?」
「そうだなぁ、お昼には帰ると思うよ。思ったよりスムーズに事が運んだから、今日はもう現場に寄らずにホテルから直接帰ることになったんだ」
「分かりました。お気をつけて」
「うん、ありがとう。……でも、本当に大丈夫? 何かあったんじゃないの?」
時々こうやって鋭い事を尋ねてくる梶谷さんにも、今回ばかりは社長と静の事をペラペラ喋るわけにはいかない。
「いえ、水川さんと連絡が取れなかったので心配になっただけです。社長に連絡してみます」
「うん、そうだね。そうしたらいいよ。まぁ、昼には帰るから。あ、お土産楽しみに待っててね」
「ありがとうございます。じゃあ」
梶谷さんとの通話を終了してから、俺はソファーにグタリと倒れ込む。
結局何の収穫も無いまま大人しく昼を待つしかない事に、ひどい脱力感を覚えるしか無かった。
「静……大丈夫なのか?」
以前には自殺未遂もした事があると話していた静。今回の事でおかしな事を思わなければいいが。
本気であの社長が何を考えているのか、いくら考えても分からない。
手に入らないなら傷付けて壊してしまおうという気持ちなのか。それとも、傷付いた静にまた優しく寄り添って依存させようというのか。
心ここに在らずのまま、俺は出社の支度を済ませて家を出た。
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