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24. 社長はタチが悪い人だった

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 そのまま静はソファーで、俺はどうしたら良いか分からずソファーの足元に敷かれたフワフワのラグの上で寝ていたら、翌朝一気に目が覚めるような叫び声で起こされた。

「嘘でしょ⁉︎ 床で寝たとか!」

 ゆさゆさと揺さぶられて身体を起こすと、そこら中の関節と筋肉が痛んだ。

「……っ! イテテ……」
「当たり前だよ! 何で起こしてくれなかったの⁉︎ こんな所で寝たら身体壊すよ!」
「ごめん。小柄な静はソファーでも十分寝れそうだったし。寝室には勝手に入れないなと思ったから……。風邪でもひいたか?」
「そうじゃなくて! 僕はいいけど、才谷く……慎太郎が身体壊すよって話だよ!」

 名前を言い直したのも、俺の身体を気遣って怒っているところもとんでもなく可愛く見えたし、静の雰囲気が今までとは明らかに違ったように感じた。

「大丈夫だって。結構頑丈に出来てるから。それより、朝飯どうする?」
「シャワー浴びたら僕が作るよ。僕の後に慎太郎もシャワー浴びてきなよ」
「分かった」

 そう言ってからもなかなか動こうとしない静に、「どうした?」と首を傾げる。

「慎太郎、好きだよ。僕はきっと、これからウザいくらいに慎太郎の事を好きだからね」

 そう言って軽く唇を合わせた静は、跳ねるようにしてシャワーを浴びに走って行った。
 俺はカアっと熱くなる頬に触れてから、静の言葉を何度も反芻した。

 やっとの事で手に入れた静の心が、こんなにも胸を苦しくさせるなんて思いもよらなかった。

「そういえば、青木さんと静って何で揉めてたんだ?」

 金曜日の仕事帰りに同僚の青木さんと静が言い争っていたのを思い出した。
 今の今まですっかり忘れていたのは、決して静との触れ合いに夢中になっていたからではない……こともない。

 まだ休みは始まったばかり。土日とあるのだから、静の過去の話も含めてゆっくり話す時間はあるだろう。

「慎太郎、出たよー。シャワーはこっち! 来てー!」

 廊下の奥から静の声がして、俺は言われるがままそちらへと向かった。結局シャワーを浴びた静にまたその場で誘われて、朝イチから体力を使う羽目になったが、その後の朝食はえらく美味かった。

「……というわけでね、おばあちゃんは僕と彰人をおばあちゃんの息子で兄弟だからって言って同じくらい大事にしてくれたんだ。でも何故か彰人がお兄ちゃんで僕が弟っていう設定だったみたいだけど」

 食後にコーヒーを飲みながら、静はおばあちゃんとの思い出を語ってくれた。
 静にとっての親は、そのおばあちゃんだと思う事にしていると。

「それでおばあちゃんが入院してから、毎日のようにお見舞いに行ってた僕と彰人に何度もこう言うんだよ。『彰人、弟の静の事をしっかりね。ちゃんと見てあげて。危なっかしいから』って。僕はもう子どもじゃないって思ったけど、おばあちゃんは入院してから認知症を発症していたから、わざわざ否定するような事はしなかったんだ」
「そりゃそうだよな。誰でもそうすると思うけど」
「それがあとあと問題になってきてね」
「え?」

 ハァーっと大きく溜息を吐く静は、眉間を指で何度か揉む仕草をした。

「彰人がとにかく僕に構い過ぎるんだよ」

 静の病気を治療するのに尽力した社長。そしてその後も静が無茶苦茶しないようにちゃんと調査? した相手をあてがっていたとは聞いたけど。

 そこで、あのリフレッシュスペースの寄せ植えを思い出した。

 ――「この可愛いウサギはどう見たって静だよ。それは分かるね?」
「はぁ……」
「そうなると、ウサギの隣に立ち、慈しむかのように寄り添っている心優しきクマ。この二人の間には長年の信頼関係だったり、お互いを大切に思う気持ちが溢れているだろう? つまりこれは才谷くんでは無く、僕だよ」

 今目の前に座る社長は本物の土屋彰人なんだろうか。
 俺の知る社長はこんなキャラじゃなかったはずだ。

 恍惚とした視線はウサギとクマがいる多肉植物の箱庭に注がれ、さも愛おしそうに指先で優しく帽子を被ったウサギの頭を撫でていた――

「社長が……異常な執着を静に持ってる……?」

 自分があてがった俺に嫉妬するほど、社長は静の事を思っている。恋愛とは違うと言っていたけど、子離れ出来ない父親か母親のようなものか。
 それはそれでタチが悪いに違いない。

「そう。彰人は今更になって僕と君の仲を認められなくなったらしい。それに、彰人には長年の恋人がいるんだけど、そっちの事をすっかりほっぽり出しているらしくてね」
「まさか……それって……」

 

 

 
 
 

 
 
 

 
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