愛しの静はあざとい先輩【R18】

蓮恭

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20. いつまでもこんな関係なんて嫌だ

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「ん……ぅ、は……っ」

 最低限の息継ぎだけを許すように、俺はアルコールの匂いが混じる水川さんの味をしつこく貪った。
 むくむくと湧き上がる欲を無視し、ただ噛み付くような口付けだけに集中する。水川さんが俺の下腹部の変化に気付き、いつものように指先で触れてこようとしたところで唇を解放した。

「んん、ぷはぁ……っ。才谷くん、どうしたの?」

 唾液で濡れた唇は色っぽく、上気した頬も潤んだ瞳も、元からあるこの人の妖艶な色気を更に高めていた。

「もう、大人になった水川さんを傷付ける人間は居ません。自分の価値を確かめる為に男に抱かれるなんて、もう二度と水川さんにして欲しくないんです。社長も、俺も、水川さんの事大切に思ってますから。それじゃあ足りませんか?」

 カッコイイ事を口にしている癖に、水川さんとキスをしただけで勝手に下半身が昂っている。こんなんじゃ、全く格好がつかない。
 水川さんもそれに気付いていて、先程触れようとした場所へ再び手を伸ばそうとしてくる。

「だから最初に約束した通り、今は君としか寝てないよ。そんなの分かってるでしょ? 毎日一緒に居るんだから」
「でもそれは期間限定というか、いつかはこの関係も終わるんですよね。だって俺と水川さんは恋人でもないんだし。教えてください、まだ……俺の事、ただのセフレだと思ってるんですか?」

 今までみたいに身体だけの関係なんて、やっぱり足りない。俺は水川さんの特別になりたい。
 一時慰めるだけの存在じゃなくて、ちゃんと支えたい。

 水川さんは心底困ったような顔になる。「違うよ、君はもう僕の特別だよ」と言ってくれるような甘い雰囲気では無さそうだ。
 けれど前みたいに作られた笑顔を浮かべて本心を隠すような、胡散臭い仮面は被っていない。
 ちゃんと水川さんの感情が読み取れる。それは毎日を一緒に過ごした成果だと思う。

「どうかなぁ? 君の持ってるコレ巨根で今まで以上に僕の事満足させてくれるの? もっと僕をイカせるのが上手くなったら、まぁその時はちょっと考えてみてもいいけど。ほら、キツそうだからズボン脱げば」

 今だって目の前のこの人は、無理をして話をはぐらかしている。本心を語るまいと、わざと奔放な言葉を選んで俺を翻弄しようとしている。いや、傷つけて突き放そうとしているのかも知れない。

 それが毎日一緒に居るうちに分かるようになってしまった。
 
「俺は……身体っていうより、心で繋がりたいです。水川さん、はじめは身体だけの関係だって話してたけど、今は俺の事……少しは特別に思ってくれてますか? もう、水川さんの胡散臭い笑顔の仮面は俺に効果無いんです。水川さんが無理している事、全部分かるんですよ」

 俺のベルトに手を掛けて、下半身を寛げさせようとしていた水川さんの手が止まる。
 俺が水川さんの手首を掴んで制止したからだ。
 
 途端にジトリとした視線をこちらへと向け、チクチクと突き刺すような声色で水川さんは不満を口にした。

「君さぁ、いっつも僕がヤッて欲しい時にしてくれないんだから。はじめの頃もそうだったよね、僕たちの関係が始まった日も、ヤらないでキスだけとか……。しらけちゃうなぁ。僕は今したいんだけど」
「今したら、俺の事好きになってくれます?」
「それは……」
「好きになってくれるならヤりますよ」
「今のままで何が不満なの? 毎日一緒に居て、セックスして。これ以上どうしろって言うの?」

 今の俺達の関係は水川さんの秘密を会社にバラさないっていう約束と引き換えに得たもので、確かにそれを水川さん攻略のきっかけにしようとは思ったけれど、決してこのままで居たいわけじゃない。

 これは単なる我儘でしかないのだと分かってても、俺は水川さんの心を渇望していた。

「何で……俺の事、好きになってもらえないんですか?」
「才谷くん、それは最初に話したよね? 僕は誰の事も好きにならないよ」
「でも、社長が……水川さんは俺に心を開いてるって。それに、他の男を紹介しようとしたのに水川さんが断ったって聞きました」
「それは彰人の作り話だ。揶揄われたんだよ、君は」
「そんな……」
 
 社長が嘘を言ったと言い張る水川さんの表情からは本心が読めない。うっすら笑っているようにも見えるし、呆れているようにも見える。
 それでも、狂わしいほど水川さんの心を求めてしまう凶暴な恋情のやり場に困り、勝手に苦笑いが込み上げて来た。
 そんな俺を見て怪訝そうな顔をする水川さんの肩を強く握る。身体を揺さぶりながら声を振り絞った。

「どうしたら……俺の事、好きになってくれるんですか……っ!」
「悪いけど……、僕は君のこと、ただお気に入りの竿としか思ってないよ」
「……っ!」

 微笑みすら浮かべながらそう告げる水川さんに、目の前が真っ赤に染まった。頭に血が昇ると同時に視界がうっすら滲む。

 力加減なんてせずに水川さんの二の腕を掴み、椅子から立たせた。
 初めて訪れた水川さんの自宅では、寝室がどこか分からない。近くにあるソファーに投げるようにして水川さんを押し倒すと、俺のと違って高級そうなワイシャツの胸元に手を掛ける。

「ねぇ、シャワー浴びなくていいの?」

 こんな状況でも平気そうな顔をして聞いてくるこの人に腹が立つ。
 俺だけ熱くなっているのが悔しくて、その怒りをぶつけるように力一杯ワイシャツを引き裂いた。


 

 
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