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11. あれから才谷くんの日々は
しおりを挟む本当にキスだけでラブホを出た俺と水川さんだったが、絶対俺以外の男とは会わないでくれと固く約束を交わしてから別れた。
水川さんは「期間限定だし、たまにはそういう楽しみ方もいいかもね」と綺麗な顔で笑っていたが、俺はとにかく水川さんが約束さえ守ってくれれば、何と言われようが良かった。
色んなことが一気にあってぐったりしながらベッドに潜り込む。
早速スマホで検索したのは「男同士のセックス」について。俺はその内容に興奮するどころか、ケツと腹が痛くなった気がして終始顔を顰める。
「俺は……こんな事を水川さんにさせんのか。っていうか、あの日に既にしてんだけど」
あの夜は水川さんが俺に後ろ向きで跨って、自分のペースで動いてた。
そのうち俺が水川さんとのセックスに慣れてきて自分のタイミングで動くとなると、あの線の細い人が壊れちまうんじゃないかと不安になってくる。
「よりにもよって、女でも逃げ出すブツだからなぁ……」
元々出すところで入れるところじゃないんだから、その負担は女よりも大きいんじゃなかろうか。
今まであの人が数多くの男と寝てきたのだとしても、恐らく嫌なことだって痛い思いをした事だってあるだろうと想像する。
そう考えるだけでギュッと引き絞られる胸。
だけどそれでも水川さんの痴態を思い出すだけで痛いほどに硬さを増す邪な欲望の狭間で、俺はまた悶々とした夜を過ごした。
翌日から、俺と水川さんが職場で顔を合わせても、他の社員と何ら変わりない対応でお互いが仕事に取り組んだ。
俺がいる梶谷チームと水川チームが合同で進めている物件も、やっぱりリーダー同士がデキる先輩なだけあって順調だ。
「水川さん、お疲れ様でした。今日は不具合を見つけてもらってありがとうございます」
「ああ、気にしないで。たまたまチェックしてて気になっただけだから。恐らくあれでもいいとは思うんだけど、万が一があって現場で困ったらいけないし。念の為に、ね」
「はい。ありがとうございます!」
そう広くはない社内。しかも同じ物件を扱っているから必然的に水川さんの名前が頻繁に耳に入ってくる。
今も仕事終わりに女子社員が水川さんに話し掛けているけれど、とにかく仕事が出来て愛想が良くて、その上気遣いが出来るイケメンの水川さんは社員にもお客さんにもモテた。
恋愛という意味でも多分水川さんの事を好きな女性はいるのだろうが、男でもあの人の仕事ぶりには憧れを抱いても仕方がないと納得する。
「あの、それで水川さん。今夜、お暇ですか?」
さりげなく聞き耳を立てていた俺は社内一可愛くて人気だという女性社員青木さんが、照れているのか俯き加減の姿勢と甘えた声で、水川さんに囁いたのまでしっかりと聞こえた。
あれから毎日、仕事が終わると俺は水川さんと会っていた。
たまには食事だけで終わる事もあるけど、大概はどちらかの部屋で数時間過ごす事が多くなっていて、そういう雰囲気になればもちろんセックスだってする。
二週間経って、やっとの事で俺は男である水川さんとの行為に慣れてきた。
いや、元は童貞なんだからセックスという行為自体に慣れてきたってところだが。
おい、まさか誘いに乗ったりしないよな?
会話が始まってからずっと避けていた二人の光景、だけど我慢出来なくなってチラリとパソコン越しにそちらを見ると、目を細めて何故か意地悪そうな表情の水川さんはしっかり俺の方を見ている。
青木さんは水川さんのネクタイ辺りを見ているから、水川さんが俺の方を見ているなんて気付いてもいない。
何だよ、その目は。俺がどう思うか気になってんのか。それとも、この状況を楽しんでるのか。
周囲はもうほとんどの社員が定時で帰っていて、離れた席で数名が残っていた。カチカチと鳴るマウスの音やキーボードを叩く音が忙しなく、締切間際の仕事に熱心に取り組んでいる気配がする。
普段なら聞こえないような音が聞こえるくらいに、俺は耳を澄ましていた。
「悪いけど、先約があるんだ。ねぇ才谷くん、そろそろ仕事終わりそうかな?」
青木さんからは表情が見えない位置でそう言った水川さんの顔は、俺だけが知るめちゃくちゃ性格の悪い一面が滲み出ていた。
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