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2. マジにXLのせいで悩んでたんです
しおりを挟む結局朝方にラブホを一人で出た俺は、せっかくの土日を悶々と過ごす事になった。
一回セックスを経験すると、しばらくは猿みたいにヤリまくってしまうっていう男友達の経験談はどうやらマジだったらしい。
普段はそうそういつも興奮している俺ではないのに、いつもにも増してこの土日は精力が有り余っている気がする。
いや、それだけじゃない。身体だけじゃなく、心にも変化があった。
高専四年の時に別れた元カノを最後に忘れていた感情を、突然取り戻したような感覚。
あの静という女の事を思い出す度、元カノに対する想いとは比べ物にならないくらい、そう、まるで初恋みたいに胸が苦しくなったからだ。
切長の瞳から向けられる冷たい視線と合わさった妖艶過ぎる微笑みや、さらりと柔らかそうなミルクティー色のショートヘア、真っ白な肌とスラリとした四肢。
いや、決して彼女の身体だけが目的ではない。断じて、それは無い。
やはりハジメテの相手には特別な想いが芽生えても仕方がない事なんだろう。
ちょっと掠れた声も、ゆるめのシャツとワイドパンツというラフな服装も、その全てが美しい彼女に似合っていて。
「いや、待て待て待て。俺は一体どうしたって言うんだ! 気色悪いな、『美しい彼女』って言葉はなんだよ! 彼女は社長の知り合いで、別に俺の事なんか何とも思ってないかも知れないし。起きたら既に居なかったし、第一連絡先だって交換してないのがその証拠だろ! 落ち着け」
一人暮らしの部屋でいつもの家事をこなしながら、何度もあの夜の静の身体を、掠れた声を思い出した。
その度に前屈みになって苦しさに喘ぐのは馬鹿らしいと自分でも思う。
「やっぱ、遊びだったのか……?」
静はあの社長に似合うくらいの大人の女だ。俺なんか、単に一夜限りの遊び相手だったりしたんだろう。
けど、つい数日前まで童貞だった俺にとって、あの日の事は流石に刺激が強すぎた。
下手したらこのXLのせいで、たとえまた彼女が出来ても一生童貞なんじゃないかって思ってたくらいには、諦めの境地に入っていたんだから。
「静……、また会えるのかな。……って、俺は何言ってんだよぉぉぉぉぉぉ! すっかり気色悪い事を口にする男になってるじゃないかぁぁ!」
二十歳にもなって思春期のガキみたいなセリフを口にした自分が小っ恥ずかしくなって、外に干していた洗濯物を取り込む途中だった俺は、すっかり乾いたタオルに顔を突っ込んで叫んだ。
それがまさかすぐに静と再会する事になろうとは、春風のそよぐベランダでフカフカのタオルに顔を突っ込んで叫んでいたその時の俺は、知る由もなかった。
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