愛しの静はあざとい先輩【R18】

蓮恭

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1. 童貞卒業は突然に

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「頭……いてぇ」

 割れるような頭痛に顔を顰めながら目を覚ますと、見慣れない寝具と室内にギョッとする。
 真っ白なシーツに同じ色の枕、ダマスク柄の派手なワインレッドをした壁紙なんぞ決して俺の趣味じゃない。

「昨日は職場の飲み会で……」

 視線を泳がせながら懸命に記憶を辿ると、そのうち意識がはっきりとしてくる。
 ガバリと起き上がると薄い掛け布団が捲れ、そこには見慣れた自分の裸が……。
 辺りを見渡すが、見知らぬラブホの一室だと思われるその空間に人の気配は無い。
 枕元のデジタル時計は今が深夜の二時過ぎだと知らせる。飲み会は金曜の夜だったから、今日は既に土曜日で仕事は休みだ。

 それにしても……。

「夢じゃない、のか?」

 仰向けで動く事が出来ない自分に跨る女の、揺れる柔らかな髪、細い肩が見えるほどはだけたガウンから覗く脚は白く細かった。
 酒に酔って朦朧とした意識の中、何度も繰り返し襲ってきた快感の波は、思い出しただけで腰と下腹部にズクリとクる。

「あの女……」

 痛む頭を掌で抑えながら記憶を辿る。

 同僚達の行きつけだと言うスナックでの飲み会をお開きにして家に帰ろうとした時、雑居ビルが立ち並ぶ通りで偶然、就職したばかりの会社の社長である土屋が前方から歩いて来たのが見えた。
 会社で午前中に会ったきりの社長は機嫌が良さそうな表情で、腕に嵌めた時計を流れるような所作で確かめている。
 男の俺から見てもデキる男って感じで、社内だけでなく取引先でもイケメンだと騒がれているらしい。まだ独身だと先輩社員達からスナックで聞いたばかりだ。
 そんな社長が流石に自分の事なんか分からないだろうし、こんな所で声を掛けるのもなぁと思っているうちに、社長の方から俺に声を掛けてきた。

「あ、もしかして君、うちの新入社員の才谷さいたにくんだよね? そうか、今日は歓迎会より一足先に少人数で懇親会をするって言ってたな。店はそこのレインスナックだったのかな?」
「はい、才谷です! お疲れ様です! 俺の事、覚えててくれたなんて光栄です」
「ははっ、当然だよ。面接したの、僕だったでしょ? 君は母校の後輩だし、熱心なプレゼンテーションをしてくれたからね。しっかり覚えてるよ」

 いくらここは会社のすぐ近くの繁華街で、その会社も社員二十人ほどの人数で運営している小規模の設計会社だとはいえ、新入社員として入ってまだ二週間の俺とすれ違ったくらいで、やり手と言われる社長が気付いてくれた事が嬉しかった。

「ねぇ、良かったら今から僕と飲み直さない? 近くの店に連れも居るんだけど、是非紹介したいんだ」

 そうだ、その後はえらくニコニコ愛想がいい社長に連れられて近くの洒落たバーに入ったら、先に来てた『静しずか』っていうスッゲェ綺麗な女と何故か三人で飲む事になって……。

 そこからの記憶は曖昧だ。スナックではまだ飲み慣れない酒をわりかし多く飲んでいた上に、社長に連れられ初めてのバーということで、緊張感とその場の雰囲気で俺はすっかり酔いが回ってしまった。
 いつの間にか社長とは別れてて、代わりに静っていう女に連れられてこのラブホへ入った事は少しずつ思い出して来た。

「名前、静……って言ってたよな」

 所々にシミがある乱れたシーツと無造作に捨てられた使用済みのコンドームの包み(恐らくあれは二個ほど見えている)が、昨夜の情事が夢ではなかった事を証明している。
 
 決してモテないわけじゃなかった才谷慎太郎しんたろう二十歳、悩みは今でも元気さを取り戻しつつあるこの巨根XLのせいで元カノ達に怖がられ、逃げられ、これまで童貞だったこと。
 しかしそんな俺もとうとう童貞を卒業したんだ。しかもほとんど記憶にはないが二回もした(らしい)のなら、あの静という女は俺のブツが平気だったんだろう。

 完全に酔って動けない自分の上で、後ろ向きの静が激しく淫らに振る舞う様を思い出すと、顔が熱くなって激しい動悸がしてきた。

 せめて連絡先くらい交換しとけばいいものを、昨夜の俺は相当酔っていたせいでスマホに静の連絡先を登録した形跡は無い。

「社長の恋人とか……じゃないよな。紹介したいとか言ってたし。あぁ! 全く分かんねぇ! こうなったら社長に聞くしかないのか」

 ぼんやり思い出してきたバーでのやり取りで、社長はいやに俺と静の仲を取り持とうとしていたように思う。
 まさか恋人ならそんな事はしないだろうし、記憶の中の静という女は、冷たい印象を与えるほどの整った顔立ちとは裏腹に、何となく色気を振り撒きながら俺に擦り寄って来ていたような気がする。

 社長と静、何だかよく分からない事態になったけど、とにかく頭痛が酷くて吐き気までしてきた俺は、素っ裸のまま慌ててトイレへと走った。
 

 

 
 
 

 
 
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