48 / 57
49. 種明かし
しおりを挟む病院を出たのは正午を少し過ぎた頃。
僕はスマホの電源を入れながらホテルの方へと足を運んだ。
ホテルの近くのコンビニで食べ物を調達してから部屋に戻る。
ここは連泊可能なホテルで、近くに色々な店があってすぐに間に合うから助かる。
「明からのLIME?」
明から、割とすごい数のLIMEが来ていた。
内容は、宗次郎が突然居なくなった僕を探しているようだということから始まっている。
仕事終わりに、グッドネイバーズで事情を知ってそうな明を張り込んでる様子だということ。
宗次郎の実家でもある楢原ハナエさんの家で、送迎のデイサービスの職員にさりげなく僕や明のことを尋ねたということ。
宗次郎からも、もちろん馬鹿みたいにたくさんのLIMEが来てたけど、僕は見ることもせずにまたスマホの電源を落とした。
「今更何でぼくを探してるんだろう。あ、もしかして合鍵を持ったまま来ちゃったから、それを返せとか? 元恋人が持つのは無用心だし、心配性の明なら……」
そこまで言うと、ふいに僕の瞳からはポロポロと涙が溢れてきた。
まるで角野さんのように、ぐしゃぐしゃな顔になるのも厭わずに僕は遠慮なくベッドの掛け布団に顔を埋めて声が広がらないようにしっかり抑えて泣き叫んだ。
宗次郎のばか。
きらいだ。
嘘つき。
浮かんでくる悪口よりも、宗次郎との思い出の方が多すぎて。
僕は悪口を考えるのをやめた。
とにかくワァーッと布団に向かって泣き叫んで、ボロボロと遠慮なく涙を流した。
そしてそのまま眠ってしまった。
目を覚まして、枕元の時計を確認すると朝の七時だった。
結局食べなかった夕食のパスタを朝食として食べた僕は、熱いシャワーを浴びて心なしかすっきりした。
鏡に映る僕の目は真っ赤になって、瞼は腫れているし明らかに泣いたと分かる情けない顔だった。
あと少ししたらまた病院へ向かおう。
僕は一応明からのLIMEを確認するためにスマホの電源を入れた。
案の定、明から大量のLIMEが来ている。
なんかあちらに残してきた明には悪いことをしたなぁと思いながら目を通していくと、僕のスクロールする手は動かなくなった。
着信音と共に画面に表示されているのは、宗次郎からの着信を知らせるメッセージだ。
僕はそっとスマホを置いた。
随分と長く鳴っていた着信音も、諦めたのかやっと切れた。
明とのLIMEの続きを見ていて間違って電話に出てしまったら大変だと思って、明には電話をすることにした。
「もしもし!」
「あ、明。ごめんね……」
「伊織! お前俺からのLIME見たのか?」
尋ねる明の声は真剣そのもので、何なら少し怒っているようにも聞こえた。
「え……、まだ途中までしか……」
「もういいや! じゃあ今から口頭で伝えるからよく聞けよ、楢原さんはお前を騙したりしてないぞ。嘘を吐いたのはその妊娠したとか言う女の方だ」
嘘? そんな嘘吐ける?
「でも、エコー写真を見たよ。確かに間違いなく週数も書いてたし」
「友達のを借りたんだと。そもそも楢原さんの子どころか、妊娠すらしてなかったんだよ」
「へ……?」
「へ? じゃねえよ! とにかく、楢原さんは悪くないから! 仲直りしとけよ!」
妊娠は嘘で、宗次郎は嘘なんか吐いてない……。
「ちょ、ちょっと待って! 何で明がそんなこと知ってんの? 宗次郎と直接話したの?」
宗次郎はやっぱり明を訪ねたんだ。
「もう、俺なんかあの人とんでもない裏切り者なんだと思ってたのによ! いきなり俺の帰りを待ち伏せしてめっちゃくちゃに頭下げるからさー」
「え、頭を下げる? 明に?」
「そうだよー、『伊織の居場所知ってたら教えてください』って。それで俺がキレて妊娠の話したらさ、俺のLIMEだけ教えてって、まーたすっげぇ頼んできて……。俺も何かこの感じはおかしいなあって思って一応LIME教えたんだよ」
それで柴田さんと話した宗次郎は、明に事の次第を話したってことらしい。
「何で柴田さんは僕に嘘吐いたりしたんだろう……」
「なんか、随分前に楢原さんとは遊びの関係が終わってたらしいんだけどさ。店に久々に顔出したら伊織がいて、明らかに楢原さんとデキてるって分かったから腹が立ったんだと。ついでに言うと、その女は彼氏に逃げられたばかりでムシャクシャしてたらしいぞ」
なんだ、僕は他人のイライラの捌け口にされただけなんだ。
それなのに確認もせず真っ先に宗次郎を疑って……。
ばあちゃんが居なくなってまともな思考回路じゃなかったのかも知れない。
「ごめん、明。またそっち帰ったら宗次郎と話してみるよ」
謝って許してくれるだろうか。
僕が宗次郎の気持ちを信用しなかった癖に。
「あ、伊織」
「なに?」
「言い忘れるところだった! もうそっちに楢原さん行ってるから! じゃ、頑張れよ! またなー」
何で僕の行き先まで話しちゃうんだよ。
そんなに日にちかからずにそっちに帰るって知ってる癖に……。
まあ……、明のお節介のおかげで僕は暗い気持ちから抜け出す事が出来たんだけれど。
スマホの着信音が鳴り響いた。
液晶画面には『宗次郎』の文字。
「も、もしもし……」
0
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
「…俺の大好きな恋人が、最近クラスメイトの一人とすげぇ仲が良いんだけど…」『クラスメイトシリーズ番外編1』
そらも
BL
こちらの作品は『「??…クラスメイトのイケメンが、何故かオレの部活のジャージでオナニーしてるんだが…???」』のサッカー部万年補欠の地味メン藤枝いつぐ(ふじえだいつぐ)くんと、彼に何故かゾッコンな学年一の不良系イケメン矢代疾風(やしろはやて)くんが無事にくっつきめでたく恋人同士になったその後のなぜなにスクールラブ話になります♪
タイトル通り、ラブラブなはずの大好きないつぐくんと最近仲が良い人がいて、疾風くんが一人(遼太郎くんともっちーを巻き込んで)やきもきするお話です。
※ R-18エロもので、♡(ハート)喘ぎ満載です。ですがエッチシーンは最後らへんまでないので、どうかご了承くださいませ。
※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます!(ちなみに表紙には『地味メンくんとイケメンくんのあれこれ、1』と書いてあります♪)
※ 2020/03/29 無事、番外編完結いたしました! ここまで長々とお付き合いくださり本当に感謝感謝であります♪
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
俺をハーレムに組み込むな!!!!〜モテモテハーレムの勇者様が平凡ゴリラの俺に惚れているとか冗談だろ?〜
嶋紀之/サークル「黒薔薇。」
BL
無自覚モテモテ勇者×平凡地味顔ゴリラ系男子の、コメディー要素強めなラブコメBLのつもり。
勇者ユウリと共に旅する仲間の一人である青年、アレクには悩みがあった。それは自分を除くパーティーメンバーが勇者にベタ惚れかつ、鈍感な勇者がさっぱりそれに気づいていないことだ。イケメン勇者が女の子にチヤホヤされているさまは、相手がイケメンすぎて嫉妬の対象でこそないものの、モテない男子にとっては目に毒なのである。
しかしある日、アレクはユウリに二人きりで呼び出され、告白されてしまい……!?
たまには健全な全年齢向けBLを書いてみたくてできた話です。一応、付き合い出す前の両片思いカップルコメディー仕立て……のつもり。他の仲間たちが勇者に言い寄る描写があります。
【R18】しごでき部長とわんこ部下の内緒事 。
枯枝るぅ
BL
めちゃくちゃ仕事出来るけどめちゃくちゃ厳しくて、部下達から綺麗な顔して言葉がキツいと恐れられている鬼部長、市橋 彩人(いちはし あやと)には秘密がある。
仕事が出来ないわけではないけど物凄く出来るわけでもない、至って普通な、だけど神経がやたらと図太くいつもヘラヘラしている部下、神崎 柊真(かんざき とうま)にも秘密がある。
秘密がある2人の秘密の関係のお話。
年下ワンコ(実はドS)×年上俺様(実はドM)のコミカルなエロです。
でもちょっと属性弱いかもしれない…
R18には※印つけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる