チャラ男に囚われた忌み子の僕は

蓮恭

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21. 好きに気づく

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 僕の生い立ちや生活のことは前から明には話していた。
 それに関しても、明は特に偏見を持つ事なく接してくれている。

「明、突然のことで驚かないでよ。あのね、実は……」

 相田と今井の話を聞いた上で特に同性愛というものに偏見を持つ風でもない明になら、宗次郎のことを話しても大丈夫だと思えた。

 結局明には全てを話した。
 宗次郎が僕に告白してきたことも、僕が宗次郎に対して抱いた感情も。

 流石にキスのことは言えなかったけど。

「成る程なぁ。いいんじゃないか! だって楢原ハナエさんのお孫さん、伊織のこと大切にしてくれそうなんだろ? いくら今まで遊んでたって言っても、聞いてる限りは伊織の事に関しては遊びとかじゃなさそうだし」
「うん、多分。遊びじゃないとは思うけど」
「それで、伊織もその人のことが好きだと」

 確かめるようにして尋ねてくる明に、僕は正直に答えた。

「好きなのかどうかは正直分からない。恋愛とか、僕はきちんと考えたことなかったから。それどころか無責任で奔放な母親のことを考えたら、敢えてそういうことを忌避していたのかも」
「でも、一緒に居たいって思うだろ?」

 宗次郎と一緒に居たい……のか?
 僕はただ……

「僕は忌み子だから、誰かに必要とされてるっていう実感が欲しいんだ。こんなこと言うの恥ずかしいけど、誰かに愛されたいって望んでるんだと思う」

 明は僕の言葉をゆっくりと咀嚼するようにして飲み込んだ。
 僕の気持ちを想像して、最適な答えをくれようとしている時の表情なんだと分かっていた。

「伊織、伊織はみんなに必要とされてる。利用者にも職員にも。勿論友人として俺も伊織が必要だよ。きっと、お前のばあちゃんもな」
「でも、それじゃあなんだか寂しいんだ。物足りないっていうか……。うまく言えないけど、僕の役割じゃなくて僕自身を必要としてくれる人がいないから……」

 僕の言葉を聞いてから、明ははぁーっと大きく息を吐いた。
 そして、少しだけ怒った顔をして口を開く。

「まあこの際仕事のことはいいけど。言っておくけどな、俺とお前のばあちゃんはお前自身のことを必要としてるよ。だけど、まあ俺だって加藤さんのことも大事だし。伊織のことを唯一無二ってわけにはいかないけどな。多分、そういうことだろ? 伊織は自分のことを唯一無二の存在だと思ってくれる相手が欲しいんだ」

 さすが明だ。

 僕は明の言葉を聞いて、胸のつかえがストンと取れた気がした。
 そうだ、僕は自分のことを唯一無二の存在だと思ってくれる人が欲しいんだ。

 そして、宗次郎はきっと僕のことをそういう風に思ってくれていると思ったから。
 だから僕は宗次郎のことを受け入れることにしたんだ。

 僕は明にそう答えた。
 それが『好き』ということなのかどうか教えてもらおうと思ったから。

「これが好きってこと? 僕、宗次郎のこと好きなの?」
「それだけじゃ判断できない。あくまで楢原さんの方は『好き』なんだろうが、伊織が楢原さんのことを好きかどうかは別だ」
「じゃあどうやったら好きかどうか分かるの?」

 世の中の人はどうやってそんな事分かるんだ。

 きっと皆からすると簡単なことを友人に聞かないといけないなんて。
 こんな年齢になるまで恋愛事から逃げてきた自分に少しだけ後悔した。

「例えば……、そうだなぁ。相手とキスしたくなったりとか、エッチしたいって思ったり。あとは嫉妬とか?」

 キス……、このタイミングで『実はしてた』とは言いにくい。

「嫉妬……」

 昨夜……というか今朝方のことを思い出して、僕が宗次郎の言葉に嫉妬したのを思い出した。

「そう、嫉妬は好きな相手じゃないとしないな。例えば俺が相田とか今井と仲良く話して、肩を組んだり抱き合ったりしてるの見たらどう思う?」

 想像してみるけど、案外明と他の介護士たちはそういう感じの雰囲気はよく見かけるし、それに対して何か思ったことは無い。

「仲良しだなあと思う」

 素直に答えると、明は何故かククッと笑った。

「じゃあさ、例えば楢原さんが他の女に抱きつかれたり肩を組んだりしてたら?」

 宗次郎が?

「……なんか腹立つ。僕のこと好きとか言っておいて何だよって」

 想像しただけでムカムカして、何だか宗次郎に腹が立ってきた。
 実際何かあった訳じゃないのに。

「そう! それが『好き』だよ! 特別な気持ちがないと嫉妬なんてしないからさ」
「成る程。じゃあやっぱり僕は宗次郎のこと好きなんだ」
「そういうことだろうな。良かったじゃん。解決して」

 ニカっと笑った明は、本当に僕からすると出来た人間だ。
 僕の秘密をすんなり受け入れてくれて、その上僕のくだらない質問にもきちんと答えてくれる。

「ありがとう。また今度御礼するよ。明のおかげでスッキリした」

 いつの間にかりきんでいた肩の力が抜けて、僕は自然と明に微笑んだ。

「あ、じゃあ御礼は今度また飯作ってくれよな。次は伊織の奢りで」

 こんな事で御礼にしてくれるなんて、やっぱり明は優しい。
 恋愛下手の僕が言うのも変だけど、加藤さんと幸せになってほしいな。

 僕は夕焼けが明のアパートの窓から差し込んでくる頃には家路についた。

「宗次郎はまだ仕事中だよね。とりあえずうちに帰ろう」

 明のおかげで自分の気持ちに気づけた僕は、どこかくすぐったい気持ちになる。
 不思議といつもより軽く感じるペダルを踏みしめながら、自転車で夕方の街を通り抜けた。
 
 無知な自分がやらかした事が、あとであんなに大変な事になるなんて夢にも思っていなかった。

 




 



 
 

 

 

 
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