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12. イメチェンで仕事も上手くいく

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 髪を施術した翌日、仕事に行くと同僚たちがじっと僕の方を見る。
 男も女も関係なく、じっと見つめては何故か頬を赤らめて目を逸らす。

「おはようございます」
「あっ、おはようございます! 高羽さん、髪切ったんだね。イメージかなり変わって誰か分かんなかったよ」

 皆特に挨拶を返すだけだったけど、さすがに上司の橋下さんからは声をかけられた。
 四十代の主婦でもある、介護士で上司の橋下さんとは割と話すことも多いからだろう。

「そうですか?」
「うん、前はほら……自分で切ってたでしょ? 今回はプロに切ってもらったの?」
「まあ、……新しく出来た友人が美容師で」
「うんうん、その方が絶対いいよ! いや、前から気になってたんだけどね。せっかく綺麗な顔立ちしてるのに、身なりに無頓着だから。勿体ないなぁって! きちんと清潔感はあるんだけど、若さが無かったわよね。いいわ、それ! これからもそれでいてね!」

 弾丸トークで話すだけ話したら、橋下さんは仕事に戻って行った。

 清潔感はあるけど、若さは無かったのか。
 知らなかった……、そう思われてたなんて。
 確かに通勤の服はいつも適当な服装だし、こだわりがあるわけでもなかった。

 僕自身が他人にあまり深く関わる気がないから、他人からどう見られるかなんてあまりに気にしなさすぎたのかも知れない。

 明はそういうこと指摘してくれるような繊細な奴じゃないし。

「高羽さん、おはようございます」
「あ、鈴木さん。おはようございます」
「新しい髪型、すごく素敵ですね。お陰でみんなが高羽さんの魅力に気づいちゃいましたよ」

 なんだか変な言い方だな。
 あざといメイクとクルクル巻いた後毛の、女らしさを全面に出すねっとりとした鈴木さんの視線はやはり苦手だった。

「どうも。あ、ミーティング始まりますよ。行きましょう」

 僕はさっさと仕事に戻ろうと彼女を促した。
 鈴木さんは一瞬顔が強張ったようになった気がしたけれど、頷いてからニコリと笑って仕事に戻っていった。

 今日のデイサービスには楢原ハナエさんが来る日では無かったけれど、今度会ったらどんな顔をしたら良いのかと少し戸惑った。

 それでも、何とかその日の業務を終えて僕は更衣室に向かう。
 
 今日明は午後から半休だったから、男子更衣室には他の男性職員が二人着替えているだけだった。

「相田さん、今井さんお疲れ様です」
「あ、高羽さん。お疲れ様でーす」
「高羽さん、イメチェンしたんですね。かっこいいというか、可愛いというか……。すっげぇ似合ってますよ」

 相田さんと今井さんという二人はまだ二十歳の介護士くんたちで、真面目で明るい性格は高齢者相手の介護の仕事にも活かせていたし、僕は二人のことを特に嫌だと思ったことはなかった。

「ねぇ、高羽さんってそんなに綺麗な顔してたんですね。知らなかったなー。あと、今日は色々フォローしてもらってありがとうございました」
「俺ら話してたんすよ。なんか高羽さんって個性的っていうか自分の世界がある感じでとっつきにくかったけど、イメチェンして話しやすくなったと言うか……。すみません! 失礼な言い方かも知れないけど、今日は業務を一緒にするのがいつもよりスムーズにできるようになった気がして」

 まあ内容はさておき、二人の雰囲気からは悪意を感じない。

 今日は僕もなんだかいつもより他の職員がえらく話しかけてくるなぁとは感じ取っていた。
 いつもは仕事だけキチッとやって、近寄り難い雰囲気を醸し出していたから仕方がないかも知れないけれど。

「これからは僕もなるべく話しかけやすい雰囲気を心がけるね。だから、業務のことで何かあったら遠慮なく言って。よろしく」

 自然とそんな言葉が出た。

 仕事なんて真面目にやって当たり前で、個々がそれぞれできる限り完璧に頑張れば良いと思ってたけど、やはり異業種が協力することは大切だ。

 僕はデイサービスに一人しかいない看護師だから、時々異業種である介護士たちとは仕事に対する認識が違ったりして分かり合えないところもあった。

 今まではこちらから歩み寄ることもせずに、自分だけがその分頑張れば良いと諦めていた部分もあったんだ。

「はい! 高羽さん、看護師さんって一人で大変ですよねー。いつもありがとうございます!」
「僕ら介護士も頑張りますね!」
「あ、良かったらこれから今井とメシ行くんで一緒に行きませんか?」

 二人は何故か顔を赤くしながらもすごくフレンドリーに話しかけてきた。
 これはこの職場に来て初めての出来事だ。

 明以外の職員とは、業務外の時間はほとんど話さなかったからなぁ。
 断るのも悪いし、たまには誘いに乗るか。

「うん、行こうか」
「やったー! じゃ、オススメのおしゃれな店行きましょう!」

 そうと決まればと、二人はさっさと着替えを続けた。
 よく見てみれば確かに若い二人は今風の服装で、よく街で見かけるファッションだ。

 対する僕は、グレーのパーカーに黒のパンツ。
 可もなく不可もなし。
 下手すりゃあシンプル過ぎてダサいかも。

 これから自分を変えてみようかな……。
 見た目を変えるのは案外と必要なのかも知れない。

 若い二人と連れ立って、職員用出口から出た僕はやはりそこに居た鈴木さんにチラリと視線を向けた。
 彼女はいかにも女の子らしいスカートのコーディネートという出立ちで、僕ら三人の方を見て目を丸くする。

「鈴木さん、お疲れ様でした」
「高羽さん、相田さんと今井さんもどこか行くの? 珍しい組み合わせだね」

 僕がさっさと帰りたそうにしているのに、鈴木さんはお構いなしで話しかける。
 相田さんと今井さんは二人ともニコニコしながらも足は止めない。

「俺ら高羽さんとメシ食いに行くんすよ」
「鈴木さん、気をつけてねー」
「それじゃー」

 二人は悪意なく鈴木さんのことをスルーした。
 僕は結局彼女にお疲れ様でしたしか言ってない。

 鈴木さんの視線を背中に感じながら、僕は若い二人と共に職場を後にした。

 この後二人に連れられたおすすめの店で、また一波乱あるとは思いもよらずに。



















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