チャラ男に囚われた忌み子の僕は

蓮恭

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9. 伊織の秘密を知りたいか

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「自分で染めてますよ。

 美容師してるって言ってたから、そういうところに目がいくのかも知れない。

 だけど、他に知っている人は少ないに出会って間がないこの人が気付いたのは意外だった。

「何で? 元々は明るい茶色なんだろ?」
「まあ……。根元、地毛が見えてます?」
「うん、綺麗な茶色が。それに市販のカラーリング使ってるでしょ? ダメだよ、自分でしたら傷むから」

 そう言いながら、食卓の椅子から立ち上がってチャラ男は僕の髪に触れた。
 他人にそんな事されるのに慣れていないから、僕はビクリと身体を跳ねさせた。

「ほら、結構毛先とか傷んできてる。自分でやると傷みやすいから。よく見たらさ、髪の毛もしかして自分で切ってる?」
「はい。美容院苦手なんで」
「やっぱり。ね、今から俺が切ってもいい? カラーリングもしてあげるからさ」

 根元の地毛が見えてきてるならまた染めなければならない。
 僕の地毛は目立つから、デイサービスで勤めることになってから黒に染めていた。
 カットするのも、地毛のことに触れられるのが面倒で自分で切っていたんだ。

 僕から見上げる位置にいるチャラ男は、期待に満ちた目でこちらを見ている。
 髪の毛を切るくらいで何をそんなに喜ぶことがあるのか。

 ああ、
 
 僕が仕事のことになると、自己犠牲をいとわないほどに熱中してしまうのと同じなんだ。

「分かりました。それじゃあお願いします」

 そう答えると、思いの外素直な返事をしたからかチャラ男はすぐそばで一瞬たじろぐ気配がした。
 そしてチャラ男は椅子に座ったままの僕の顔を覗き込む。

「え、いいの?」
「良くないんですか? あなたがしたいと言うからしようと思ったんですけど」

 僕はすぐそばに立つチャラ男の方を見上げて、わざと無愛想な顔で声音に抑揚をつけずにそう言った。
 
「いや……、何かその言い方エロいね」
「じゃあやめます」
「ああ、ごめんごめん! そしたらご飯終わったら俺の店に行こう。そこでカットとカラーしてあげるからさ」

 何故だかいつの間にか次々にチャラ男のペースに乗せられている気がしないでもないけど、僕はチャラ男にカットとカラーをしてもらうことになった。

 ちなみにさり気なく食事をした食器を進んで洗ってくれたことに関してはやはり、チャラ男は手練てだれだと言うしかあるまい。

「じゃ、行こうか。店はそんなに遠くないから、歩いて行く? それとも車取りに行こうか? ちなみに、歩くと二十分くらいかな」
「車?」
「俺が車を取りに一旦家に帰って、それからまた伊織を迎えに来る。どっちでもいいよ? いつもそんな感じだから気にしないで」

 そんな面倒なことさせられる訳無いじゃないか。
 世の中の女って、みんなそういう事してもらってるのかな?
 いや、チャラ男の周りだけだろう。

「歩いて行きますよ」
「そう? やっぱり伊織は優しいね。じゃあ、のんびり行くか」

 心なしか嬉しそうなチャラ男に、僕はちょっと優しげな気分になっているのだから危ない。

 ナチュラルなチャラ男というのは、本当に人の心を散々乱してから上手く自分に向けることが出来るんだからタチが悪いな。

 気を引き締めていかないと。

 僕は木製扉の玄関にきちんと鍵をかけて、チャラ男と共にアパートを出た。

「伊織って、色素薄い系だよね。髪の色も明るい色だけど、目の色も綺麗なヘーゼルアイだし」
「ヘーゼルアイ……、そんな言葉知ってたんですか」
「んー? 初めて伊織の目の色を綺麗だと思ったあの日にネットで検索した」
「そうですか」

 この会話の流れに、僕は段々と自分の心臓の鼓動が大きくなっていくことに気付いていた。
 もしかしたらバレたかも知れない。

「もしかして、伊織って外国人の血が混じってる?」

 ああ、面倒だ。

 こんなに早く聞いてきた人は珍しいけど、僕はこの質問が大嫌いだ。

「父親が……外国人です」
「へぇー、やっぱりそうなんだ。え? じゃあお母さんとお父さんはどこか別の場所にいるの? あのアパートにはばあちゃんと暮らしてるんだよな?」

 さて、どうするか。

 別に本当のことを話してもいい。
 もうお互い大人なんだし、子どもの頃と違ってそれが原因でイジメになったりすることはないだろうしね。

 だけど、僕にとってはなかなか話すのに勇気がいることだった。
 仲の良いあきらにだって話したのはつい最近のことなんだから。

「あまり良い話ではないですよ。知りたいですか? 僕の秘密」

 隣を歩いていたチャラ男が足を止めた。
 そして僕の方をじっと見つめる。

 男らしく整った顔立ち、ウェーブのかかった髪と刈り上げた部分のある髪型はツーブロックというやつだろう。

 服装だって、カジュアルなものばかりの僕と違ってジャケットにパンツという大人の着こなしだ。

 そんな人が僕のことを好きだと言う。
 僕の秘密を知っても、それは変わらないんだろうか。

 こんなことを考えている時点で、僕のチャラ男に対する見方は最初と少し変わってしまったのかも知れない。

 僕と同じでばあちゃん子だと知ったから。
 僕と同じで馬鹿みたいに仕事に真面目なんだと知ったから。
 僕と同じでばあちゃんの言いつけをきちんと守っていると知ったから。

「知りたい。伊織の秘密」
 
 そう言って、チャラ男は僕をその眼差しで射すくめた。






 
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