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2. 鼻血とチャラ男
しおりを挟むチラリと盗み見たら、チャラ男は何故かヘラヘラしてるし真面目そうな黒髪ロングの女は今にもキャバ嬢風の女に掴みかかりそうな勢いだ。
チャラ男の友人らしい店長が、何やら外を指差してやんわり出て行けと促している。
そのうち、チャラ男と黒髪女、キャバ女は三人で店外へ出て行った。
怪我、しなきゃいいけど。
「なあ、修羅場だったろ? そりゃあ日に日に違う女連れてたらあんなことだってあるだろうよ」
「明、ちょっと楽しい顔するのはやめろよ。大丈夫かな?」
「女相手じゃ、怪我することもないだろ。さ、さっさと残り食っちまおうぜ」
その日はハンバーガーを明と二人で食べてから、明日も仕事があるということで早めに店を出ることにした。
店先で喧嘩してる訳ないと思いながらも二人で外へ出たけど、当然だが三人の姿はなかった。
もう話し合いは終わって帰ったのかも知れない。
「じゃ、伊織。また明日な」
「うん、また明日」
僕と明は店の前で別れて、反対方向にあるそれぞれの家に向かって歩き始めた。
あー、今日も笑顔の作り過ぎで顔の筋肉が痛い。
さっさと帰って寝よう。
「……ちょっと! 待ちなさいよ!」
店を出てすぐ、近くにある市民の憩いの為の公園から物騒な声が聞こえてきた。
これ、絶対さっきのやつだ。
明は居ないし、関わらずに帰ろう。
そう思ってさっさと公園の前を通り過ぎようとした時、あの真面目そうな黒髪ロング女が公園から飛び出してきた。
危なく僕とぶつかりそうになるほどに急いで駆けていく女を見送って、面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだと家の方へと身体を向ける。
だけど何だか嫌な予感が胸をよぎった。
「……まさか、殺されたりしてないよな?」
デイサービスで利用者たちが好んで観ている再放送のサスペンスドラマを思い出して、少々不安になってきた。
あれだと、この感じで公園へ僕が見に行ったらチャラ男の死体が転がってるって流れだけど。
「そんな訳ない。帰ろう」
やはり考え過ぎだと足を家の方へと二、三歩踏み出してから足を止める。
「はぁ……やっぱり、こっそり様子だけ見てこよう」
このまま帰っても気になって眠れないかもしれないから、僕はやはり公園の方へと様子を見に行くことにした。
どうか死体がありませんように。
この公園は広くないから、すぐにチャラ男は見つかった。
まじまじと見るのは初めてだけど、背が高いんだな。
180センチ以上はありそう。
ガチムチでは無いけど、ひ弱な僕と違ってほどよく筋肉が付いてる。
これなら女に殺されることは無いと思うけど……
チャラ男はベンチにダラリと腰掛けて上を向いている。
しかもどうやら顔から血を流しているようだ。
着ているシャツにも赤いシミが点々と付いている。
暫くじっと観察していたが、上を向いたままで動く気配がない。
「え、まじで死体?」
思わず口をついて出た心の声に、チャラ男が顔を動かしてこちらを見た。
「死んでないよ」
顔と服を血まみれにしながら笑う不気味なチャラ男は、ダラリと腰掛けたまま顔だけ真っ直ぐにこちらへ向けて僕とその目を合わせた。
「大丈夫ですか?」
仕方ない、とりあえず当たり障りのないセリフを掛けてみる。
「鼻血、止まんないんだよねー。上を向いてても全然」
なるほど、この血はほとんど鼻血か。
「鼻血出てる時、上を向きがちですけどこうして下を向いてください」
僕はスッと近づいて、チャラ男の高い鼻の付け根を押さえ下を向かせる。
それにしても男らしくて凄く整った顔立ちをしてるな。
そりゃあ女たちが取り合う訳だ。
「え、下向くの?」
「はい。じゃないとなかなか止まんないし、血液が喉に流れ込んじゃうので」
チャラ男の鼻の付け根を押さえながら、僕は淡々と説明する。
何なんだ、この状況。
「ここ、しっかり押さえててくださいね」
しばらく押さえてから、そっと手を離して自分で押さえておくように伝える。
「ありがとう」
チャラ男は僕に言われた通り、素直に下向きのまま御礼を述べた。
僕はバッグからタオルを出して公園の水道で濡らしてからチャラ男の顔についた鼻血を拭き取ってやった。
服の方はシミになってるから下手に触らない方が良さそうだ。
「こんな血まみれの顔じゃ帰れないでしょう」
「タオル……、血まみれになったけど。ごめんね」
「別にいいです。高いもんじゃないし」
チャチャッと目につく鼻血を拭き取ってから、僕はタオルをチャラ男に手渡して帰ることにする。
「それ、捨ててくれていいですから。それじゃ」
「えっ! ま、待って!」
まだ鼻の付け根を押さえたままのチャラ男が、慌てた様子で話しかけてくる。
僕はさっさとこの場を去ろうと半分背中を向けているのに。
「……何ですか?」
相変わらず我ながら素っ気ない声だ。
「御礼! 御礼しなきゃなんないし、タオルもまたどうにかして返すからさ! またグッドネイバーズで会える?」
チャラ男、僕がグッドネイバーズの常連客だと覚えてたんだ。
さて、どうするか。
「いえ、気にしないでください。別に大したことじゃないし。タオルも捨ててくれていいです。では」
「えっ! 待って待って! じゃあさ、名前! 名前教えてよ!」
「……嫌です。さよなら」
僕は面倒なことになったと思ってとりあえずその場を去ることにした。
しばらくグッドネイバーズにも行けないな。
「え……、マジか」
後ろの方から呆然とした声でそう呟くのが聞こえたけど、放置してさっさと家へ帰ることにする。
チャラ男と関わると面倒なことになりそうだ。
思わず手を貸してしまったけれど、今後もチャラ男と関わる気はない。
僕は今日はさっさと帰って寝ようと心に決めて、早足で家路へと急いだ。
それがまさかあんなことになるなんて、その時は夢にも思わずに……。
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