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23. 国王陛下は温かいお方でしたのよ

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 本日、多忙でなかなか叶わなかった国王陛下へ御目通り願うこととなりましたのよ。

 私は皇太子殿下の婚約者として陛下に拝謁するという久々の緊張感に身体を硬くしていましたわ。

「殿下、私おかしくはないでしょうか?」
「タチアナ、緊張しているのか?大丈夫だ。私が傍にいるから心配するな。」

 あれ以降とても甘々な雰囲気を醸し出すのが当然となった皇太子殿下は、常に私を勇気づけてくれるのです。



 謁見室の重厚な扉がゆっくりと開き、赤い絨毯が敷かれた数段の階段の先に豪華な玉座が見えました。

 私と殿下は玉座の前へと進み、跪いて頭を垂れましたわ。

 そのうち衣擦れの音がして、陛下が玉座へと進み席へつかれた気配がいたしましたの。

「セドリック、ドゥイエ伯爵令嬢タチアナ。面をあげよ。」
「「国王陛下へ拝謁いたします。」」

 今日は正式なご挨拶ですから、セドリック皇太子殿下も私の傍で陛下へ拝謁いたしました。

「タチアナ嬢、此度我が愚息セドリックの婚約者となってくれたことは大変喜ばしいことだ。今後妃教育を経て立派な皇太子妃となるべく努力を重ねなさい。」
「承知いたしました。今後も精進を重ねます。」
「陛下、タチアナは美しいだけではなくとても聡明な御令嬢です。きっと私の政を助けてくれるでしょう。」
「よろしくお願いいたします。」
「良い良い、そのように堅苦しいのはもうなしにしようぞ。これからセドリックと仲良くこの国の為、そして民の為に尽くしてくれれば良い。タチアナ、もうお前は私の娘も同然だ。幼い頃に決めた婚約者が妃教育から逃げ出して、セドリックはもう二度と自ら望んで結婚をしないのではないかと心配していたところにタチアナを選んだ。それだけで私は安心したからな。」

 見た目は厳しくも見える陛下は、皇太子殿下と同じでとても温かなお方でしたのね。


――無事謁見を終えた私は、続けて妃教育の教師たちとの顔合わせ、そして本日から早速この国では初めての妃教育へ取り組むことになりましたのよ。

 妃教育の内容は……「ラガルド王国についての総論」「国内の宗教・祭祀について」「王室制度史」「王室法制」「王族の儀式、行事及び王室典範」「ラガルド王国の歴史」「乗馬」「音楽(楽器演奏、歌唱、ダンス)」「絵画」「礼儀作法の確かめ」「ラガルド王国憲法について」「近隣諸国の言語」など多岐に渡りますわ。

 私はブーランジェ王国の妃教育は受けてまいりましたが、ラガルド王国の詳細なことについてはタチアナ嬢に成り代わった時に自分なりに学んだだけですのでまだ不十分なのです。

 それでも、久しぶりの緊張感と私の学んできたことを発揮できる場があるということは、とても良い刺激になりましたのよ。



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