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20. 婚約破棄が成立いたしましてスッキリしましたわ!
しおりを挟む――あの衝撃の仮面舞踏会の日、アルバン様は皇太子殿下の御名のもとお約束なさいましたので、私との婚約は破棄することになりましたのよ。
私はドゥイエ伯爵家へカルザティー侯爵家から何らかのお咎めがあるかと心配しておりました。
しかし、皇太子殿下がカルザティー侯爵家へ向けて今までのアルバン様の私への理不尽な行動を大変遺憾に思っていると伝えたことで大きな問題にならずにすんだようですわ。
奇妙な性癖の事はカルザティー侯爵家へは伏せてくださったようなので、アルバン様も強くでることができずに大人しく従ったようですの。
「とりあえず、もう私はアルバン様の婚約者ではなくなったのですね。」
真っ白な家具と調度品で囲まれた自室は居心地が悪く、取り急ぎ全ての家具を私の好みのものに入れ替えましたわ。
マホガニー素材の家具たちは、これから経年変化によって艶と赤みのかかった色へと変化していき、落ち着いた雰囲気のお部屋になるでしょう。
天蓋が血のように赤い寝台もさっさと取り替えて、光の透ける薄い素材を使った落ち着くものに取り替えました。
「私とタチアナ嬢の人生はこれからが本番なのですわ。」
新たな人生の始まりに、私はタチアナ嬢の日記を暖炉で燃やしました。
そして毒の入っていた小瓶はこっそり叩き割って処分いたしましたの。
――コンコンコン……
「お嬢様、旦那様と奥様がお呼びでございます。」
侍女ではなく家令のクリストフがわざわざ私を呼びに来る事は珍しいことですから、何かあったのでしょうか。
クリストフについて廊下を進みますが、どうもクリストフの様子がいつもと違うのです。
「クリストフ、どうかなさったの?」
「お嬢様、驚いてはいけませんよ。お嬢様は昔から大人しくて控えめな方でしたから、この度のお話を知って倒れてしまうのではないかと、この爺は心配しておるのです。」
「倒れるほどショックなお話ですの?」
「それは……まあ。とにかく、お気を確かに。」
どうしてか段々と不安になってまいりましたわ。
そうこうしているうちにお部屋に到着してしまいました。
――コンコンコン……
「お嬢様をお連れいたしました。」
「入りなさい。」
「失礼いたしますわ。」
部屋に入るなり、とても難しい表情をなさったドゥイエ伯爵ご夫妻がソファーへと促しましたのよ。
「タチアナ、アルバン様のことは気づいてあげられずにすまなかったね。」
「タチアナ、私たちを許して。貴女の幸せを信じて疑わなかったのは私たちの罪だったわ。」
まずお父様、続いてお母様が謝罪を口にされましたので私はすぐに言葉を返しましたわ。
「お父様もお母様も悪くありませんのよ。悪いのは元婚約者のアルバン様なのですから。それに、私の方こそ我儘を申しまして婚約破棄などと少なからず伯爵家の名を傷つけることをしてしまって申し訳なく思っていますのよ。」
私は私のために、たまたま皇太子殿下の計らいでこの選択をいたしましたが、本来であれば家同士の繋がりの婚約を自分だけの意思で破棄するなど許されることではなかったのですから。
「タチアナ、それは大丈夫だ。もうお前には次の婚約の申し込みが来ていてな。それが……、とても光栄なお相手なのだが、我が家のような伯爵家からそのような名誉を賜って良いものかどうか……。それに、タチアナの性格を考えるとそのようなお役目が務まるかどうか……。」
何やらゴニョゴニョとはっきりおっしゃらないお父様をお母様が冷めた目で眺めていらっしゃるのですわ。
「あなた、もう宜しいわ!タチアナ、貴女にセドリック皇太子殿下から皇太子妃に是非と申し込みが来ていますの。貴女はセドリック皇太子殿下と結婚してこの国の皇太子妃となり、このラガルド王国を支えていく決意があるかしら?」
そういえば先日の仮面舞踏会のテラスでのことを思い出しますと、そのようなことをセドリック皇太子殿下がおっしゃっていたような気がしてまいりました。
『タチアナ嬢、答えてくれないか。貴女は今の状況に満足しているのか?貴女が望むならば、私は貴女をこの国で一番高貴な女性にする準備がある。』
あれは確かに私に対する求婚でしたわ!
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