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11. アルバン様の狙いは何ですの
しおりを挟む――最近、アルバン様のお知り合いのサロンやお茶会に二人で招かれたりすることが増えましたわ。
どうやらアルバン様は、私が他の男性と話す機会を自然に見せかけてわざと作っているような気がいたしますの。
「もしかしてアルバン様にはどなたか意中の方がいらして、私の不貞による婚約破棄を望んでらっしゃるのかしら?」
そう感じるくらいには、アルバン様と出かけた際に私が他の男性と接する機会が多いのです。
もし本当にそうだとしたら、タチアナ嬢からすればとてもお辛かったでしょうね。
「タチアナ、俺はあちらで煙草を嗜んでくるからこの辺りで待っていろ。誰か話しかけてきても、失礼のないように対応するように。」
「はい。承知いたしましたわ。いってらっしゃいませ。」
本日はアンリ侯爵様からのご招待でサロンへと伺っております。
もう幾度かアルバン様が私の傍を離れるとすぐに、他の紳士たちがお声をかけにいらっしゃり私はとても困るのです。
普通は頻繁に婚約者を一人置いて席を離れるなどしないものですわ。
ああ……ほら、またこちらへと殿方が近寄っていらっしゃいますわ。
「タチアナ嬢、ごきげんいかがですか?あちらで美味しいお茶を二人で一緒にいただくのはどうです?」
「ゴベール男爵様、ごきげんよう。とても嬉しいお誘いではありますが、私アルバン様をお待ちしておりますので……。」
「少しくらいいいじゃないですか。アルバン侯爵令息もしばらくは帰ってきそうにありませんし、貴女も立ったままではお疲れでしょう?あちらの休憩室でお茶を準備させておりますから是非に。」
「申し訳ございません……。」
「タチアナ嬢の今日のドレスは、いつもにも増してとても美しい。貴女の髪色と瞳にピッタリのドレスですね。さあ、あちらの明るいお部屋でよく見せていただきたい。」
「ゴベール男爵様、困りますわ……。」
少しばかり強引なゴベール男爵はなかなか引いてくださらず。
失礼な態度を取ればアルバン様に怒られてしまいますし、あまり騒ぎにしたくもありませんのでどうしたものかと考えておりました。
「ゴベール男爵、タチアナ嬢とは私が先に約束をしていたものでね。アルバンにもタチアナ嬢の様子を見てくるように頼まれたんだ。よろしいかな?」
そこに現れたのは、先日お会いしたばかりの皇太子殿下ではありませんか。
流石に皇太子殿下相手では何も言えず、ゴベール男爵は素直に去って行かれました。
「皇太子殿下、お声をかけてくださり大変助かりましたわ。どうもありがとう存じます。」
「タチアナ嬢、大丈夫か?アルバンはどこへ?」
あら?皇太子殿下はアルバン様から頼まれたのではなくて?
私が思わずキョトンとしたお顔をしてしまったからか、皇太子殿下はフフッと吹き出すような笑いをこぼしておっしゃいました。
「先程アルバンに頼まれたというのは嘘だ。アルバンはまだ遊戯室でタバコをやっていたし、友人たちとの会話もまだしばらくはかかりそうだ。」
「そうなのですか。それはわざわざお手数をおかけいたしましたのね。」
「気にしなくても良い。それよりタチアナ嬢、最近貴女の雰囲気が随分変わったと社交会では噂になっているが、それは何かキッカケがあるのかな?」
「まあ、そうなのですか?そのようなこと全く存じ上げませんでしたわ。」
図星をつかれた気がいたしまして、ついはぐらかす様なことを申し上げてしまいました。
「すまない。私は自分が興味深いと思ったことはすぐに答えを求めてしまうタチでね。」
目を細めて意味ありげな微笑みをたたえながらこちらを見つめる皇太子殿下。
不思議な色彩のアースアイを見つめていると吸い込まれてしまいそうな不思議な感覚に陥りますわ。
「キッカケなどありませんわ。ただ、これから私は私らしく生きてゆきたいと思った次第ですの。」
「へえ……。先日会ったタチアナ嬢は、アルバンから聞いていた雰囲気とも随分違うと私も気になっていたんだ。あの日のカーテシーと、難易度の高いダンスはとても優雅で見事だった。しかしアルバンからは、常に控えめで大人しい性格だと聞いていたから、その差異に驚いたんだ。」
「お褒めに預かり光栄ですわ。あの日はアルバン様とつい張り合ってしまうなどと、つい淑女らしからぬことをしてしまいましたのよ。」
品良く整った顔立ちの皇太子殿下にこちらをじっと見つめられると、私が本来のタチアナ嬢じゃないと露呈するのではと、とても居心地が悪く感じました。
そこで、このサロンを開かれたアンリ侯爵様御本人のことについてや、アンリ侯爵様がなさっている事業についてしばらく殿下と談話をしてひとまず誤魔化すことにいたしましたのよ。
「タチアナ嬢は随分と博識なんだな。他国の情報にもこんなに精通しているとは思いもよらなかった。ご婦人方はあまり政治や外交については関心がないのが普通だからな。貴女のように的確な意見を述べられる方はそういないだろう。」
「私はたまたま学ぶことが必然だっただけですわ。皇太子殿下のような聡明なお方にはお聞き苦しいところもあったかと存じますが、お許しくださいませ。」
皇太子殿下は、見た目だけではなく内面も素敵な方で私の居たブーランジェ王国をはじめ、他国との外交や政治についてとても熱心なお方だったのですわ。
「セドリック殿下?タチアナ、二人揃ってどうしたんだ?」
やっと遊戯室からお帰りなったアルバン様が私と皇太子殿下が話をしているのを見つけて、ひと時怪訝なお顔を致しましたわ。
「私が困っていたところを殿下が機転を利かせて助けていただいたんですわ。」
「アルバン、タチアナ嬢は美しく聡明な御令嬢だからな。他の男がしつこく言い寄っていた。お前も婚約者ならばきちんと守ってやらねばならんぞ。」
「それは申し訳ありません、殿下。お手間を取らせました。タチアナ、そろそろ失礼するぞ。」
一瞬鋭い視線を私の方へと向けて、アルバン様は私の手首を強く握ってきたので私は痛みで思わず顔を顰めてしまいましたの。
そして二人で殿下にご挨拶を済ませてから、すぐにその場を辞することといたしましたわ。
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