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7. 私とタチアナ嬢のはじめての味方ですわ
しおりを挟む「まあ、この生地はとても素敵ですわね。」
この辺りで一番古くからある仕立て屋へと足を踏み入れた私は、店内に所狭しと置いてある生地を見て感嘆の声をあげるしかできませんでしたわ。
珍しい異国の布地や美しい刺繍が細かい布地、見たことのないような織り方のものまで、様々な生地が置いてあったのですもの。
「お嬢様はお目が高い。こちらの生地は異国の生地ですが、とても綺麗なお色と繊細な刺繍が素晴らしいお品ですよ。」
「そうですわね。なかなか見られない逸品ですこと。」
出迎えたクチュリエは眼鏡をかけた年配で、白髪をピシリと撫で付けて後ろでシニヨンにまとめた一見厳しいお顔つきの女性でしたわ。
私が一番気に入った生地はお色味がピーコックグリーンでそこかしこにキラキラとした小さな石が縫い付けられているお品でしたの。
「これにしますわ。腕効きの職人である貴女が良いと思うところに、銀糸で繊細なデザインの刺繍を入れたらもっと素敵だと思うのだけれど、どうかしら?」
「はい。大変よろしいかと思います。」
クチュリエのご婦人は眼鏡の奥の鋭い目つきをほんの少し緩めてシワを作り、口元に弧を描きながら満足そうに微笑んでくださいました。
「では、舞踏会までと少し急かしてしまうのですけれど……よろしくお願いいたしますわ。きっと良い仕事をしてくださると信じております。」
「お任せください。お嬢様の目利きには感服いたしましたよ。出来上がりましたらすぐに連絡さしあげます。」
とても良いお買い物ができたと喜んで馬車に乗り込みましたわ。
「お嬢様、まるで別人のようになられましたね。以前ならばアルバン様の言いなりでしたのに。」
「アン、私はね決めたんですの。もう自分の思う通りに行動しますわ。ドレスも、部屋の調度品もこれからは好きなようにしますの。」
アンによるとあの天蓋だけが赤く、部屋中が真っ白で奇妙なお部屋は元々あった調度品をすべてアルバン様が引き払ってしまい、白い調度品のみを飾るようになったそうですわ。
それにワードローブが白いドレスばかりなのも、同じくアルバン様の計らいとのこと。
「お嬢様がアルバン様と婚約されてしばらくしてから塞ぎ込むことも増え、表情も段々と乏しくなってきていましたから、最近の明るいお嬢様を見ていて安心しているんです。」
このソバカスが可愛らしいアンという侍女は、本心からタチアナ嬢のことを心配しているようですわ。
タチアナ嬢にもそれが伝わっていれば、また結果が変わっていたのかしら?
「ねえ、アン。これからも私の味方でいてね。」
「もちろんですよ。お嬢様。」
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